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長官は、苦肉の策をねる。(2)

ちょうど焼き上がったお好み焼きを出すと、一口食べて、目を丸くし、続いてがつがつと食べ始める。

「まだいる?」

聞くと、無言でモグモグしながら目だけこちらを向き、うなずくので、次を焼き始める。

多めに買っといて良かった。

それまでは、上手にひっくり返せるのは誰か選手権をしたり(ちなみに一番はフィラード)、乗せてみたい具をいろいろ話したり、和気あいあいと食べていたのだが、イルディンの鬼気迫る食べっぷりに、みんな呆気にとられている感じだ。

「女性の手作りご飯を、そうがつがつ食べるなんて、マナーに反するぞ。もうちょっと味わえ。」

空気を読まないフィラードが、あきれた声で注意した時、一枚をぺろりと平らげたイルディンが血の気が戻ったかおで一息ついた。

「・・ああ、すまない。だが、おかげで助かった。」

「相変わらず忙しそうね。」

花は、労りを込めた視線を送る。

これならば、まだ、山賊に捕まっていた初対面の時の方がましと言うくらいやつれていた。

「ああ。ここ最近まともに食事をとっていなかったからな。今日の誘い、思い出して良かった。」

「俺のおかげだぞ、イルディン。」

と、得意気にフィラードが言う。

どうやら、仕事で王宮に来たフィラードは、法務部を訪れ、そこで花の話になって今日のことを知ることになったらしい。

「皆さん、あらかじめ招待されてたんですね。僕は今日誘われたのに・・」

ちょっと拗ねているミリエルには、「いや、みんな忙しそうだし・・」と言いかけ、余計拗ねさせることに気づいて「あははは」と笑ってごまかしておいて。

「北の領地で、何かあったの?」

とフィラードに聞く。

お世話になった地のことだ。気になる。

マルコフさん夫妻は元気だろうか。

「ああ、たぶん、それについては、ポチ君の方が詳しいんじゃないか?」

フィラードがちらりと、お腹パンパンで満足そうなコボルトと精霊の方を見た。

ポチとリリーは顔を見合わせたあと、

「あの件か。」

「あの件かな。」

声を合わせる。

二人によると、最近、やたらと魔力の強いポチを頼って、魔物たちが北の森に集まってきているのだという。

特に王都に近いところにいた魔物たちが増えている。彼らはあまり理由を言いたがらないが、身を守りたくて移動してきたらしい。

ポチの魔力が強いのは、花に名前をもらい、契約しているから、なのだが。

しかもポチの場合、森の精霊リリーとも仲良しなため、森で万が一危険があればかくまってもらえる。

淀みだけが消え、魔物たちは残った。

神様の『迷い』を形にした彼らは、今、どう生きるかを模索中なのだという。

「その辺りの話を聞くと、むやみに討伐隊をだしたりはできないと思っている。少なくとも人間を襲うことはないのだしな。」

花が、ポチの言葉を通訳すると、フィラードは難しい顔で言う。フィラードも、領主として、領地に魔物が集まっている現状をどうすべきか悩んでいるのだ。

「イルディンが忙しいのもそのこと?」

二枚目を切り分けて渡しながら花は尋ねる。

「いや、今は外国からの視察要請と、グランキン伯爵の動きのせいだな。」

聖女が召還され、教育を終えた。

淀みが一気に消えたのも、魔物が消えずに残っているのも異例の事態だ。

しかも、魔物たちは、人間を襲わず、それぞれ思い思いに動き始めた。

今後どうすべきか。

聖女の派遣、もしくは聖女への謁見を求める使いが多く来ているらしい。

しかし、聖女の存在は、国の大きな切り札の一つだ。

浄化の緊急性がない以上、外には派遣したくないし、謁見も信用できる相手かを慎重に見きわめる必要がある。

「そもそも、聖女というのは異世界からの国賓だ。この国で丁重にもてなし、不自由のないようにしなければ・・そんな目で見るな。」

イルディンが話を途中で切ったのは、花とミリエルが同じ目で冷ややかに見つめていたからである。

いや、あまりに現実とかけはなれていたもので、つい。

そもそも、始まりが投獄、である。

一連の騒動のあと、花はセリウス王から正式に謝罪をうけ、この離れを住まいとして与えられた。

だが、それ以上のことはなにもない。

こちらから求めれば大抵叶うそうだが、自分のことは自分でできるし、何も要望はない。

しかも、強みである称号は、付加価値がありすぎて、人前で使うことは基本、禁止されている。

「もったいないですよね。お好み焼きもとっても美味しいし、花の作るポーションも、その気になれば一財産築ける代物なのに。」

まあ、食堂でのバイトも、働いている!という感覚は気持ちいいからよいのだが。

「その辺は、花がこちらの意を汲んでくれているから、とりあえず後回しにさせてもらっている。この離れの敷地は結界が張ってあるから好きにしてもらって構わないしな。」

それよりも、とイルディンは続ける。

「グランキン伯爵が、怪しい。」

調査は進めているが、おとなしくしていないことだけは決定的で、ただ、全容は分からない。

「内部に誰か潜り込ませたいが、適任者がいないんだ。」

仕事はなかなか進まないようで、頭を抱えている。

よほど困っているのだろう。

しかし、謹慎中の屋敷に潜り込むとなると、方法は限られる。

「友達の精霊にきいてみる?」

リリーが申し出てくれる。屋敷に精霊の力を借りているものがいればいけるかもしれない。

「屋敷に入るなら、給仕かメイドだよね。違和感のないようにというのが難しいな。」

フィラードが考えながら言う。

「グランキンか。正面から行くのなら喜んで加勢するがな。」

ポチは目をぎらりと光らせる。

「よく考えたら、ここにいるのってすごいメンバーですよね。王位継承権のある領主に精霊に魔物に聖女様・・」

ミリエルはあきれたように言うが、彼も聖女召還ができる唯一の神官だ。確かに、なかなかない集まりである。

皆が好きなように話すなか、花は、ふと思い立って『称号』を確認する。

そして、ぽつりと言った。

「私、潜入、できちゃうかもしれません。」

初めはぎょっとしていた面々だったが、花の話を聞くうちに、花以上の適任者はいないのではないかと全員、思いはじめる。

すぐに、作戦会議に移行し、潜入の手筈が整えられていく。

仕事が思わぬ場所で大きく進んだイルディンは、しかし、大きなため息をついた。

一人、呟く。

「使えすぎるんだよ、この聖女様は。これじゃ国賓でもてなすのがもったいなくなっても、しょうがないって。」

能力も、人脈(人以外も含め)も。

どうしても頼りたくなってしまう。

(今回だけだ。これは、苦肉の策だ!)

イルディンは、自分の心に言い聞かせて、会議に参加する。

やるからには切り替えて、万全の体制を整えなくては、ならない。

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