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聖女は、バイトに励む。

「いらっしゃいませー!」

王都にある、定食屋『モニカ』で、ハリのある声がとぶ。

『変幻』で銀色の髪、青い瞳になっているが、声で、分かる人にはすぐ分かるだろう。

王宮の離れで聖女として暮らす傍ら、イルディンの許可を得て、花はバイトをしていた。

許可が出た理由は、庶民の暮らしを知るため。

花の目的は、単純明快に、お金を稼ぐためである。

バイトを始めて1ヶ月。

今日は、初の給料日である。

うきうきするなと言う方が無理な話だ。

「頑張ってますね、花。」

聞き慣れた声に振り返ると、入り口のところで、銀髪に細目の神官が軽く手を降ってきた。

「ミリエル!!」

花は満面の笑みでお迎えする。

いろいろあった1ヶ月前。

しばらくは王宮の離れにミリエルも泊まっていたが、やはり本業が気になるというので、王都の教会に戻っていた。

もともと、ほとんど訪れる人もなく、一人暮らし。

几帳面な性格のため、片付けもちゃんとしていて、綺麗なものだったが。

「僕もできること、するんです!」

そういって最近は教会に人が来てくれるようにいろいろ考えてはいるようだが、やはり暇そうだ。


「いらっしゃいませ!日替わりでいい?」

「ええ。お願いします。」

水を持っていくと、ミリエルがにこやかに答える。

「エリザさん!日替わり一つです!」

「はーい!」

店の奥に声をかけると、柔らかな声で返事がある。

『モニカ』は店主兼料理人のエリザさんが女手一つで切り盛りしている定食屋だ。

メニューは多くはないが、旬の食材に適切な手間をちゃんとかけた丁寧な料理には定評があり、ファンも多い。

最近ホール担当の子が一人やめ、バイト募集中の時に、ちょうど花がはまった形だ。

王宮からも近く、勤め人たちもよくくる。

だが、一部の人間を除いては、花が聖女であることを知らない。

面倒なので、『変幻』で目立つ黒髪と黒い目の色を変え、ミリエルの遠縁ということにしている。

つまり、今の花の身元保証人はミリエルである。

「お待たせしました。」

花は、エリザさんから受け取ったお盆を運んだ。

「今日の日替わりは、キノコのスープ、季節野菜のサラダ、ハンバーグです。パンのお代わりはご自由に。」

メニューの説明も手慣れたもの。

前の世界では週6で何かしらバイトをしていた。何もしないでいいと言われる方がストレスがたまるくらいだ。

忙しく動き回りながら、タイミングを見てお代わり用の籠いっぱいのパンを持っていく。

ミリエルは、クロワッサンを二つ取ってさっそくかぶり付く。

「お気に入りだね、クロワッサン。」

花が話しかけると、ミリエルはモグモグしながら、

「これ、美味しいです。さすが、花のレシピですね!」

と絶賛。

もともと、店では、フランスパンとフォカッチャが提供されていた。何か柔らかいパンはないかとエリザさんに聞かれ、ロールパンとクロワッサンを提案したのだが。

『パンシェルジュ3級』は、最近は俳優さん、女優さん、タレントさんで取っている人も多く、かなりポピュラーな検定だ。

この世界では『パンの賢者』というシンプルな名前の称号となっている。

レシピは伝えたものの、作り方は身振り手振りで伝える必要があり、エリザさんの能力が高くなければ実現しなかったと思う。

花は、会話には困らないが、字で表現することができない。

この世界の文字と文法は、前の世界とはかなり違い、単純に文字を学んだだけでは読み書きができないのだ。

夢を叶えるためにはそれも必須だが、今は他にも優先順位が高い案件があるため、保留中。

また花は、とある事情で、ミリエルやイルディンなどの例外を除いては人前での調理を禁止されている。

なので、材料の配分から作り方から焼き方まで、口頭でエリザさんに伝えながら、やっと完成までこぎつけたのである。


「あ、そういえば、ミリエルは今夜忙しい?」

思い出して聞いてみる。

「え?いや、予定は入っていませんが・・」

「良かった!今夜、家で夜ご飯食べない??」

花にはある計画があった。

給料日の今日、やっと実現する。

「お好み焼き、作るよ!」

「行きます!」

ミリエルの返事は、食いぎみで返ってきた。



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