表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/90

聖女は、夢を語る(2)

謁見の間に足を踏み入れると、ひんやりした澄んだ空気を感じた。

中央に椅子がある。

そこに座ると、意識が一瞬遠のき、頭の中にまた、あの声が響いた。

『よく、ここに来ましたね。あなたに会えるのを楽しみにしていました。』

目の前にふわふわ光の玉が浮かんでいる。

「神様、なのよね。えーと、よろしくお願いいたします?」

『普通でいいですよ。』

声は笑いを含んでいる。

「浄化の力を授かる、のですよね。」

確認すると、返ってきた答えは意外なものだった。

『・・あなたは、この世界は存続する価値があると、思いますか?』

何を聞かれているのだろう、と花は思う。

そして、答えたらどうなるのだろう、とも。

花が黙っていると声は続ける。

『淀みは、私の迷いなのです。そこから生まれるのが、魔物です。』

世界を創造し、育てていく長い時間。

人の争いの醜さをみるたびに、このままでよいのか、迷ってしまう。

自分の生み出した愛しい存在。

でも、時に、滅ぼしてしまいたくなる醜い存在。

相反する思いが淀みを生み、魔物が現れる。

『だから、異世界から来た聖女に聞くのです。あなたは、どう思う?と。』

聖女教育は、この世界について知ってもらうため。

歴代の聖女はこの問いに答えてきた、ということか。

「価値がない、と答えたらどうなるの?」

『世界は夢のように消えるでしょう。』

「私は?」

『あなたは、もといた世界に戻ります。召還された、あの瞬間に。』

なんて、残酷な質問なのだろう。今になって、帰る道を示すなんて。

「価値がある、と答えたら?」

『あなたが私の迷いを晴らせたら、浄化の力を与えましょう。そのかわり、あなたは、この世界の行方を、見届けなければなりません。』

花は、考える。

もし、二日以上前に聞かれていたら、悩んだだろうが、帰る道を選んでいたかもしれない。

でも、自分を受け入れてくれたこの世界の人達のことを、もう消す選択はできない。

聖女として生きていこう、という覚悟は、もうしてきた。

だが、花は「浄化」という言葉に、違和感を覚える。

「ポチが言ってました。魔物は必ず人間を襲わなければならないわけではないって。」

『あなたが使役したコボルトですね。』

あの時、リリーに連れていかれて、ポチと会わなければ。

絶対に考えもしなかったことを、花は言う。

「浄化の力は、必要なのでしょうか?」

淀みは迷いだと言った。

神様でも迷う。

でも、それは、相反する気持ちのどちらも正しいからだ。ならば。

「迷いから生まれる魔物も、受け入れませんか?」

『・・初めてですね。そんな事を言う聖女は。』

魔物が何かを傷つけたときには、戦わなくてはいけなくなるかもしれない。

でも、存在するだけなら、共に世界の一部として生きていけばよいのではないか、と花は思う。

魔物の存在を否定するほどには、人は美しくない。

でも、人間も滅ぼさなくていい。

なぜなら、人は、成長するからだ。

迷いも弱さも受け止めて、それを未来への力にできるからだ。

魔物が神様の迷いだというなら、人間はそれを受け止めて、進むべきなんじゃないだろうか。

「そういう力なら、ありがたくいただきます。」

『分かりました。それがあなたの浄化の形なのですね。ではあなたには、力ではなく、加護を与えましょう。どうするかは、あなたに委ねます。』

光が花を包む。加護が何なのか、分からないまま、花は柔らかい光をまとう。

『見届けてくれますか?この世界の行方を。私と共に。』

「いいわ。私はこの世界で生きる。やりたいこともあるし。」

『今回の聖女は、面白い。花、私の迷いを受け入れたのは、あなたが初めてです。』

神様も、孤独を感じたりするんだな、とぼんやり考えていると、

『では、花。またいつか会いましょう。』

声が響き花は元の部屋に戻されるのを感じる。

「ちょっと待って!加護ってなに?私はみんなになんて説明すれば!!」

『すぐにわかりますよ。あなたにも、皆にも。淀みは、消えてしまいそうだから』

最後に聞こえた声は、明るかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ