聖女は、夢を語る(1)
部屋のなかはいたってシンプルで、家具も、装飾品も、なんなら窓すらもない。
ただ床に、不思議な模様が書かれた絨毯があった。
「ここに立って。王宮に飛ぶ。」
フィラードに言われる。
だが、花としては躊躇がある。
「テレポート、ですか?」
経験は二回。
こんなドレスを着て、ヘアメイクをして、テレポートなんて、悲劇の予感しかしないのだが。
「ああ、まあ、テレポートだな。だが、イルディンの魔法とはかなり違う。最高級のケアがしてあるから、心配ない。」
・・なんかいろいろ聞いてるっぽいな。
ならば、信じてみよう、と絨毯の模様に足を踏み入れる。
ミリエルとイルディン、フィラード自身もそこに入ると
「ではいくぞ。・・テレポート。」
短い言葉と共に、四人は転移した。
最高級のケア、というのは本当だった。
移動が分からないくらい、スマートに転移したため、最初は本当に移動したのか分からなかった。
転移先の部屋のドアを開けると、明らかにフィラードの屋敷とは異なり、ああ、王宮なのだと納得する。
先に行くところがある、と言いながらズカズカ歩いていくフィラードについて、歩く。
「ねえ、ミリエル。」
「なんですか?」
花はつい気になってこっそり尋ねた。
「転移って便利だけど、王宮の中に移動できちゃうなんて、ちょっと無用心すぎない?」
暗殺者とかが入ったらどうするのだろう?
するとミリエルが笑顔で言う。
「大丈夫です。テレポートが使えても、王都にすら移動できません。イルディン様が森にいたのも、あの辺りまでがテレポートの限界だからです。」
ん?でも、今実際に王宮にいるんだよね?
考えていると、ミリエルが続けて説明してくれる。
「あの絨毯に書かれた魔方陣でだけ移動できるんです。あれが使えるのは五人。王位継承権第三位までの方と、王様と、王妃様だけです。」
「なるほど。王様なんかは、逆に一瞬で王宮に戻った方がいいこともあるか。・・ん?」
じゃあ、フィラードが使えるのはなぜだろう?
「フィラード様は、現王の兄君です。今王様の皇子は一人なので、継承権としては皇太子に次ぐ第二位にあたります。」
「えええええ!?」
知らなかった。
なんか、きっと事情があるんだろうな。
とりあえずは深入りしないことにする。
だが。
「会いに来たぞ。久しいな、セリウス。」
扉の守衛を顔パスして、フィラードが開けたドアの先には、目を丸くした人物。
「兄上!なぜここに??」
この声は、聞き覚えがある。
あの時のせりふは、「よきようにいたせ。」だった。
つまり、現王である。
ただ、あの時イメージしていたよりも、若くて気弱な感じだ。
「なぜここに?じゃないよ。セリウス、お前、僕、頑張るから!とかいうから、王位も譲って、治めにくいと言われた北の領主に納まってやったのに、危うく聖女様を処刑するとこだったらしいな。」
フィラードは、王に対しても言葉を選ばない。
言われる王の方は、怒りもせずあたふたしている。
この二人、地位はともかく、関係は一目瞭然である。
・・大丈夫なのかな、この国。
ともあれ、兄弟の話は一旦後にして、スムーズに花は謁見の間に案内された。
「フィラード様は、前王の側室のお子様なんです。」
ミリエルが簡単に事情を説明してくれる。
「セリウス様が正室からお生まれになって、王位をめぐる争いが予想されたのですが・・。」
フィラードがすっと北の領主に納まったことで何事もなく体制が組まれたのだそうだ。
今回は、セリウス王の「よきようにいたせ。」がグランキンを助長したため、フィラードが事態の収集をかって出たらしい。
「フィラード様なら、謁見の間を出る頃には、いろいろ丸く納まっていると思います。」
なんだか、それは、そんな気がする。
謁見の間に入れるのは、教育を終えた聖女のみ。
扉が開かれた。




