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弱虫神官は、磨かれる。

なかなか眠れぬ夜を過ごした翌朝。

「花!あれは一体なんだ!?」

乙女の寝室に入って第一声がそれ?と思いつつ、妙にギラギラした目のイルディンに花は返す。

「あれって何?」

「あの酒瓶の中身だよ。おかしいだろあんなの!」

ああ、あれね。

「ポーション、みたいな?材料は薬草よ?」

イルディンは、かなりの混乱状態らしい。言葉づかいが荒い。

とりあえず落ち着いてもらって話を聞くと、グランキン達の後始末・・もとい、眠りの解除と、別荘での謹慎を説得して結界をはる、といったことを済ませて、早朝、最後の力を振り絞ってテレポートしてきたらしい。

花が作ったと聞かされ、興味もあり、一口飲んだということだ。

見たところ、全回復しているように見えるのだが。

「あり得ない!あり得ないんだ!!」

イルディンはぶつぶつと言っている。

「一口だぞ?一口で、全回復だ。しかも、しかも、最大MPが増えてる!!ヤバイだろあんなの!」

どうやら何かやらかしてしまったようだ。

「朝から元気ですね、イルディン様。おはようございます。」

そこへミリエルが入ってきて、やっとイルディンは正気に返ったらしい。

「ああ、とりあえず出るか。支度できたら降りてきてくれ。あのヤバイポーションについては後でだ。」

・・回復するんだからヤバイ呼ばわりはやめてほしい。


すぐに王都に向かうのだとばかり思っていたのだが、花たちが連れてこられたのは、森と反対側にある大きな屋敷だった。

この地方の領主の家らしい。

屋敷に入ると、イルディンは、かって知ったる様子で奥に進む。

ノックをしてドアを開けると・・

「おお!君が噂の聖女様か!!会いたかったぞ!」

領主、のイメージよりかなり若い。

朗らかに笑いながらこっちにズカズカ来ると肩をガシッと捕まれる。

「噂は聞いてるぞ。グランキンに魔女にされたとこから自力でいろいろ何とかして、3日で聖女教育を終えたらしいな!しかも、魔物と使役の契約結んだなんて、歴代の聖女で初じゃないか??」

あまり言葉を選ばないタイプらしい。

「ここから、王宮にいけるんだ。ここ数日、領主様を説得していた。」

イルディンがさえぎるように、苦笑いしながら言う。

「イルディン、領主様ってのは他人行儀すぎないか?昔みたいにフィラード、って呼べよ。王宮に殴り込みに行くにしては、みんな地味すぎるぞ。俺が支度、手伝ってやるよ。」

領主、フィラードは、そう言うとパチンと指を鳴らした。


ザザザっという音とともに、まっすぐにならぶメイドさんたち、給仕さんたち。

マンガやアニメでみるやつだ。

「この二人、磨いてやって。」

「かしこまりました。フィラード様。」

答えたのがおそらくメイド長さんだろうか。

磨くってなに?と思っていたら、

「花さまはこちらにどうぞ。」

「ミリエル様はこちらへ。」

言葉づかいは丁寧だが、周りを囲まれ、別々の部屋に連れていかれる。

二人とも、自分の足で歩いている感覚がなく、勢いに押されてちょっと宙に浮いていたんじゃないかと思うくらい、無抵抗に運ばれていった。


そこから一時間くらいだろうか。

『磨かれる』体験は、控えめに言って、天国だった。

まず、朝っぱらだというのに、いい匂いのする風呂に入る。

久しぶりすぎて、この気持ちよさにうとうとしそうになるほど。

メイドさんたちが甲斐甲斐しく髪を洗い、(体は自分で洗うと死守したが)顔も綺麗にしてくれる。

風呂上がりには全身マッサージ。

プロの仕事だ。

髪を乾かしてもらい、ボーッとしていると、目の前にドレスが並ぶ。

「どれにいたしましょう?」

・・なぜこんなにあるんだろう?

考えながらも、どれも派手で、選びづらい。

メイドさんたちは口々にオススメしてくれるのだが、彼女たちなら似合うと思うが、自分はなあ、と思ってしまう。

「あの・・できるだけ締め付けがなくて、動きやすいものを・・。」

おずおず頼んでみる。

なんか、この世界の感じだと、ドレスの綺麗さよりコルセットの締め付けの方が怖い。

「それならこれでしょうか?」

奥から出してもらったドレスは、他のと比べると比較的シンプルで、色も落ち着いたネイビーのワンピース。

それでも、結婚式の披露宴で着られるレベルだが、そんなに締め付けなくてもいけるという一言で、決定。

それでも、かなり苦しかったから、正解だったと思う。

コルセットというのは、一旦締めてしまうとあまり違和感を感じなくなってくる。

軽食のサンドイッチをありがたくいただいて、(少ししかたべられなかったが美味しかった)仕上げに、メイドさんたちからのヘアメイクを施される。

「できました!」

目の前のメイドさんたちが、仕事をやりきった顔をしている。

花は姿見を見せられて感動していた。

人間だれでも変身願望はある。

『変幻』のときも、ちょっと楽しかったが、プロの仕事はやはり違う。

髪も綺麗に結われ、メイクも派手すぎず、我ながら淑女そのもの。

「すごい!ありがとうございます!」

満面の笑みでそう言うと、メイドさんたちはちょっと驚いた顔をしたが、すぐに微笑み返してくれる。

「参りましょうか。」

メイド長さんにいざなわれ、花は屋敷をあるく。

領主の部屋に戻ると、ミリエルもいた。

銀色の髪は艶やかで、撫で付けられ、正装をしている。

清潔感だけではなく、なんだか、男の色気?

ミリエルの背が意外と高かったことに今さら気がつく。

「いや、二人で見とれ合うなよ。コメントしずらいよ?」

領主フィラードはちゃかしながらも、

「もっと派手な色でも良かったと思うが・・謁見だからな。こんなもんか。綺麗だよ。」

と誉めてくれる。

「じゃあ、行くか。」

イルディンも腰をあげ皆で場所を移動した。

「花。僕も、とってもいいと思います。綺麗です。」

移動で歩きながら小さな声でミリエルがいう。

「ミリエルも素敵だよ。磨かれちゃったね。」

花も返して、二人で笑い合っていると、

「どうぞ。」

フィラードが一つのドアを開けて言った。





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