弱虫神官は、叫ぶ。(2)
「何を言うのかと思ったら。見ない間に仲よくなられたようで。しかし、神官様も、魔女の処刑を承諾したではないか。」
グランキンは、皮肉な笑みを浮かべて言う。
ミリエルは少し揺れたが、声は揺らがなかった。
「僕は、そのことを、きっと一生後悔する。あれは間違いだと分かったから。花は、僕の唯一の聖女様だ。花を聖女と認めないやつは、僕が絶対に許さないっ!!」
叫びきって、ミリエルは膝をつき倒れ込む。限界ギリギリだったのだろう。
花は、状況とは裏腹に、身体が温かい思いに満たされていた。
他でもないミリエルが、ここでその言葉を言う意味。
花との時間が、生み出した何か。
前の世界の自分も、今、この世界の自分も、全てを肯定するミリエルの言葉が、花に与えたその何かを、見失わないように確認する。
「逆らう神官など、いらん。そこの魔女と共に、殺れ。」
グランキンの冷めた声が終わるか終わらないかのうちに、
「カチーン。カチコチカチコチ・・。」
不思議な音が、部屋に響いた。
それがどうやら花の口から発せられているようだ、とグランキン側が気づいた時には、
ピキ、ピキピキピキ・・
グランキン、以下追っ手も全員、手足が氷に捕らわれて、身動きが取れない。
続いて、
「びゅううう・・」
という声とともに、風が吹き、部屋にあったものがみな、宙に浮いて飛び交い始めた。その風は、鋭い刃となって、ミリエルと花の縄を切る。
「ひっ!?」
とうとう家具類も浮き始め、時折グランキンの目と鼻の先を掠めるので、その度にグランキンは小さな悲鳴をあげる。
「私、魔法が使えるようになったの。闇魔法も使えるのよ。試してみる?」
そう言って不敵に笑ってみせる花は、本当に魔女といっても差し支えないほどの凄みがある。
パリーン。
『しびれるほどの魔力だな。我が主にふさわしい。』
いきなり窓が割れ、一匹のコボルトが現れて部屋は騒然とした。
花は風魔法のみいったん解き、コボルトと共に来た精霊が飛ばされないようにする。
『主の負の感情を感じて来た。何かあれば、頼れ。』
「リリーも来たよー。」
ポチとリリーは、侵入者には見えぬほどのどうどうっぷり。
あわてふためいているのはグランキン達である。
身動き取れない状況で、魔物の出現。パニックになるのも当然だ。
「お、おい、お前、聖女なら浄化しろ!!」
わめき散らすグランキンの甲高い声に顔をしかめる。
聞けたものではない。
「ねえ、ポチ。魔法は使える?」
聞いてみる。
『使えるぞ。闇魔法のみだがな。』
それを聞いて一安心。今の花では魔力の調節はできそうにない。
「じゃあ、うるさいからとりあえず眠らせてくれる?」
『永遠の眠りにもできるが?』
物騒な会話だな、と他人事のように思いながら、
「軽いのでいいわ。」
と制する。
怒りに任せて、グランキンの命を奪うのはごめんだ。
『承知した。・・眠れ。』
ポチの言葉で、グランキンたちはストン、と眠りについた。
邪魔者がいなくなり、花は改めてミリエルに向き合う。倒れているミリエルは、意識はあるようだが呼吸が荒い。
かなり無理をしたのだろう。
傷が痛々しい。
「ミリエル。ありがとう。」
自分の唯一の聖女様だと、ミリエルが言った。
その言葉から生まれた温かい気持ちをたどると、今なら使える確信があった。
「ミリエルの傷を癒せ。ヒール。」
聖魔法が発動し、ミリエルの傷がきれいに消えていく。
ミリエルを抱き起こすと、神官はにへらっと笑う。
「聖魔法、使えましたね。僕、神官のお仕事がちょっとできたかも。」
花もつられてにへらっと笑った、その時。
『異世界の聖女よ。教育を終えたようですね。』
花の頭のなかに、声が響いた。




