聖女は、決断する。
花は、コボルトに一歩近づいた。
「グルルルル・・」
「大丈夫なの!怖くないの!」
精霊とコボルトは通じあってるみたいだ。
うーん。どうすべきか、考える。
とりあえず、助けるといっても、どうしたらよいのか分からない。あ、でももしかしたら・・
ステータスから、称号を探す。多分、これ。
『獣たちの癒し手』
「ペットセラピスト」という資格をとったことがある。たしか、同じ講座で「ペット看護士」もとれたはずだ。
押してみると、丸い枠が現れ、コボルトにロックオン。
『外傷にはポーションが有効。振りかけてもよい』
丁寧な説明。
いや、とったのは「ペット」の資格なんですけど?!
とツッコミをいれつつ、まあ、カテゴリー的には犬かな、と自分を納得させる。
称号の効果はもう一つあった。
グルルルル、が言葉で聞こえる。
『攻撃しないのか?とどめをさす機会をのがすのか?』
「あー、いや、考えたけど無理そうなんだよね。」
コボルトはビクッとしてこちらを見る。
『我の言葉が分かるのか?』
「うん、そうみたい。」
ペットセラピストの件は伏せておこう。
コボルトはフッと笑う。
『魔法が使えるのだろう?』
精霊ちゃんから聞いたのかな?
しかし、花には花の事情がある。
「無抵抗の生き物を傷つける魔法はちょっと、ね。」
『我はお前を傷つけるかもしれないぞ?』
うーん、そこはなあ。
「精霊さん、コボルトは私を傷つけるかなあ。」
そもそもの、自分たちを引き合わせた精霊に聞いてみる。
「大丈夫なの!この子はそんなことしないの!」
間髪いれず、精霊が答える。
「だ、そうよ。」
花が言うと、コボルトは苦笑い。こうなると、戦闘、の選択肢はなくなる。
できることをしてみるか。
花は、持っていた一升餅の琥珀色の液体をコボルトに見せた。
「あなたの傷に、今からこれをかけるね。入ってるのは薬草だけだから、大丈夫とは思うけど、しみたらごめん。」
『好きにしろ。』
コボルトは割と素直に傷を見せる。
花は恐る恐る、先ほど作ったポーションもどきをかけてみた。
コボルトの顔が一瞬ゆがんだが、
シュウウウウという白い蒸気と共に、傷がなおっていき、ひとまず安心する。
コボルトの方はというと、
『なんだ?治っただけじゃなくて魔力が上がっている?』
体をペタペタ触っておどろいている。
そのそばでは精霊が、
「治ったね、よかったね。」
と、パタパタ飛び回っている。かわいい。
気がつくと、日が落ちかけていた。そろそろ帰らないと、いらぬ心配をかけそうだ。
「じゃあ、そろそろ帰るね。」
そう言ってお別れしようとすると、
『待て』
と、呼び止められた。
『我を倒さなくてよいのか?』
コボルトの戸惑う声。花はちょっと考えながら、返す。
「あなたは人間を必ず襲わないといけないの?」
『いや、そんなことは、ない。』
「なら、街を襲わないでくれるなら、私があなたをどうにかする必要はないわ。私は精霊のお願いを聞いただけ。お礼は精霊さんに、ね。」
とにかく早く帰りたい。
だが、コボルトはまだ言いたいことがあるようで、少しまよったあと、口を開く。
『花。我に名をくれないか?助けてくれた礼に、困ったときは力になろう。』
名前?別にいいけれど、もうコボルトがおおくくりで『犬』にインプットされた花には気のきいた名前が浮かばない。
「えーと、ポチ?」
思いつくまま口にすると、コボルトがニヤリとする。
『ポチか。変わった名前だが、いいだろう。』
言葉と共に、ふわっと風が吹いて、コボルトの毛並みが黒くなる。
『我が名はポチ。花。あなたを主と認めよう。』
あれ?これっていわゆる使役の契約なのでは?
すぐそばでは精霊が飛び回りながら、キラキラした目を向けてくる。
「いいな、いいな。私も名前、ちょうだい。花。」
その目は、逆らえない。
「うーん。じゃあ、リリーはどう?」
精霊の、鈴のような声から思いつく。
満面の笑みを浮かべた彼女は、
「リリー!素敵な名前!花のこと、だーいすき!」
と言うと、くるりと回って耳を見せた。
黒い小さなピアス。
「けーやくの印に、主の瞳と同じ色、もらうんだよ。」
リリーとポチが、穏やかな顔でこちらを見る。
『これで我らは主と繋がった。必要なときはいつでも呼べ。』
いつしか日が落ちている。安全なところまで見送られ、遅い帰宅。
心配させてしまっただろうと、急いで戻った花を待っていたのは、グランキンの追っ手からの伝言だった。




