聖女は、聖魔法が使えない。(3)
翌日。
聖魔法はからきしだったが、闇魔法の方は、十数台を霧消させつつも、徐々にミキサーをちゃんとうごかせるようになってきた。
ミリエルはひとまず安静、イルディンは、朝から出掛けている。
花に、一つ課題を出して。
「そろそろやってみようかな。」
花は、イルディンから預かった袋の中から薬草を取り出した。
イルディンから、薬草ジュースをミキサーでつくってほしいと頼まれたのだ。
きれいに洗われた薬草をひとつかみ、ミキサーに入れる。
闇魔法の調整は、結局「嫌い」の度合いできまる。
花の場合は、グランキン最強で、残念ながらあとの人たちにもやはり若干の負の感情がある。
ミキサーが耐えうる程度の闇魔法となると、もっと微力にしなければならない。
そこで、思い浮かべたのは、ミリエルが旅支度で入れてくれた、非常食の干し肉。
一口食べたら、とっても不味かった。
食べれないわけではないが、好んで食べたくはない。
その干し肉を思い浮かべると、これがちょうどよかった。
ただ、毎回電気を通す度に干し肉・・。
イルディンは、「そのうち、呼吸のように自然と調整できるようになる」と言っていたから、それを信じて頑張ろう。
薬草を、ミキサーにかけ、ジュースにする。
すると、なにやらキラキラした、琥珀色の液体になった。
ポーションができるかも?と聞いていたのだが、ポーションはもっと緑色じゃなかったかな??
まあ、いいか。
ということで、練習がてら、薬草ジュースを次々に作る。
できたぶんは、持ってきていたお酒の空き瓶に入れていき、やがて一升餅がいっぱいになったところでひと休み。
途中味見してみると、リポ○○ンDみたいな味。嫌いじゃない。
ちょっとその場に腰を下ろしたときだ。
「聞こえる?聞こえる?」
鈴が鳴るような声がして、耳元がくすぐったくなる。
虫かな?とおもって頭をぶんぶんふると、
「ひゃあ!やめて、やめて!」
と聞こえ、あわててやめる。
なんだろう?
声のする方を注意深くみると、キラキラした光が浮かんでいる。
その光が、ふよふよと近づき、また、
「聞こえる?私の声、聞こえる?」
と言うのだ。
悪いものには見えない。花が、
「聞こえるよ。」
と言うと、光から、
「聞こえればやがて見える。見えればあとは簡単。」
と、歌うような声がする。
その声がきっかけになったように、光は徐々に人の形をとっていき、かわいらしい女の子が現れる。サイズはミニマムで、羽がはえている。
「妖精?」
昔読んだ絵本を思い出しながら花が呟くと、
「せいれい、だよ。」
彼女は嬉しそうに、花の周りをくるくる飛びながら答える。
そういえば、イルディンが、精霊の力を借りるのも魔法だと言っていたっけ。
精霊の勝手なイメージは高齢なおじいちゃんだったので、意外な気持ちで、見る。
・・かわいい。
精霊は忙しく花の周りを飛びながら、
「花、一人になるの待ってた。会ってほしいモノがあるの。きて、きて。」
言いながら、急いだ様子で前にいっては、戻ってきて花の手を引く。
(なんだろう?)
花は導かれるまま、後をついていった。
そこは森の奥。ただ、確かにそこに景色があるのに、なぜか焦点が合わない。
薄暗く、灰色の靄がかかっていて、見るからに嫌な感じがする。
その片隅に、大きなもふもふしたモノがいた。
見たところ大型犬、のような。
「花、きて。助けたい。」
精霊は、そちらにさらにせかす。
「行っても大丈夫?どっかに飛ばされたりしない?」
花にとっては怪しい場所は、反射的に警戒してしまう場所だ。
召還は突然くる。この場所はいびつだ。
「大丈夫。こちらからはつながらない。やくそくする。」
精霊の必死さに、意を決して近づくと、もふもふがただの犬ではないと気づく。
丸まっているから分からなかったが、肩から上は犬そのもの。身体は人間のそれに近い。
最近こういう特徴の生き物の話をした気がする。
「えっと、たしか、コボルト・・え?魔物?」
想像とは違う遭遇の仕方に戸惑う。
「ケガ、してるの。助けたいの。花、助けられない?」
見ると、確かに息が荒く、丸まっている毛並みに赤い血がにじんでいる。
精霊の必死の訴えを聞きながら、心の片隅で自分が使える魔法で目の前のコボルトにとどめがさせないか、冷たく計算する自分がいる。
どうすべきか、花は決断をせまられていた。




