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聖女は、聖魔法が使えない。(1)

五大要素の魔法はとりあえずマスターしたということで。

翌日からは「聖」と「闇」の魔法を教わる。

「この二つの魔法系は、発動のために感情のコントロールが必要になる。日常生活に必ず必要なわけではないから、この二つに関しては使えない者も多い。不可能なわけではなく、不必要だからな。だが、知っておく方がいいし、使えるとなおよい。就職に有利だから、学校でも希望者には特別授業を実施している。」

聖魔法は治癒、回復など人を助けるもの、闇魔法は毒、麻痺など人を害するもの。だが、毒と薬が紙一重だったり、麻痺が痛みを和らげるものであったりするのは前の世界と同じらしい。

「花はもともと聖女な訳だから、会得も早いと思う。既に五大要素を一日で使えるようになった実績があるからな。」

そう言われると、やってみたくなる。

イルディンは、褒めて伸ばすのがうまいタイプなのだろう。

「では、まず、自分の感情を魔力の流れでイメージしてみよう。」

聖女だから、ということで、聖魔法からやってみる。

「思い浮かべる感情は、『愛』だ。」

言われて花は『愛』を思い浮かべようとする。

が。

しーん。

「どうしよう。心がまったく動かない。」

彼氏なし歴21年。いや、でも、家族とか、ちゃんと愛してると思うんだけど!?

「あー、すまない。この世界のものに対する愛を思い浮かべてほしいんだ。あ、人でなくても構わない!食べ物、生き物、景色、なんでもいいんだ。」

なるほど。

花は思い直して、記憶のなかを探る。

しかし。

「いや、無理でしょ。」

改めて考えると、花はこの世界の愛すべきものを何一つ味わっていない。

なんなら前の世界のもので食いつないできている。

宿のご飯も、パンやチーズ、ハム、野菜がででんと出てくるが、愛を感じる料理とまではさすがに。

そのへん、せっかく異世界にきたのに、完全スルーで、生き延びること最優先でここまできているのだ。

「なんというか、その辺りは本当に申し訳ない。」

イルディンとミリエルが小さくなる。

「もしかして、花、闇魔法の方が使えちゃうんじゃ・・。」

ミリエルの言葉で、切り替えてみることにする。

闇魔法の感情は『憎しみ』『怒り』だ。

「一番は、グランキンかな。」

頭にあの腹立たしいひげを思い浮かべる。

来たなりいちゃもんつけて、魔女に仕立てやがって。

ムカムカムカムカ・・。

何やら黒いものがまとわりつき、ピシッピシピシイッと空気が鳴る。力の流れが分かる。

「これは、使い方をちゃんと学ばないとヤバいな。」

イルディンがそう呟き、花に指令を出す。

「花、ミリエルに向かって、麻痺の魔法をかけてみろ。」

麻痺?花は手足が動かない状態をイメージする。

それはそのまま、牢に繋がれたときの自分と重なる。

「枷に繋がれ。」

思いつくまま静かに言葉を発した花は次の瞬間、我に返った。

「ミリエル??」

ミリエルが白目を向き、口から泡を吹いて倒れたのである。


「解除!」

イルディンの鋭い声。

あわてて駆け寄る。

「ミリエル!大丈夫?」

息はある。だが、花は今目の前で起きた出来事に完全にパニックになっていた。

「とりあえず、宿に運ぶ。今日の魔法練習は中断だ。」

イルディンがミリエルを抱き抱えて足早に歩く後ろを、ただついていくことしかできなかった。

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