弱虫神官は、能力を発揮する。
花たちが到着したときは、やはり店じまい直前だったらしく、居酒屋「プラムス」は夕方からどっと客が増える。
「いらっしゃいませー!」
「おお嬢ちゃん新入りかい?とりあえずビール三つな!」
「マルコフさんの遠縁で弟とお世話になってるんです。ビール三つ入りまーす!」
賑やかな店内で、大学時代の居酒屋バイトのノリ全開で声をはる。
店主のマルコフさんは、無口だけど気のいいおじちゃんで、奥さんもキップのいいおばちゃんだった。彼らは花たちを見て、訳ありっぽいから宿代は構わないと言ってくれていた。
イルディンも、ここではその日暮らしの雇われ人で通っているらしい。
それでは気が済まないからと、お手伝いをかって出たのは、無銭飲食宿泊が心苦しいのはもちろんだが、こちらの思惑もあったからだ。
「・・でさ、西の方ではとうとうゴブリンが出始めたらしい。」
「討伐はしばらくは騎士団だろ?まだきっちり倒したらしばらくは新しいのは出ないからな。」
「ゴブリンは増えたら群れになるからな。やっかいだよな。」
「もしかして魔物のお話ですか??」
話に入ってみる。
しかし、
「ああ、嬢ちゃんには刺激が強いから、聞かない方がいいよ。ビールお代わりくれるかい?」
優しく遠ざけられ、しぶしぶ空のジョッキを下げる。
情報は、居酒屋に集まる。
花とミリエルは居酒屋でホールの仕事をしながら、情報収集しようとしていた。
「やっぱりうまく情報を引き出すって難しいなあ。」
やっと閉店となり、遅い夜ご飯を食べながら、花は深々とため息をつく。
すると、ミリエルが、
「こっちは割と収穫あり、ですよ。まずは・・。」
と得た情報を話し始めた。花はちょっと悔しい。
求めている情報は、グランキン関係、聖女関係、あとは魔物関係、だ。
「グランキン伯爵ですが、やっぱり花を血眼で探してるみたいです。素性は伏せてますが、王都の富豪が、とにかく黒い目、黒い髪の女性を捕らえたものに賞金を出すという話でした。話していたのは傭兵っぽかったです。」
ちなみに、生死は問わず、という話だ。物騒な。
「魔物についても、徐々に深刻になってきてるっぽかったです。まあ、もともとイルディン様の出張も魔物の出現情報の確認だったし。」
その時は、コボルトの群れだったらしく、イルディンは急いでいたため魔法で一気に殲滅したとか。
「私も聞いた。西にはゴブリンが出たって。」
「今は数が少ないので、倒していけば時間は稼げると思うんですが、大量に出始めると討伐が追い付かなくなります。」
コボルトやゴブリンはまだ下級の魔物だ。これが進行していくと、やがて魔物はより大型に、強力になっていく。
「ねえ。聖女なら、浄化できるんだよね?」
花は、気になっていたことを聞く。
「そう、聞いています。歴代の聖女様たちが、魔物を完全浄化して、新たな魔物が生まれなくなることで、世界は平穏を取り戻すと。ただ方法は分かりません。」
「聖女教育、は?」
「あー、それも僕、よくわからないんですよね。」
心なしかミリエルの目が泳いだような。
突っ込むべきか一瞬悩んだとき、
「ただいま。」
イルディンが帰ってきた。
イルディンは、領主に用事があるとかで、店が始まると出掛けていた。
二人の今日の収穫を報告すると、
「上出来だ。」
と褒められる。
ほとんどミリエルの情報だが。
「ミリエルはどうやって情報収集してるの?」
参考のために聞いてみる。
すると、ミリエルは言いにくそうに教えてくれた。
「そばでじっと聞いてるだけです。僕、存在感、ないんで。」
ああ、なんかごめんなさい。
「ミリエルって、腕利きの諜報部員になれちゃいそうよね!」
フォローのつもりでそう言うと、
「諜報活動してる神官、ブラックな感じでなんか嫌です。」
とひかれてしまった。
ギャップがあるって素敵だと思うけどなあ。
「まあ、まだ猶予はある。もう数日は、今日みたいに過ごしながら今後について考えようか。」
イルディンの言葉でその日はお開き。
シャワーで体を洗い、店主の奥さんが洗濯してくれた清潔な服で、整えられたベッドに眠る。
久しぶりに満たされて、花は深い眠りに落ちていった。




