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聖女は、拘束される。

この頃巷に流行るもの。

異世界、転生、悪役令嬢。

異世界、召還、聖女の奇跡。

金髪、碧眼、腹黒王子。

寡黙な秀才、レアな笑顔。

他国の王子と奪い合われて。

ゲームの世界でチートな人生。


どんなシチュエーションであれ、転生が幼少期だったり、違う場所でチャンスが与えられたり、その世界を味わうための時間と設定が等しく用意されていたはずだ。


しかし、設楽(したら) (はな)は、召還されて30分で、牢獄に繋がれ、神官を名乗る男に土下座されていた。


さかのぼること、一時間。

「ああ、確実に、だめだ。」

花は絶望していた。

時は就職氷河期。幼い頃からの夢だった旅行会社への就職を目指して、ここまで結構熱血でやってきた。

人とは違う特技を身につけたくて、いろんな方面に手を伸ばし、たくさん勉強した。

旅行のプランを立てるとき、新鮮な視点で提案できるように、バイト代をつぎ込んでいろんな世界に挑んだ。

その副産物が数々の資格取得と、検定試験合格。

履歴書をびっしり埋めて、意気揚々と就職試験に挑んだ。

人より熱い思いでこの業界を受けているという自信はある。

そのために人より多く努力してきたという自負もあった。

就職氷河期といわれる時代でも、一握りの勝者にはいる資格が自分にはあると、信じていた。


・・その心は、わりと早めに打ち砕かれた。

書類審査すら、通らない。

通っても、面接で興味を示してもらえない。

旅行会社も経営難に陥っており、なかなか採用自体がない中、少ない椅子を巡って戦ううちに、「即戦力」という言葉の意味を知る。

新しいものの提案よりも、既存のものの営業。

人当たりの良さ、人を引き付けるしゃべり方、空気を読む能力。

そういったものを評価する人たちに、花の履歴書は響かなかった。

それでも熱い思いを伝えれば、中には興味を示してくれる人がいるはずだ。花は諦めずに挑んだ。そして。

今日、最後の面接で玉砕した。


「一つ質問。なんでこんなに資格をとったの?趣味?」

花は正直、キタ!と思った。その質問を待っていたのだ。

ここぞとばかり、旅行のプランニングへの思いを語った。

お客様一人一人の要望を、満たすプランを作るために、たくさんの知識を得たかったのだと。

すると面接官は言ったのだ。

「あんまり役にたたなさそうだなあ。」

それから、最近は新婚旅行でさえツアーだとか、安く行きたい人が多いとか、個別プランニングがいかに会社にとって無益かとか、つらつらと並べられ、花は思わず、

「その考えが正しいとは限らないと思います!」

と言ってしまった。彼は冷ややかに、

「なら、君を正しい思ってくれる会社を受けてくれる?」

と言い、興味を失ったように

「もう、帰っていただいていいですよ。」

と言った。彼がその会社の社長だった。

「終わった・・。」

失意のどん底で、ふらふらバス停のベンチに腰を降ろした時、光に包まれ、花は異世界に召還されてしまったのだった。


まぶしい光が消え、周りが見えるようになったとき、最初に聞こえたのは

「できた・・!」

という小さな声。

次に聞こえたのが、

「コウソクセヨ!」

という、きんきんした声だった。

初めは何がいわれたのか分からなかったが、手足にいきなり枷がはめられて、「コウソクセヨ!」が「拘束せよ!」だったことに気づく。

訳が分からぬ間に、きんきんした声が、まくしたてた。

「黒い目に黒い髪!着ている奇妙な服も黒!しかも足をあんなに見せているはしたない姿!まさしく魔女でありますぞ!召還の儀式が執り行える神官とはいえ、ミリエル様はまだお若い。失敗は誰にでもあります。魔女はひとまず処刑し、ミリエル様は今一度鍛練を重ねていただき、再度召還をいたしましょう。」

言葉は分かった。理解はできる。だが、気になる言葉ばかりだった。

黒い目に黒い髪・・はしょうがない。標準的な日本人だ。

着ているのはリクルートスーツ。はしたないといわれても、膝丈のスカートは、面接における正装だ。

そして何より、

(魔女?処刑?)

冗談じゃない。こんなわけが分からない状況でなんで殺されなくちゃならないのだ?

「グランキン伯爵!召還は失敗では・・」

か細い声がして、わずかに希望を持ったが、次の瞬間には消える。

「何かご意見でも?ミリエル様?」

分かりやすく圧に押されて、その声の主が「なんでもありません。ごめんなさい。」とうなだれる。

『待って下さい!』

花は叫ぼうとした。が枷が光り、声が出ない。

『嘘!?』

「王様!すぐにでも牢に入れ、処刑するべきです!」

きんきんした声は勝ち誇ったように言い、その場の一点に視線が集まる。

(王様がいる?ちゃんと判断して!お願い!!)

花は必死に祈りを込めて、王様と呼ばれた人を見つめる。だが。

「良きようにいたせ。」

今、王様は全てを丸投げしなかったか?

だめだ。そうなれば、このきんきん男の言うとおりに!!

「では、魔女を牢にいれましょう。引っ立てい!」

なす術もなく、花は牢につながれた。

最後に見たきんきん男の髭のかたちは、自分を突き放したあの社長そっくりだった。


そして現在。

花の目の前には、土下座する神官がいる。

銀色の、ちょっとウェーブがかかった髪。細い目の奥に、青色の瞳の彼は、あの場でミリエルと呼ばれていた。

つまり、花を召還した張本人だ。






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