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世界征服後  作者: 葉山るな
帝国編
6/7

5:政治は無難でつまらない

『だから言ったんですよ。面倒な枷はつけるなって』眼前に思考するバルベニアを置いて、ウィズダムはクレイに念じて話しかけた。『サタン王に協力してもらった方が楽な場面は絶対あるって』


『あら、私には甘えてくださらないんですね』対して、クレイに会話に応じる気はなさそうだった。『怯えた子犬みたいにびくびく震えて』

『からかわないでくださいよ。師事したらわかりますけど、バルベニア公、本当に怖いんですよ?』

『そうですか。でも、この状況は微妙ですね』


 沈黙が続いていた。マスタライク伯もバルベニア公も熟考していて、彼らは、そもそもこんなにも静寂が続いていることにすら気付いていない様子だった。だったらクレイやウィズダムに場を動かせるのかというと、それは不可能な話である。


『ウィズダム公の存在は、辺境伯にとって親戚の子供のようなものでしょう。前国王の意思を継いでいるわけではないから協力に直結する要素ではないが、前国王へは恩義もあるから、その肉親ということで協力もやぶさかではない』

『……はい。きっとバルベニア公はここで一旦会合を終わらせる予定だったのでしょう。そうして帝都に戻って辺境伯説得の材料を揃えて、あともうひと押しさえすれば、きっと辺境伯は矛を収めてくれていた』

『矛、というほどではないですけれどね。帝国にリソースを割くくらいならば辺境伯領を豊かにする。そういう意思の、ただの非協力ですから』


 揚げ足をとるなよ、とウィズダムは軽く苦笑いして、すぐに表情を引き締めた。幸い、対面する二人はまだ思考の渦から抜け出せていないみたいだ。


 と、ここでウィズダムが妙案を思いつく。


『バルベニア公。重ねて、よろしいですか」


 許可を得てより、三人のパスをつないで、ウィズダム。


『………………して、…………するのはどうかと。クレイがそう言っておりました』

『……は?』


 クレイは目を点に、唖然として驚いたが、ここは流石の王宮勤め、すぐに表情は引き締めた。ウィズダムはそれを嘲笑いながら、決してクレイとバルベニア公との間に念話のパスを繋いでやらない。やるせない思いで、クレイは他のことに頭を回すことにした。


 冷静に先のことを考えてみれば、なるほど悪くない。悪くないからこそ気にくわないのだ。クレイは分不相応、過大評価が大の苦手なのだ。それをウィズダムが知っているからこそ、このような『嫌がらせ』が行われる。手柄を無理やりに送りつけているのだ。


 果たして、バルベニア公は忠言を受け入れたようである。


「マスタライク伯。少し、いいかの」

「……ああいや、こちらこそ失礼。隠し子だとはいえ、少し動揺しすぎていました」


 マスタライク伯の落ち着きを待って、バルベニア公。


「たった今、サタン王より、ウィリアム皇太子を保護したとの連絡が入った」

「なんと……! それは、めでたい……」

「そこで頼みがあるのじゃが、何か、我々から受け取ってはもらえんかのう……?」


 困惑するマスタライク伯に、バルベニア公は続ける。


「わしらは、サタン王に協力してもらったという形を作りたくないのじゃ。じゃから、マスタライク伯はわしらとの会談で協力を約束して、その後に王子の保護を知ったという形をとって欲しい」

「……なるほど。王子を保護したのはサタン王だから、このまま行けば、私が帝国ではなくサタン王個人の協力者になる可能性もありうるのか」


 しばし悩んで、マスタライク伯。


「わかりました。私はウィズダムくんが王子であったから、あなた方に協力する。おお、ウィリアム王子も保護されたか。それはめでたいなあ。既に協力する約束を結んではいたが、いやはや私の選択は間違っていなかったみたいだ」


 茶番を済ませるようにマスタライク伯は言った。


「……助かる」

「貸し一つ、じゃよ」


 すなわち、『全てを話した上で贈り物は受け取ってもらう』。マスタライク伯とて帝国民、サタン王の敵であることに違いはないのだから、なんのことはない解決策だった。


 ○


「うーん」


 玉座の間にて、俺は唸る。


「どうされましたか?」

「どうもこうもないよ」


 バルベニアらにつけた『目』。自分の目で見た帝国の状況。それらを反芻しながら、俺は顎に右手を当てる。左手は戯れに髪をいじりながら、嘆く。


「一番丸い形に収まったなあ……」


 ウィリアムの保護を隠して辺境伯を説得すれば、後で俺が辺境伯を味方に引き入れられた。ウィリアムの保護を公に説得すれば、それをネタに『おーい俺の協力はいらないんじゃなかったのー?』とバルベニアを強請れた。面白くなりそうだと思っていたが、こんな抜け道があるから、政治は無難でつまらない。


「……やっぱり、性に合わんか」


 呟きに、プレーナが目をキラキラと輝かせる。この期待にむざむざと答えるのも癪だったが、俺だって、さっきの皇太子(この世界の俺)との戦闘程度で満足したわけじゃない。


「帝国はもう大丈夫だろ。もうクーデターの気配もないし、あいつらからかっても面白くないし」

「……それで、それで?」


 わくわく、どきどき。そんな擬音が聞こえてきそうな、輝く目。


「……魔界へ、帰るか」

「やったーー!!!」


 そんな純粋無垢は、続く言葉で歓喜に染まった。

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