夜は囁き月は照らす
夜の密談。新キャラ登場。
夜。
月明かりだけ差し込む部屋で、男たちが酒を飲んでいた。
一人はウィラード、そしてもう一人は金髪の青い目をしたレオナードという男だった。
王都におけるウィラードの部下で、また親友でもある男だ。
聖女がエルドール王国に現れたという知らせは、すぐに王都にも届いた。そしてレオナードは即座にウィラードの屋敷に駆けつけたのだった。
明日、聖女を王都に送り届ける任務をともに行うために。
「まさか本当に現れるとはね」
赤ワインを流し込みながらレオナードが言った。「相変わらずウィルの故郷のワインは美味しいな」と飲んだ後で付け足す。その表情は、どこか愉快そうだった。
レオナードは尋ねる。
「それで今、聖女様はどこに?」
突然現れた聖女と思われる娘は、ひどく取り乱した後で、疲れたのか眠ってしまった。今は使用人のリリーナという少女に側にいさせている。
「寝てる」
「残念。ひとめ会っておきたかったけど、聖女様に」
少しも残念そうではなく、レオナードが言う。その声色に若干のからかいが含まれていることから、彼も聖女を崇拝しているわけではないことが分かった。
「なにが聖女だ、くだらねえ」
ウィラードは吐き捨てるようにそう言った。
「信じてないのか?」
「信じられるわけがない。お前も会ってみるといい。どこかの村娘でも連れてきたんじゃねえのか? ……まさかお前は信じてんのか、レオ」
ウィラードの言葉にレオナードはふっと口元を歪めた。
「まさか! やめてくれよ。僕は女の子の前じゃロマンチストだけど、本当はリアリストなんだぜ。ジイさんたちの仕込みじゃないのか?」
そうはっきりと断言する。この親友の態度が、ウィラードにとっては好ましかった。
いつも明確に答える彼の考えを知っておきたくて、ウィラードはまた尋ねた。
「王は信じるだろうか」
「少なくとも表面上はそうだろう」
レオナードの答えに思わず眉をひそめた。言葉の意味を測りかねたのだ。
「王が信じれば国民は信じる。そして噂は世界中に広まるだろう。我が国が聖女様を手に入れた、とな。エルドールに喧嘩を売る国は無くなるさ」
ウィラードは黙り込む。あの間抜けそうな少女が利用される、と思うとやや哀れだった。
そんな彼の気配に気がついたのか、レオナードは言った。
「言っておくけど、同情なんて、必要ない。
彼女がなんであれ、僕らには関係ないさ、だろう? 明日、彼女を無事に王の元へ届ければ僕らの今回の任務はお終い。将軍の顔も立ってもんだ」
「ああ」
所詮、全ては駒に過ぎないのだ。聖女召喚の儀式に立ち会ったウィラードとレオナードも。
そして、王の命令を受け、二人をそこへ派遣した主、バルト将軍も。
ウィラードはレオナードに気がつかれない様に静かにため息をついた。
(……本当に、くだらねえな)