私の魔力は怪物レベル
「ふむ、ふむ。なーる。これは、これは……」
レオに連れてこられた部屋で、魔法使いのおじいちゃんは私の手をとり、目を覗き、ひとしきりなにかを調べるようにノートに文字を書き込むと、納得したようだった。
「なにに納得してるんだ、ルーメンス?」
腕を組んで私の横に立つレオが、そのおじいちゃんに聞く。
部屋の中には本や謎の装置が所狭しと積み上げられている。本もかなりたくさんあるが、床に転がっている。紙屑も、そのまま床に放り投げられている。
なんてこと、私の部屋より汚かった。
その小部屋で、椅子に座らされている私。
目の前の椅子に向かい合う形で座るおじいちゃんは、高名な魔法使いの学者さんらしい。
バルト将軍の下で、日夜、研究をしているという。ルーメンスという名前だと、レオから聞いた。
そのおじいちゃんは言った。
「この少女は魔力の塊のようなものじゃな」
レオが訝しそうにちらりと私を見つめる。
「それほどか? 確かに彼女の才能は認めるよ、一応聖女みたいだし。だけど、城の連中は魔法の才能がないと言ったらしいぜ」
「才能がないじゃと!? あり得ぬ。人類史上、どこを探してもこれほどの魔力の持ち主はおらぬと断言できる! これは怪物レベルじゃ!!」
「か、怪物!?」
思わず繰り返す。
「怪物なんて、可愛くない!」
だけど私にも魔法が使えると分かって、嬉しい。
最も、ダークウルフを消した力も、ウィルを治した力も魔法だったらしいけど。あまりに無意識だったので、考えてもみなかった。
「なんで城の連中は、彼女に才能がないと断言したんだろう?」
「そりゃお主たちがダークウルフの一件を捻じ曲げて報告したからじゃろ」
レオの問いにおじいちゃんは笑って答え、「それに」と付け足した。
「力が強すぎて、無意識に閉じ込めておるのじゃ。
本当にどうにかせんという時くらいにしか発動できないじゃろうな。これでは、ワシほどの魔法使いでないとその力には気づかぬ。
ふむ。どれ……」
おじいちゃんの人差し指が私の額をそっと突っついた。
ぽうっと暖かさが体を巡ると、不思議と力が湧いてくるのを感じた。
「あ、私……」
驚いた。さっきまでとは何もかもが違う。
気がついたのだ、魔法の存在に。ごく自然にそこにあるものだと気がついた。
おじいちゃんはにっこりと笑う。
「鳥が生まれつき飛べるように、お主も魔法が使えるのじゃ、自然にな」
恐る恐る、手を空中にかざす。そっと、魔法を放ってみる。
それは、部屋の中を旋回する。
くるくると空気をかき回し、本のページをぱらぱらとめくった。
「風だ……」
レオがそれを見て言う。私の手から、風が放たれたのだ。
「彼女は、風の魔法を?」
風の魔法を得意とするのか、というレオの問いにおじいちゃんは首を横に振る。
「いいや。そう単純な話でもないようじゃな。あえて言うなら万能型じゃ」
「ば、万能型って。ルゥじぃ、簡単に言うけどそんな奴いるのか?」
「ワシに間違いはない! この者の力は度を超えておる! だが、聖女なのじゃろ? そのくらいの力があってもおかしくない」
二人の問答を聞きながらも、私は手から火を出したり、水を出したりして遊んでいた。
「じゃあ、ウィルの奴にでも見せに行きましょうか。奴の驚く顔が目に浮かびますよ」
ウィルがいるという兵士の訓練場に向かう途中で、レオが申し訳なさそうに言った。
「先程は、本当に申し訳ありませんでした。ひどいことを言ってしまいました。
私も神威を目の当たりにして、衝撃を受けていたみたいで。いや、言い訳ですね。自分のふがいなさを貴女のせいにしただけです。卑怯な真似です」
さっきって、私が泣き喚いた時だ。
改めて思い出すとかなり子供じみてて恥ずかしかった。
「ううん。私こそ、子供みたいなこと言ってごめんなさい。それにね、ちょっと嬉しかったよ。」
「嬉しい?」
私が言うとレオは驚いたようだったが、それは本心だった。
いつも取り繕っているようなレオが、初めて本音を見せてくれた気がして、嬉しかったんだ。
「あと、もう敬語じゃなくていいよ。なんだか、落ち着かないし」
私がそう言うと、レオは、照れくさそうに優しく笑った。
本音をぶつけ合った後は、少し恥ずかしい。
けど、その前よりもずっとずっと仲良くなれる気がする。それはきっとレオも同じだと、その笑顔を見て確信する。
「じゃあ遠慮なく。正直言うと、君みたいな年下の子に敬語なんてめんどくさかったよ」
「ちょっと、いきなり正直すぎない?」
本当のレオって案外毒舌なのかも。
ふと、疑問を口にする。
「レオって何歳なの?」
年下の女の子、と言われて改めて思った。
一体何歳なんだろう?
「ああ、言ってなかったっけ? 17歳だよ。ちなみに、ウィルはひとつ上の18歳」
「若っ!」
それであんな偉そうな、……もとい堂々とした態度を取れるのだから、二人とも肝が座ってる。
少なくとも20代前半くらいかな、と勝手に思っていた。
前に私の名前を誰も聞かなかったと思ったけど、興味がなかったのはこっちも同じだったのかもしれないいと反省した。
だけどやっと、本当の意味でこの世界の人たちのことを知りたいと思った。
ちなみに、りんねは15歳です。




