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仮面の美女の正体は?

 「それ」がどのくらい続いたのか。

 一瞬にも、永遠にも感じられる時間が流れた。


 空から現れた神威は一瞬のうちにマールを飲み込んだ。

 衝撃に大地が揺れ、乗っていた馬たちが暴れ出し、地面に叩き連れられそうになるのをなんとか地面に着地した。リリーナとお互いを支え合う。


 巨大な光の柱は、やがて静かに細くなっていき、消えた。


「ああ、そんな……」


 さっきまで話していた人たちが。歩いた町が、暮らした城が。――消えた。


 マールがあった場所には、いまやぽっかりと穴が空き、そこに海水が流れ込む。


 圧倒的な光景に、私たちは何もできない。


「どうして……! なんでマールなんだ!!」


 レオの叫びでハッと我にかえる。


「四番目の神威だぞ!! なんでマールである必要がある!?」


 声を震わせながらレオが言う。

 その顔には怒り、絶望、戸惑いの表情が浮かぶ。


「イヤよ! うそ、こんなの……」


 そう言って、フラッと気を失ったリリーナをなんとか受け止める。


「くそ……!」


 そう言ったのはウィルで、レオと同じように顔面蒼白だった。

 しかし、すぐさま剣を抜きマールがあった場所へと駆け出そうとする。


 進めば、死ぬ。

 今、私たちは生きるか死ぬかの瀬戸際にいるのだ。


「ウィル! だめ! 行っても無駄だわ!」


 視線はマールがあったはずの場所に向けたままで私は彼を止める。


 行ってはだめだ。あそこにはもう、生きている人はいない。


「止めるな!」


 ウィルがすごい剣幕で怒鳴る。

 しかし、私も譲るわけにはいかない。


()()()()()()()()()()()()()!! そう、()()()()()!!」


 私の声は喉に張り付いたようで、上手く言葉が出てこない。それでも、ウィルを止めなければ、という思いだけはあった。


 恐ろしかった。もう、マールに、生き物の命はない。皆、消えてしまった。


 リアド陛下も、皆、皆、皆。――死んだ。


 そして即座に、ざざざざ。と鳥肌が立つ。


 代わりに、何か、


 何か、()()()()()()()()()()()()()()()


「それよりここから離れなきゃ! 何か、来る!」


 半ばパニックになりながら私は叫ぶ。ウィルが振り返り、恐ろしいものを見るような顔で私を見た。


「離れてたまるか! 国王がマールにいる! 市民も、救わなければ!」

「ウィル! 魔物が来る!」


 レオが叫ぶ。

 海水が流れ込んだ暗い穴から、黒い点がいくつも這い出て来た。


 魔物だ。先ほど感じた恐ろしいものは、このことだったんだ。


 あの時、マールへ向かう途中でダークウルフを消したように、今もあの魔物たちを消すことができるだろうか?


 あの時は無我夢中で、どうやったかはっきりと覚えていない。


 でも、言っている場合じゃない。やるしかないんだ。


 魔物の襲来に備えて、レオが弓に手をかける。

 ウィルが剣を構える。


 私は、気を失ったままのリリーナをそっと地面に寝かせ、震える自分の体をなんとか立ち上がらせた。


 魔物の大群が押し寄せてくる。ここまで来るのは、もう、すぐだ。


 と、



 ――ぐぃっ



 突如、何者かによって背中を後ろに引っ張られる。

 私はバランスを崩し、地面を見る。


 一瞬見えた地面には、火花で型取られたように丸く穴が空いていて、その向こうには……

 なぜか青々とした木々が見えた。


 考える間も無く倒れこみ、地面に激突するかと思った私の体は、そのまま穴に落ちていった。



 ドシン。



 自分で思ったよりも間を置いて地面に尻餅をついた。


「いて!」「きゃあ!」


 レオとリリーナも隣に落ちてくる。


「……」


 ウィルもいるが、既に立ち上がっていた。

 本当に、タフな奴だ。実はターミネーターだ、と言われてもきっと驚かない。


 座ったまま、あたりを見回す。

 どうやら、本当に森の中にいるようだ。


 誰かに後方に引っ張られて、地面に落ちたような気がする。

 だけど、地面には空間を切り取ったように穴が空いていて、そのままそこに入っていって……。


 さっきまでいた平原も、海も、魔物も、そして変わり果てたマールもない。

 代わりに生い茂った木々が、平和に風にそよそよと揺れていた。


「しゅ、瞬間移動…!?」


 一瞬で、森の中に出てきてしまった。

 何が起こったのか理解できず、ただ唖然としてしまう。


 ふと、ウィルが立ち上がっているのは誰かに対峙しているためだと気がついた。


「イグリス……」


 目の前の人物にウィルが話しかける。

 どこか苦々しげで、気まずそうに見える。


 リリーナはなんだか落ち着かない様子で、その人物とウィルを交互に見ている。


 ウィルと退治する人物は不思議だった。


 ひとことでいえば、鉄仮面。


 マールの城に飾られていた鉄の鎧があったけど、私たちの目の前にいるのはまさにそれだった。


 銀色の鉄の鎧を全身に身にまとっており、そして顔まで覆っているため、どんな人物かはわからない。背だけはウィルよりもやや低く思える。レオと同じくらいだろうか?


 ウィルはその人物に心当たりがあるようだ。

 先ほど呼んだ「イグリス」、というのは鉄仮面の名前だろう。


 鉄仮面は、ふ、と笑ったように思えた。


「なんてザマだ、ウィラード? そんな情けない男に育てた覚えはないぞ」

「……なぜあそこに、イグリス」


 鉄仮面の言葉を無視し、ウィルは問う。鉄仮面はため息をつくと、答えた。


「……我が殿が見張っていたマールの様子が突然、掴めなくなってな。

 見に行ったのだが、まさか神威が起きていたとは。しかも、あそこに貴様らがいるとは思わなかった。私がいなかったら全員死んでいたぞ」


 鉄仮面はそう言って、今度はレオに話しかける。


「レオナード。大丈夫か」


 レオはいつの間にか立ち上がっていたようで、まだ顔は青ざめたまま、鉄仮面に言う。


「イグリス様。マールに神威が落ちました……」


 レオとも知り合いの様だ。鉄仮面は「ああ」と言って頷くと、両手で兜を外す。


 現れた素顔に私は驚いた。


 金色の長い髪を見事に揺らす、美しい顔をした女性がいたのだ。


「我が殿も様子を知りたがっている。休めと言いたいところだが後だ! バルト様がお待ちだ、全員城へ行くぞ!」


 女の人だったなんて!

 ……しかも、かなりの美女だ。


 彼女が言う、バルトって、確かウィルとレオの上司の名前だったはずだ。

 ということは、この女性もその人の部下に違いない。

 そう思っていると、女性が私のことを口にした。


「そう言えば、聖女様はどうした? マールと共に神威に飲み込まれたか?」


 皆の視線がまだへたり込んでいる私に集まった。


「……。…………!?」


 女性の視線が、私の髪の毛、そして瞳の色を確認したようだった。


 言葉にせずとも分かる。



 こいつがか!?



 女性の目はそう言っている。この世界で幾度となく見てきた目だ。

 その目は、やれ、神々しさがない。やれ、村娘ではないのか。やれ、私の方が美人じゃない。なんて調子で好き勝手に言ってくるのだ。



「オホン。失礼、私はイグリス・イルス・タリフスと申す」


 咳払いをして女性、イグリスさんはそう言った。


「バルト様の下で、副将を務めている。聖女殿、どうぞ、よろしく」


 バルト将軍の屋敷に向かうまで、皆、とにかく無言だった。

 一人だけ元気なイグリスさんを先頭にして歩いていく。



 きっと、それぞれがそれぞれに思いを巡らせているんだろう。

 

 マールが滅んだ。リアド国王、お城のみんなも、町のみんなも、死んでしまった。



 ああ、それにしても神威!

 あんな強大なものにどうやって立ち向かえばいいんだろう。

 お姉ちゃん、一体、私はどうしたらいいの?



 両手を握りしめ、涙が出そうになったので下唇を噛んだ。

 ウィルもレオもリリーナも誰も泣いていない中で、私が泣くわけにはいかなかった。




 森を抜けたところで、イグリスさんは急に立ち止まった。


「聖女殿。歩かせて申し訳ない。

 もうすぐ着きますゆえ……ほら、見えました。あれがバルト将軍の城です」


 彼女が指差したところに見えたのは重厚な感じがする黒っぽい角ばったお城だった。


 マールの城のような豪勢な塔はない。

 しかし、黒灰色の石造りのその城は、何者も寄せ付けない意思を感じた。


「強そうなお城ですね」

「おお! さすが聖女殿はなかなか鋭くていらっしゃっるようだ。

 ここはかつての国境付近で、あの城は敵国の重要な拠点になっていた。それを奪い取った後、バルト様が気に入られてなあ。移り住んだという訳だ」


 思った以上に、生々しい話だった。


 それでも、イグリスさんが嬉しそうに言うので私もつられて笑う。彼女がバルト将軍のことをとても尊敬しているのがわかる。


 そう言えば、と彼女は続けた。


「この城をくれてやると言われながら断った連中がいたな。城落としで一番手柄を上げたから代わりに隊をくれてやったんだけ、なあ?」

「……」


 沈黙。

 空気から察するに、それは明らかにウィルとレオの話だった。



「……俺はあの屋敷で満足している」

「……僕も都会暮らしの方が好きなので」



 彼らは疲れたように、そう答えた。

新キャラ登場!強そうな女騎士です。

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