聖女って、ならなきゃいけないわけじゃないよね?
……思えば、この世界に来てから私の人生はめちゃくちゃだった。
今までただ流されるままにぼんやり生きてきた。それでよかったし、生きてこれた。
でも、本当の人生は選択の連続で、自分の頭で考えて判断しなければならない。それは時に辛いし痛みを伴う。
そしてその痛みもまた、自分で受け止めなければならないのだ。
ここに来るまで選んだ道の正しささえ分からずに、迷い苦しみ、でも信じて進んできた。
例えば、こんな選択肢。
誰を信じるか? 誰を疑うか?
誰を救うか? 誰を見捨てるか?
世界を救うか? 滅ぼすか?
自分の命か? それとも……
二択のうち、一択を選び、結局それが間違いで後悔しても時は戻らない。
いつだって世界は残酷で、私は後悔してばかりだ。
でももう二度と、後悔したくない。
今から選ぶ道、例えそれが間違いだったとしても。
「お姉ちゃん、私、決めたよ」
言ってから、目を閉じた。そして最初に道を選んだ時のことを思い出した。
初めて来たこの世界で、王様に言われたんだ。
最初は、こんな選択肢だった。
【聖女になるか? ならないか?】
* * * *
「では、聖女りんねよ。世界を頼む」
目の前にいるサンタクロースのような髭を生やした王様が言った。ここは王の謁見の間で、左右にはずらりと貴族たちが並ぶ。
私は学校の制服を着て(だって他に服がないから)、向かい合っていた。
答える。
「嫌ですけど」
「は!?」
聞こえなかったのか王様が聞き返してきたので、はっきりとした声でもう一度言った。
「嫌です」
「な、なぜ? お主にしか世界は救えないのじゃ」
王様はひどく動揺している。
なぜって、そんなの当たり前でしょう?
将来の夢もとくにはないけど、高校を卒業したら大学に進み、適当な会社に入って、それなりの年齢になったら結婚して、子供を三人くらい産んで、おばあちゃんになって、孫に囲まれて生涯を終える……ただ、そんな、漠然とした、のんびりとした人生を設計していた。
そんな私が、喜んで聖女になります、とでも言うと思っていたんだろうか。
「だって、私は聖女になるなんて言ってないし。家に帰らなきゃいけないから。お母さんが心配してると思うの」
「そんな、馬鹿な」
王様は黙った。広間は静まりかえる。
周囲に渦巻くのは明らかな失望だった。
だって、突然来てしまった縁もゆかりもないこの世界を救ってくれって言われて、「はい喜んで!」って言える人どれくらいいるの?
普通、帰りたいよね?
私、間違ってないよね?
王様が黙ってしまったので、私も黙る。
後ろにいた、騎士たちのどちらかが、はあとため息をつくのが聞こえた。
寝ている時の夢でこの話をみました。しばらく書いていませんでしたが、その時のワクワクが届きますようにと思いながら筆をとりました。
異世界人も普通に生きてるはずだよな、と思い、主人公含め、特別でも選ばれたわけでもない、ほんの偶然でそうなってしまった物語にしたいと思います。
壊滅的な世界で、そんなありふれた人々の人生を通して何か、心に感じていただけたら幸いです。
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