モテない二人
「はい、どうも! 下町演芸場に、ようこそ」
「『ヒゲとメガネ』です。よろしくお願いします」
「ホンマ、こんなにギョウサンのお客さんに集まっていただいて」
「暇な老人が多いんやね。ここを特養か何かと勘違いしてるんとちゃうかな?」
「アホなこと言いな。観てるほうがボケだしたら、俺らの仕事があれへんやないか」
「天然ボケにツッコミを入れたら、ええやないか。――なんでやねん!」
「俺にツッコミ入れてどないすんねん。まだボケてへん」
「さよか。――それにしても、もう、すっかり秋やね」
「せやね。秋になると、頭が冴えて色々とはかどるわ」
「なんでやねん!」
「早い! フライングもええトコや」
「ハイハイ。――ほんで、その秋がどないしたん?」
「よう言うやないか。スポーツの秋、芸術の秋……」
「スイーツの秋、グルメの秋」
「食べてばっかりやないか。あと、なんといっても読書の秋やね」
「ドクショノアキ?」
「なんで急にエセ外国人になるねん。ほら、小説とか、漫画とか……」
「食レポとか、飯テロとか」
「食ベモンから離れろ! お前のメガネは伊達か?」
「いやいや。メイドイン鯖江やから、仙台藩やないけど?」
「そういう意味とちゃう。――ネタに無いことを言うな。話を戻せ」
「アドリブに弱いヒゲやな。――せやけど、本を選ぶんも簡単なモンとちゃうからなぁ。なんか、ええ本知らんか?」
「ええ質問やね。せっかくやから、こういうときこそ、文豪の名著を手に取るべきやと思うんや」
「ブンゴノメーチョ?」
「エセ外国人やめんか。二回目はウケへん。――書店へ行ったら、目立つところでフェアしてるやないか。そこから選んだら、間違いなしや」
「なるほどな。本屋さんが選んだモンやったら、面白いやろな。たとえば?」
「芥川龍之介とか、太宰治とか、三島由紀夫とか」
「服毒・入水・割腹。読んだあと、自殺したくならへんか?」
「ならへん! 他には、永井荷風とか、泉鏡花とか、谷崎潤一郎なんかもオススメやな」
「読んだあと、エスエムに走るというおそれは……」
「あらへん! 作家と作品性を、切り離して考えんかい」
「サッカセイ? 落花生なら食べたことあるんやけど」
「お前の脳内は、食欲の秋しかないんか! そんなことやから、女の子にモテへんねんぞ」
「無精ヒゲをカッコええと勘違いしてる誰かさんには、言われたないわ。彼女いない歴イコール年齢のくせに」
「ええ加減にしなさい」
「「どうも、ありがとうございました」」