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4:【タルタロス地下洞窟】



 ──ちょうど一か月前に始まったという『初心者狩り』。

 それによって新規の魔人種プレイヤーはぐっと減ってしまい、聖騎士たちの派閥に一層押されることとなったそうだ。

 さらに一定数以上の魔人種をキルしたパーティには【暁の女神】の幹部どもからレアアイテムがもらえるそうで、どいつもこいつもぶっ殺しやすい初心者たちを相手に暴れ回っているらしい。


(俺はそいつに巻き込まれたっていうわけか。にしても幹部連中……大胆なことやりやがるなぁ)


 単純かつ横暴な策だが、効果は絶大だっただろう。初心者を中心に虐殺させていけば低リスクで魔人種サイドの勢力を削ることが出来るし、狩られた奴らも最初の内ならキャラを作り直して聖騎士のほうに流れてきてくれる可能性が高い。そうしてどんどん良い狩場を抑えることが出来れば、幹部共も報酬として支払うレアアイテムを簡単に手に入れられるようになる。それを配っていけば、聖騎士全体の力はさらに充実するという寸法だ。


 ……うーん、完全に詰んでる流れだ。


 近い内に運営のほうから“一定レベル以下の相手には攻撃出来ない”という感じの調整が入るかもしれないが、もはやそれだけでどうにかなるとは思えなかった。

 そもそも、連戦連敗を重ねて魔人種サイドがすっかり舐められまくってるからこそ、聖騎士連中はこんな強行策を実行してきたのだろう。


「……なあアリスさん。【暁の女神】と同じように、魔人種サイドにだってトップギルドはあるはずだろ? そいつらは今なにやってんだよ。こんだけされてだんまりか?」


 そんな俺の質問に、アリスさんは気まずげに顔を曇らせた。


「……さあ、何をやってるのかしらね。噂だと最近、幹部全員でギルドマスターの女を追放したらしいわよ。

 ウサギよりも弱いどうしようもない女だったそうだから、『これまでの連敗はアンタのせいだ。アンタがいるだけで負けムードになる』って言い放ってね……」


 ひ、ひっでぇ話だなぁおい……! てか内輪揉めしてる場合かよ……?


 あー……俺も正直どうしようか。ここまでダメな空気になっていると、俺も何だかキャラを作り直したくなってきた。

 心なしか酒場の雰囲気も湿っぽい。……まぁ、客は俺とアリスさんの二人だけで、そのうち片方はすっかり元気をなくしてるのだから当然だろう。

 うーん、襲撃におびえながらプレイなんてしたくないし、これからどうしたものか……、


「……アラタくん」


 は、はいっ!?

 今後の進退について考えていると、アリスさんが俺の眼をじーっと見つめてきた。

 しっとりとうるむ彼女の瞳は、まるで宝石のように神秘的な色を放っていて──


「ねぇ、アラタくん。もしも本当に嫌になっちゃったのなら、キャラを作り直してもいいからね?

 ……私のことは、忘れてくれてもいいから……!」


 ──って、そんなこと言われたら見捨てられるわけないだろおおおおおおおおおッ!?

 てか俺のことを安心させようと必死で笑顔を作るアリスさん、クッソかっわいいいいいい!


 俺は彼女の手を強く握ると、感情のままに強い口調で言い放つのだった。


「アリスさんッ! 俺はアンタを裏切らないっ! 俺とアンタで、この現状をひっくり返してやりましょうッ!」



 ──俺のレベル、まだ1なんだけどねッ!




◆ ◇ ◆



「──さぁ着いたわ! ここが序盤のレベル上げにはぴったりのダンジョン、【タルタロス地下洞窟】よ」


「おぉ……!」


 その後、アリスさんに連れられていった先にあったのは、丘をくり貫いたような広大な洞窟であった。てらてらと濡れ光る鍾乳石の柱や、不気味にひだ打つ天井などは、とても人間がポリゴンから作ったとは思えないほどリアルである。


(あぁいいなぁ! こういうところは男としてテンション上がるなぁ!)


 アリスさんも俺という後輩が出来たことで、周囲に花が咲いてるように見えるほどに上機嫌な様子だ(かわいい)。


 ──あれからアリスさんは、俺の言葉を聞くや満面の笑みを咲き誇らせてこう告げてきたのだ。



『ありがとうアラタくんっ! それじゃあさっそくレベル上げにいきましょう! 先輩として何でも教えてあげるから、一緒に強くなっていきましょうね!』



 うーーーーーーーーーーーーん、あの時の笑顔は最高に可愛かった。いま思い出しただけでも、思わず顔に手を当てて天井を仰ぎ、姿勢を逸らせて『感嘆のポーズ』を取ってしまうほどに尊いものだった。

 アリスさん尊い……尊いアリスさん。もうあの笑顔を見れただけで、魔人種として生きていくことを選んでよかったと思えるほどである。結婚しよ。


「ちょっとアラタくーん! 変なポーズ取って何してるのー? ぼーっとしてると、先に行っちゃうわよー」


 っておぉっと、アリス先輩がお呼びである。これは急いで駆けつけねば!


「すみません、アリスさんの可愛さに感動してました!」


「っていきなり何を!?」


 びっくりさせてしまった。でも本当のことだから仕方ないよね。



 ──その後は二人で洞窟の奥へと進みながら、アリスさんは俺に色々なことを教えてくれた。


 まず常識として、【始まりの街】みたいなところは『不干渉エリア』と呼ばれていて、戦闘行為が出来ないという設定になっているそうだ。

 ゆえに、魔人種も聖騎士も普通に共存しているわけだが……一歩でもフィールドに出れば俺のよく知る通りである。うーん……低レベルプレイヤーには厳しい世界だ。


 次に、世界中に溢れている『モンスター』についてである。

 こいつらは死した魔王の死肉を食らって凶暴化した生物たちという設定であり、どいつもこいつも理性なんて絶無なのだそうだ。ゆえに仲間っぽい魔人種にも普通に襲い掛かってくるため、聖騎士と魔人種の両者から目のかたきにされているらしい。

 ……でも倒せば経験値と素材が手に入るそうなので、プレイヤー的にはなくてはならない存在なんだがな。



 そしてモンスターとくれば──ついに待ちに待った、『戦闘』である。




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― 新着の感想 ―
[良い点] この回も面白かったです。 主人公の愉快さが出てますね
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