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21:散りゆく花びら


「──って、えぇえええええええッ!? それでお兄さんっ、あのペンドラゴンを公衆の面前で白濁まみれにしちゃったんですかぁ!?」


「おい赤飯、人のことを鬼畜な変態野郎みたいに言うな。なぁアリス?」


「えっ、アラタくんって普通に鬼畜で変態さんじゃ……ああいや、なんでもないわ!

 ……でも、そうしてやりたくなる気持ちはわかるわね」


 ペンドラゴンと別れてから小一時間後。俺はダブルロリ巨乳と共に【始まりの街】を歩いていた。

 何か面白いものはないかなぁと市場を散策していたところ、仲良さそうに話している彼女たちと遭遇したのだ。


 ──聞いたところによると、昨日の侵略戦でレッドフードはアリスの格と強さを認め、これまでの非礼をきっちりと詫びたらしい。

 うんうん、謝れるということは良いことだ。そう褒めてやったら、


『……ウチのクソ姉貴みたいに、好きな相手を暴力でモノにしようとした挙句、手酷くフラれてショックで引きこもりになるような女にはなりたくないですからね……』


 と、死んだ瞳で語っていた。……あの女上司、引きこもりになってたのかよ。


「あっ、お兄さんにアリスさん見てください! なんか変な形のフルーツが売ってますよー! ……って、なんですかお兄さん? なんでわたしのことをちょっと申し訳なさそうな目で見てるんです?」


「ああいや、その……例のお姉さんのことで悩んでるんだったら、何でも俺に相談してくれよ?」


「えっ!? ええと、どうも……です。……お兄さん、優しいですね」


 そう言って、はにかんだ笑みを浮かべるレッドフード。いや違うんだ……お前のクソ姉貴が引きこもった件については、俺も他人事じゃないからなんだ……!

 まあそんなことを告白できるわけがないため、無言でメイド服少女の頭を撫でてお茶を濁しておく。


「えへへ……どうせならお兄さんみたいな人が家族だったら良かったのになぁ……」 


「そうだなぁ……あともう数センチくらい“挿入はいって”たらそうなってたかもなぁ……」


「えっ?」


 ああいや、こっちの話だから。

 ──そんな別の意味でレッドフードには話せない過去を思い返していると、不意にアリスが俺の袖をくいっくいっと引っ張ってきた。

 

「ん、どうした? まさかアリスも撫でて欲しいのか? むしろ俺はアリスに撫でてもらいたいんだが」


「って何言ってるのよアラタくんは!? そうじゃなくて、何だか向こうのほうが騒がしいみたいなんだけど……」


 そう言ってアリスは、ちっちゃい指で人混みのほうを指した。

 むむっ、確かに揉め事が起きてるみたいだな。「オイ姉ちゃん押すなよ!」だの「なんだこのアマァ!?」だの、たくさんの人たちの怒鳴り声が聞こえてくるぞ。



 そうしてしばらく、そちらのほうをじっと見てると──



「──ウォオオオオオオオオオオオ!!! どけどけどけどけー! 『鬼畜魔王』はどこでござるかぁあああああ!?

 あるじ様を白濁まみれにした挙句、自慢の黒くてぶっとい大剣でムチムチとろふわ女神ボディをブチ犯そうとしたというアラタのヤツは!?」


 ってンなことしようとしてねぇーよッ!


 クッソ失礼なことを叫びながら、白い軍服の少女が人混みの中から飛び出してきやがった。

 

 ──いや、少女……なのか? パッツンとした夜色の長髪をしているが、胸には一切のふくらみがなく、声や顔立ちもどことなく中性的だ。

 うーん……でも黒いミニスカートや足を包んだストッキングは女性のモノに違いないし……まぁあえてボーイッシュな感じで“設定エディット”しているといったところか。


 そんなボーイッシュ少女は俺のことを見つけるや、腰に差した日本刀に手をかけて吠え叫ぶ。


「むむむっ、その顔付き……間違いないッ! 貴様がアラタだなぁ!? よくもあるじ様のことを!」

 

 今にも飛び掛かってきそうなその形相は、完全に番犬か何かのようであった。

 忠臣タイプってやつか……面倒くさいなぁ……。ここは虚言であしらうことにするか。


「……とりあえずアンタ、少し落ち着いてもらえるか? 俺は、えーと……あれだ。アラタさんのことを動画で知って、そっくりのアバターを作っただけのただのファンだよ。本人とは無関係だから、マジで」


 だから別のところをあたってくれと、俺は少女にうながした。

 だが、しかし──


「……貴様、【暁の女神】の幹部である拙者のことを舐めているのか?

 ──このオキタ、常にあるじ様の側に居るために『男』であることを捨てたほどの者ぞッッッ! 女性服店だろうが女湯だろうが平気な顔して突撃してきたこの拙者に、そのような虚言が通じるものかぁっ!

 貴様の身体からただよう残り香からして、あるじ様は間違いなく48分と39秒前に貴様と会っていたはずだァァアアアッ!」


「ってなんだこいつ気持ち悪ッッッ!? つーかお前ネカマかよ!」


 そういえばこのゲーム、異性のアバターを使うことは出来ないが、それっぽい見た目に仕上げたりすることは出来たんだったな。いわゆる『男の娘』というヤツだ。

 だけど、このオキタって奴は……、


「うおおおおおっ! 拙者もあるじ様のムチムチとろふわ女神ボディにミルクぶっかけたいでござる!

 ていうかミルク吸いたいでござるぞッ! 前にあるじ殿がうたた寝してた時にクンクンスゥーハァーしたら甘い匂いがしたし、絶対出るってアレ!」


「知らねーよ馬鹿ッ! ていうかお前、それでも本当に忠臣なのかよ!?」


 こ、こいつ……見た目は大和なでしこのくせに、普通に男としての性欲満々じゃねえか!? お前本気で男の娘キャラやってる奴らに謝りやがれッ!

 美少女モドキの変態発言の数々に、アリスもレッドフードもすっかり怯えて俺の両脇にすがりついていた。


「ねぇアラタくん……この人絶対にやばいわよ……!」


「≪絶刀のオキタ≫……戦場ではクールですかしたヤツだと思ってましたが、普段はこんな感じなんですね……」

 

 うーん……こんなヤツが配下だとか、ペンドラゴンも大変だなぁ……。

 そうして、見た目は美少女・頭脳はクソな変態野郎への対処に俺たちが迷っていた時だ。


 不意に現れた大男が、背後からオキタの頭をボコンと叩いた。

 

「──そこまでにしておけ、馬鹿者がッ!」


「っ、ヘラクレス殿……!」


 その男に怒鳴りつけられた瞬間、オキタが即座に身を竦ませる。

 浅黒い肌に刈り上げた短髪の、ガッシリとした武骨漢である。傷だらけの白い鎧を纏った姿は、まさに歴戦の騎士そのものだった。

 彼はこちらに目を向けると、重厚な声でオキタの非礼を詫びてきた。


「……すまない。我が同胞が不快な思いをさせてしまったな。

 我が名はヘラクレス。【暁の女神】のサブマスターを務めている者だ」


「へぇ……じゃあアンタも、主君を侮辱された件については怒り狂わなきゃいけない立場じゃないのか?」


「ま、まぁそうなのだが……その、なんだ。我が主君は、白濁まみれにされた件についてはむしろ喜んでいたのでな……。

 『あそこまで情熱的に噛み付かれたのは久しぶりだ』と、笑いながら語っていたぞ」


「お、おう……そうなのか。アイツも相当アタマがヤバいな……」


 おいおい、【暁の女神】大丈夫かよ? 頭のおかしいジャンヌの奴も結構偉い立場みたいだったし、幹部ども全員変態じゃないといけないのか?

 そんな俺の考えを察してか、ヘラクレスがフッと笑ってきた。


「ハハッ……まぁ吾輩が言うのもなんだが、あの主君が集めてきただけのことはあって、幹部連中は変わり者ばかりだ。

 ──だがしかし、実力だけは折り紙付きだぞ? 現に今まで大きな戦いでは無敗を誇ってきたことを……そこの2人はよく知っているのではないか?」

 

 俺が両脇を見ると、アリスとレッドフードが悔しそうな表情を浮かべていた。

 ……なるほど、言ってくれるじゃないか。


「いいぜ、ヘラクレス。それにオキタ……せいぜい今の内にはしゃいでればいいさ。

 最後に勝つのは──【ワルプルギスの夜】なんだからな」


「アラタくん……」


「お兄さん……っ!」


 少女たちの肩にポンと手を置き、ペンドラゴンの配下共に向かって宣誓してやる。


「ほう……これは確かに、我らが主君が気に入るわけだ」


「ええい貴様ー! ダブルロリ巨乳とかズルいでござるぞぉ!」


 ……オキタの頭をもう一度殴るヘラクレス。

 そうして彼はニヤリと笑いながら、雑踏の中に消えていくのだった。


「覚悟するがいい、魔人種の王よ。──我らが女神は無敵だぞ」

 

 自身に満ち溢れた声で、そう言い残して。




◆ ◇ ◆




「……はぁー、怖かったぁ……! あいつら2人とも、別の意味で怖かったですよぉ……!」


「そうね……オキタのほうはともかく、≪絶壁のヘラクレス≫はすごい貫禄だったわ。流石は【暁の女神】のサブマスターなだけはあるわね……」


 ヘラクレス(とオキタ)の姿が完全に見えなくなるのと同時に、少女たちが安堵の吐息を漏らした。

 不倶戴天ふぐたいてんの敵同士であるがゆえ、面と向かって話したことはなかったようだ。


「流石といえば、お兄さんもすごいですよ! ペンドラゴンぶっかけ事件といい、よくも堂々と喧嘩を吹っ掛けることが出来ますねぇ」


「何言ってんだ。ビビッたってしょうがないだろ? どうせあと三日くらいしたら全面戦争しなきゃいけなくなるだろうし」


「えッ!? 何それ初耳なんですけど!? ちょちょちょ、どういうことなんですかそれー!?」


 騒ぎ立ててくるレッドフードだが、まぁ今は秘密だ。確実に決まったことじゃないしな。

 そうして少女たちを引き連れて、そろそろギルドに戻ろうとしていた時だ。



「──おぉっと、どうしたんだオキタ? こんなところでへたれこんでしまって」



 ……少し歩いた先の路地裏のほうから、なぜかヘラクレスの声が聞こえてきた。

 そっと覗いてみると、そこにはぐったりとしたオキタと、なぜかニヤニヤと笑っているヘラクレスの姿が……。


「うう……ヘラクレス殿におごってもらったアイスティーを飲んでから、なぜか眠気が……。

 あれっ、視界の端に『睡眠異常状態』のアイコンが……? そんな……なん、で──」


「フフフ、なんでだろうなぁオキタよ? さぁどうしたものか……運悪く状態回復アイテムを切らしていてなぁ。

 こんなところで眠ってしまったら、どんな変態に悪さをされるか……」


「ははっ、何を言ってるでござるか……拙者、男の子でござるぞ……?

 あぁ、もう限界でござる……。ではすまないが、近くの『宿屋』にまで運んでもらえると──……すぅー……すぅー……」


「ッッッシャァッ! 言質はとったぞ!? お前から誘ったんだからなぁオキタァッ!? クンクンスゥーハァーペロペロされても、もう文句は言えねぇからなァァアアアッ!?

 テメェの細腰をガッシリと掴んで、ただのメスにしてやんよぉおおおお!!!」


 そうしてオキタのことをお姫様だっこして、ヘラクレスは息を荒らげながら歩きだす。


 ──路地裏を抜けた先にある、ピンク色の光を放つ宿屋に向かって……!



「「「……見なかったことにしよう」」」



 俺とアリスとレッドフードの心が、最大にまで結束された瞬間だった。


   


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