19:白と黒の邂逅(改稿)
──≪百人斬り≫の動画が世を騒がせた日の翌日。続けて投稿された動画は、またもや世界を震撼させた。
タイトル名は≪二騎当千≫。その名の通り、数百人を超える敵を相手に、≪黒髪の鬼人≫と≪黒銀の姫君≫がたった二人で無双するという内容の動画である。
そのぶっ飛んだ戦いぶりに、魔人種プレイヤーの視聴者たちはもはや狂乱状態だ。
『ちょお待ってんかアリスはん! 呪文666連発ってチートやろもう!?』
『アリスさん闇堕ちしてるじゃねえか! ビクビクしてるところが可愛かったのに、アラタてめぇ何したゴラァァァ!?
──でもドSロリもいいと思います!』
『なんだよあの鬼人族の装備、完全にラスボスじゃねえか! 滅茶苦茶デカい大剣にもよく見たら目玉付いてるし!』
『うおおおおお極振り燃えるぜぇ! よーし俺も≪変貌の酒杯≫買ってこよ! ……って誰だよ買い占めたヤツ!?』
『この鬼人さんにあこがれて筋力強化スキル取りまくったら、うっかり空までジャンプしちゃったんだけど質問ある???(落下中)』
『↑成仏して、どうぞ(無慈悲)』
などなどなど、ハイテンションのコメントで溢れかえっていた。
……ただし聖騎士プレイヤーと思わしき者たちのコメントは、
『【悲報】ワイ、聖騎士の盾持ち。筋力1万9000でぶった斬られることが確定【絶対死ぬ】』
『【悲報】ワイ、聖騎士の呪文使い。最終兵器ロリ巨乳と撃ち合うことが確定【絶対死ぬ】』
『【凶報】ワイ、弱小聖騎士。アラタさんに取り入ろうと魔人種キャラを作ったら初心者狩りにあって死亡【ふざけんな】』
『↑マジかよ聖騎士最低でござるな……(by【暁の女神】幹部)』
『なんだよこの動画……ねーよ……こんなん絶対やらせだろ……てかやらせであってくれよ……!』
──といった感じで、お通夜ムード全開だったが。
兎にも角にも魔人種たちからは信奉され、聖騎士たちからは絶対的な恐怖の対象となったわけだが──────いいのかお前たち?
その時の俺、ゲーム始めてからまだ二日目だったんだが……!
◆ ◇ ◆
「──うまッ!? ミノタウロスのステーキうまッッッ!」
ギルド【ワルプルギスの夜】を侵略してから翌日。俺はオープンテラスのカフェで一人、モンスター肉を使った料理に舌鼓を打っていた。
うーん……これが牛頭の怪物、ミノタウロスの味なのか。普通の牛肉と比べると肉質は固いが、その分噛み応えがあって味もジューシーである。付け合わせのマンドラゴラのサラダもほどよい苦みがあってグッドだ。ステーキの脂っこさを丁度いい具合に打ち消してくれる。
よーし、攻略wikiに感想を書いておこっ! 『ミノタウロスのステーキ──評価:65点。味は良いけど、一般的なボリュームで5000ゴールドは少し調子乗りすぎ。また通常の牛ステーキと比べると臭みが強く、とてもじゃないがカフェメニューには向いてない』……っと。
(ふぅ……ようやく一息つけたなぁ……)
お腹も膨れてきたところで、昨日からの出来事を思い返す余裕ができた。
──侵略戦に敗北した【ワルプルギスの夜】であったが、俺を新たなギルドマスターとして生まれ変わることになったのだ。
その情報は瞬く間に拡散され、俺に対する期待感や興味も相まって、なんと3000人を超えるほどのプレイヤーたちからギルドへの加入申請があったのだった。
それからはもう大忙しだ。とりあえず加入希望者は全員入れることにして、今後の作戦のためにも幹部たち蛇少女三姉妹には加入者全ての主な戦闘スタイルを聞き出しておくことを指示。
弱音を吐く幹部たちだったが、「お前たちのことを信頼しているッ!」と言ったら張り切って働いてくれた(もう深夜だったので、このあたりでアリスさんがログアウトした)。
さらには今回の戦いによって≪変貌の酒杯≫が高騰するだろうことを見越して、可能な限り買い占めておく必要があった。値段が最高潮に達したところで転売しまくって稼ぐためだ。
しかし≪変貌の酒杯≫はダンジョンドロップの限定品であり、商人をやっているプレイヤーたちから直接買い集めなければいけなかったため、幹部たちには世界中の街へと旅立つように指示。
泣き言を吐く幹部たちだったが、「お前たちにしか出来ない仕事なんだッ!」と言ったら張り切って駆け出していった(俺も正直眠かったので、ログアウトして適当に動画上げてさっさと寝た)。
そして今日。今後のことについて話し合うために【蓬来ファミリア】に行くと、「アリスをあんなに立派にしてくれてありがとねぇっ!」とカグヤに抱きつかれたりキスされたり、黒服たちには「ナイスカチコミでございやしたァアアアッ!」と泣きながら拍手されてそのまま酒盛りに突入したのだった。
「ふぅ──大忙しだったな、俺……!」
指示して……指示して……あと取引先と飲んで騒いで……うん! 大忙しかったな、俺ッ!(断言)
──とにかくこれで、【暁の女神】に立ち向かうための下準備は出来たわけだ。
さぁ、大事なのは明日からだな。とある『作戦』を実行するためには、明日からの数日間で聖騎士たちにどれだけ打撃を与えることが出来るかが重要になってくる。
必ず上手くいく保証はないが──不安なんてものは一切ない。何故なら俺は、仲間たちを信じているからだ。
(フフフ……さっき幹部たちの顔を見たが、どいつもこいつも目をギラギラとさせてヤバい笑顔を浮かべていたからなぁ。
やる気は十分みたいだし、俺も存分に暴れさせてもらうとするか……ッ!)
そう思いながら、食後のミルクティーに手を伸ばそうとした……その時。
「なるほど。貴殿がかの有名な、『鬼畜魔王』と呼ばれる男か」
──凛と涼やかに響き渡る、まるで天使のような美声。
突如としてかけられた声に前を向くと、そこにはいつの間にか、白いベールを被った女が座っていた。