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18/21

18:闇の底より



 ──俺とアリスが街道に姿を見せた瞬間、数千人のプレイヤーたちが大歓声を張り上げた。

 


「うおおおおおおおおおっ! 見てたぞアンタらッ! 2対478で勝っちまうってマジかよーっ!

 てか≪逆鱗狂典クイーンオブハート≫なんて一体どこのダンジョンで手に入れたんだよッ!?」


「最上級呪文が速攻で出せて、初級呪文が無詠唱になっちまうくらいの極大詠唱省略効果なんてヤバすぎだって! ……デメリットの量もちょっと吐きそうになるレベルだがなっ!」


「まだまだそんな装備があるとわかれば、【遅延術式】みたいに他の雑魚スキルにも使い道ができる日がくるかもなぁ!

 それに【赫怒かくどの意思】なんて取ってるヤツも初めて見たよ! MP回復ポーションでも飲んでれば、わざわざあんなスキルを取得することも……あっ! もしかして【遅延術式】で呪文を溜め込んでるのを気付かせないようにするためか!?」


「ハーーッハッハッハ! 公開モードで手の内を晒してしまうとは愚かだなぁ魔人種どもめッ! 我ら聖騎士の名誉にかけて、いずれ貴様らを……──って、あのあのあの、アラタさんねぇやめて? 笑顔で『決闘申請』連打してこないで!? 筋力1万9000で殴られたら絶対死んじゃうから、ねッ!?」


 誰も彼もが祝杯を上げたり奇声を上げたり、戦いの内容を検討したり聖騎士たちがビクビクしたりと、みんな大騒ぎである。

 いやー、注目を浴びるのっていい気分だなぁ! なぁアリス!


「ちょっ!? アラタくん放して! みんなに見られてるからぁ……っ!」


「おいおい、フラフラのくせに何言ってんだよ。二人で(覇道を)生きていこうって誓い合った仲だろうが!」


「た、たしかに誓い合ったけどぉッ!? ってあああああああああ! 情報屋さんやブロガー系っぽいプレイヤーたちがなんかすごいメモってるんだけどぉ!?」


 ──ちなみに今回の戦いの主役であるアリスさんはというと、俺の手の中でお姫様だっこされていた。

 侵略戦が終わった瞬間、精神的な疲労によってへたれこんでしまったのだ。

 はたから見れば圧倒的な勝利に思えるのかもしれないが、実際のところはギリギリの状況だったからなぁ。何しろ俺たち、一発でも攻撃がかすればアウトなわけだし。


「うぅぅうう……やっぱりアラタくん、鬼畜だわ……!」


 顔を真っ赤にしながらジタバタともがくアリスだったが、しばらくすると観念したのか、俺の懐にすっぽりと収まってしまった。

 

「もう明日から街を歩けないよぉ……!」


「大丈夫だ、またお姫様だっこで運んでやるから」


「そういうことじゃないからッ!?」


 あー今日もパイセンは最高に可愛いなぁチクショウッ!



 そうして多くの視線に見送られる中、アリスと共にしばらく歩き続けていくと──



「────着いたか。……思えばアリスには、“ここ”で拾ってもらったんだったな」


「ああ、そういえばそうだったね……」


 やがて俺たちは、【始まりの街】の片隅にある木々に囲まれた薄暗い場所に出た。

 それなりに人はいるものの、誰もが肩を深く落として、陰鬱な雰囲気をかもし出している。


 そう──俺たちは、死亡したプレイヤーの行きつく先である『墓場』にまでたどり着いたのだった。

 




 ◆ ◇ ◆




「魔王こわい……筋力こわい……1万越えやばい……! 剣が当たった瞬間、身体がズパーンッて弾けて、ズギュゥウウウウンッてものすごい衝撃が……!」


「大悪魔こわい……最上級呪文こわい……無詠唱やばい……! 黒い光線がズババババァって飛んでくるよぉ……!」




 墓場をちらほら見渡してみると、すぐにその集団は見つかった。

 つい先ほど、俺とアリスによって全滅させられた魔人種の一団である。


 みんなガタガタと震えている様子だが……特に幹部の蛇三姉妹がひどい有り様だな。

 抱き合いながら「「「ごわがっだよぉおおおお~~~~!」」」とガチ泣きしている。なんか可愛いなオイ。


「よぉお前ら」


『ひいいいいいいいいいバケモノ共が追ってきたあああああああ!?』


 いや、そんなこと言ったらお前らも魔人種バケモノだろうがよ……。

 どうやら俺とアリスの存在はこいつらの中で危険生物認定されてしまったらしい。

 ちょっと傷付くなぁと思っていると、俺の腕からアリスが飛び降り、幹部たちに対して微笑みかけた。


「もう、そんなにビクビクしないで頂戴。ほら──私なんてどうせ『マスコット』扱いがいいところの『クソザコアイドル』なんでしょう?」


『めめめめめっ滅相もございませんアリス様ッッッ!!!』


 ……うん、ちゃんとした格付けが出来ているようで何よりである。

 そんな具合で震えている連中をかき分けていくと──


「よっ、赤飯」


「……こんにちは、お兄さん。それと……アリスさん……」


 今の今までへこみまくっていたのだろう。死んだ目をしたレッドフードが、体育座りでちぢこんだまま応えた。

 装備が全壊してしまったのか、赤い頭巾の下に隠されていたフワフワとした茶髪が露わになっており、可愛らしかったメイド服もあちこちが破れて大変いやらしいことになっている。あっ、イヌ耳もめちゃくちゃへたれこんでる……。


 うーん、あくまでもちゃんと決闘した上での結果なんだが……なんというかアレだな。

 アリスさんが12歳くらいの見た目(乳除く)だとしたら、コイツは14歳そこらの容姿をしているせいか……。


「なんか……女子中学生をらしめちまったみたいでちょっと悪い気がするな……」


「はぁっ!? じょじょっ、女子中学生じゃねーですしっ! リアルじゃちゃんとした大人のレディですし!!!」


 う、うん?

 ……何の気なしに言ったセリフに、何故かレッドフードが食い掛ってきた。

 そんなに気に障ることだったのだろうかと困惑していると、アリスがキョトンと首をかしげて彼女に尋ねる。


「あらレッドフード……アナタって前に、15歳近く年の離れたキャリアウーマンのお姉さんがいるって言ってなかったかしら?

 それでたしか、『頭のおかしいウチのクソ姉貴、三十路手前だっていうのに好きだった部下の男の人に逃げられたらしいんですよぉザマァァァ!』とか言って笑ってたような……。つまりアナタの年齢って、」


「ううううううううううるっさいですよ! もーっ!!!」

 

 ……うん、リアルの年齢について突っ込み過ぎるのはマナー違反なのでやめることにしよう。

 たとえ本人から爆死していたとしても、だ。

 

「よしよし赤飯……お前は大人のレディだな! 小柄なくせしてパインパインなその胸も、別に思春期特有のノリでちょっと大きく設定エディットしすぎちゃったとかそういうことはないんだよな、うん!」 


「ちょっ、なんかお兄さんムカつくんですけどぉ!? それにこれは地ですしぃ! お母さんがアメリカ人ですから発育いいんですしぃー!

 疑うようなら、胸元の写真を撮って見せてあげても──」


「お前マジでちょっといい加減にしろよ」


 どうしよう……この子のネットリテラシーがやばい。というか侵略戦が始まる前のアリスとのやり取りの時もそうだったが、煽り耐性低すぎだろコイツ……。



(ったく……何があるか分からないんだから、身バレに繋がる情報は伏せなきゃダメだろ。

 まぁ俺もアリスに対して、三十路手前で焦ってる頭のおかしい金髪ハーフ女上司の話をしたけど…………って、うん?)



 いやちょっと待てよ──っていやいやいやいやいや!? そんな偶然が立て続けにあるわけないだろうが!

 まっさかー!


「なぁ赤飯……頭のおかしいお前のお姉さんって、髪色なに?」


「えっ、金髪ですけど」


 よーしこれ以上の詮索はなしだ!!! マナー違反になっちゃうからなぁーうん!

 危うくお前の『お義兄にいさん』になるところだったっていうのは永遠の秘密だッッッ!


「なんですかお兄さん……お近づきになりたいっていうなら、覚悟したほうがいいですよ? あのクソ姉貴、好きなタイミングで排卵できるようになっちゃったくらい婚期に焦ってますからね」

  

「何だそれ気持ち悪ッ!? どんだけ焦ってんだよあの女!」



 ──って……んん?



 そ、そういえばあの女上司と雰囲気が似てるジャンヌダルクも、そんなことが出来るとか言ってたような……ってオイ嘘だろおいッ!?


(……決めた。実際はどうなのかわからないが、とにかくジャンヌのヤツにだけは身バレしないようにしよう……!)


 戦々恐々としながら、そんなことを思っていた時である。

 不意にレッドフードが顔を曇らせると、吐き捨てるようにして俺とアリスに呟いてきた。


「はぁ……それで、何をしに来たんですかお二人とも。ギルドも奪い返したことですし、わたしみたいな憎い相手にもう用はないでしょう……」


 そう言って彼女は、体育座りの膝の上の顔を伏せてしまった。

 憎い相手か……どうやらこの子はほんの少しだけ勘違いしているようだ。


 ──小さく震えるレッドフードの肩に、アリスがそっと手を置いた。

 そして……優しい瞳で彼女を見つめる。


「えっ……アリスさん?」


「たしかに私は、ギルドを乗っ取ったアナタや幹部連中に対して怒っていたわ。

 でも……憎いと思ったことは、実はあんまりなかったりするのよね」


 俺たちのやり取りを見守っている周囲の魔人種たちにも聞こえるように、アリスは語る。


「心の底ではわかってた。結局ね、悪いのは私だったのよ。だって、戦う力もなければ意思もない女なんて──ぶっちゃけると『害悪』でしかないでしょう? 

 今は乱世だっていうのに、トップの女がヘタレすぎて戦えませんとか……何それ笑える。

 私が憎いと思うとすれば……それはバクテリアよりも弱かった、かつての私に対してよ」


 まるで一切の容赦もなく、かつての自分を罵るアリス。

 彼女はそこで言葉を切り──凛とした声で宣誓する。


「──だけど私は戻ってきたわ。戦う力と戦う意思を手に入れて、逆襲を果たすために戻ってきた。

 もう誰にだって馬鹿にはさせない……今度こそ、聖騎士たちを葬ってやる。

 だから私と、私が仕える魔王様に協力しなさい。アナタたちの力が必要よ」


 絶望の気配に満ち溢れた空間に、アリスの言葉が響き渡った。

 ああ、もはや彼女に非力さを嘆いていた頃の面影はない。今のアリスは間違いなく、女王の気品に満ち溢れていた。


 魔人種たちが呆然とする中、俺も言葉を続ける。


「……もしも幹部の連中が、金や地位を目的としてギルドを略奪したっていうなら俺は絶対に許しはしなかったさ。

 だけど違うだろう? お前たちは、魔人種として『勝利』を掴むためにアリスを追放したんだろう? なぁ」


 俺の問いかけに、レッドフードを始めとした幹部の者たちが苦い顔で首肯した。

 ……アリスを力づくで排除したことについては、やはり言いたいこともある。頼りないなら支えてやればよかったじゃないかと責めたい気持ちも大いにある。

 だが決して──アリスと同じく、俺も本気で彼らを憎んでいるわけではなかった。


「金や地位が目的であれば、それこそ聖騎士側に寝返ればいいだけの話だ。

 だけどお前たちは……あくまでも魔人種として戦おうとした。勝ち組として蹂躙する道を選ぶのではなく、負け組として反逆を成す道を自ら選んでみせたんだ。

 ああ──どうしても勝ちたかったんだろう? 逆転したかったんだろう? 調子こいてる連中に、一泡吹かせてやりたかったんだろう? その気持ちだけは大いにわかるさ」


 【ワルプルギスの夜】はたしかにトップギルドである。だがしかし、所詮は『負け組の中のトップ』だ。矢面に立たされる分、ある意味もっとも辛い立場にあるのかもしれない。


 そして、仮にも幹部と呼ばれた者たちならば、聖騎士として一からキャラを作り直してもきっとすぐに活躍できたことだろう。

 資源も豊富で軍勢として優勢な分、その実力を心置きなく発揮できたはずだ。



 ──だけどレッドフードを始めとした幹部連中は、沈んでいくボロ船にしがみつき続けた。必死で必死で勝利に向かって漕ぎ続けた。

 他の構成員たちも、舐められたら怒り狂うほどにギルドに対して誇りをいだいていた。



「なぁお前たち──このまま負けっぱなしでいいのか? 聖騎士たちへの恨みすらも晴らせないまま、このまま墓場で震え続けているつもりか?」


 俺の言葉に、魔人種たちが一斉に瞳をギラつかせる。語るまでもなく、“このまま終わって堪るものか”と彼らの眼光がえ叫ぶ。


「そうだ、良いわけがないよなぁ? 勝ちたいよなぁ!?

 ──だったら、この俺に力を貸せッ! 命も誇りも全部預けろ! 【暁の女神】を滅ぼすためには、お前たちの“反逆の意思”が必要だ!」


 俺は黒衣をひるがえし、彼らに向かってそう言い放ったのだった。


 そして──


「ッッッ……何言ってんだよアンタはよぉッ! ンなこと言われたら、男として断れるわけがないだろうがッ!」


「上等だァッ! 聖騎士共をぶっ倒すことが出来るんだったら、魔王にでも悪魔にでもついていってやるぜ!」


「負けっぱなしで終わって堪るかぁ!」


 まるで広がる波紋のように、続々と湧き上がっていく魔人種たちの大熱声。

 どうか光を滅ぼしたまえと、誰もが俺にこいねがう。



 ああ、いいだろう──お前たちの想いは受け取った!



「ならばついてこいお前たち! 逆襲の時が来たことを、憎き女神に告げてやろうッ!」


『オオオオオォォォオオオ────ッッッ!』


 こうして──暗く沈んだ墓場より、亡者たちの大合唱が響き渡ったのだった。

 




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