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16:ワルプルギスの悪夢



『──アラタ・アリスの2名より、ギルド【ワルプルギスの夜】に対して侵略戦が挑まれました』



 無機質なシステムボイスが、古城の庭園に響き渡る。

 それに対してレッドフードと呼ばれた少女は、ぽかんと口を開けるばかりであった。


「……は? あの、えっと……侵略戦ってアリスさん……? てか、その──たったの2人で? えっ?」


「御託はいいから、受けるかどうか決めて頂戴」


 他のギルドメンバーたちも目を丸くしてアリスを見るが、しかし彼女は素知らぬ顔だ。真紅の瞳を凛と光らせ、レッドフードの返答を待つ。


 ──やがてレッドフードは苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべると、アリスに対して吐き捨てた。


「っ……何を考えてやがるんですか貴女はッ! いいですかっ!? 『侵略戦』というのは、敗北したらギルドの拠点や運営権……さらには資金や倉庫のアイテムまでも奪われてしまう重大な戦いなのですよ!?

 そんなものを即オッケーできるわけないじゃないですかっ! もっと準備だとか日程だとか、そもそもこちらが勝った場合のメリットを提示してですね──」


 口早に正論をくし立てていくレッドフード。だが、しかし。


「あら──もしかして、怖くなっちゃったのかしら?」


「……あ?」



 ──アリスが放った挑発に、彼女は見事にひっかかった。



「あ? じゃないわよ。せっかく私が気を使ってあげて、400人以上のメンバーを呼び寄せてあげたっていうのに……本当に残念だわ。

 まさか、たったの2人を相手にビビッちゃうような子がギルドマスターだったなんて……はぁ」


「ッ──テメェ調子のってんじゃねぇですよッ! 『侵略戦』は先に全滅したほうが負けっていうルールなんですよ!?

 そちらがたったの2人に対して、こちらはッ! こんな戦力差でやったってこちらの勝ちに決まってるじゃないですかッ! やるだけ時間の無駄ですよ無駄っ!

 ったく……例の≪百人斬り≫のお兄さんを味方につけたってのは噂になってますが、だからって……」


 イヌ耳をピンと逆立てながら、アリスのことを睨みつけるレッドフード。

 だがここで──彼女は何かを思いついたようで、今度は俺に対して声をかけてきた。


「ふっ……ふふふふ……! お兄さんお兄さんっ、そういえば貴方の活躍は見せていただきましたよぉ!

 あの頭のおかしいジャンヌダルクを真っ二つにしちゃうシーンは最高でしたねー! わたし、すっかりお兄さんのファンになっちゃいました!」


「おお、ありがとうな赤飯」


「赤飯ッ!? え、レッドフードだから!? ……い、いやまぁそれはいいとして、実はちょ~っとした提案があるんですよぉ。

 あのですねぇー……」



 ──お兄さんに5000万ゴールド支払いますので、わたしの味方になりませんかぁ?



 レッドフードがそう言った瞬間、【ワルプルギスの夜】の幹部たちがざわついた。


「なっ……マスター何言ってんだよ!? それってギルドの資金のほぼ半分じゃねえか!」

「わざわざ買収などせずとも、こちらの勝ちは決まったようなものでしょう! 相手はたったの二人で、それに片方はあのアリス殿なのですぞ!?」

「つかアリス、あんたクソザコアイドルの分際で何考えてんのよ! ミドリムシよりも弱いくせに、侵略戦を挑んでくるなんてトチ狂ったわけ!?」


 口々に吠える幹部連中。しかしレッドフードが一睨みすると、一瞬にして彼らは押し黙った。


「……それで、どうしますかぁお兄さん? 言っておきますけど、わたしは本気でお兄さんのことを誘ってるんですからね?

 ≪百人斬り≫の動画で見せてくれた貴方の戦闘能力は素晴らしかったです。それに加えて、今もっとも話題の有名人がウチのギルドに入るとなれば、きっと宣伝になることでしょう。

 そう、お兄さんには5000万支払うだけの価値がある……! 隣にいる実力もお金もないバカ女なんかとはさっさと手を切って、わたしのモノになっちゃってくださいな」


 アリスのことをちらりと一瞬見下しながら、俺に対して蠱惑的な笑みを浮かべてくるレッドフード。

 なるほど、5000万ゴールドか。たしかに魅力的な誘いに思えるが──しかし。 


「おいおい……ちょっと待とうぜ赤飯。その条件じゃ、そもそも取引になってないじゃないか」


「だから赤飯ってなんですか……えーと、もしかしてもっとお金が欲しいとか……?」


「違うっての。だってお前、よく考えてみろよ。侵略戦に勝利したら、そのギルドの資金っていうのも全部こっちがもらえるわけなんだろう?

 だったらお前の勧誘に意味なんてねぇよ。──勝つのは俺とアリスだからな」


「なッッッ……!?」


 その瞬間、にこやかだったレッドフードの顔が一気に鬼の形相となった。

 さらには幹部連中はもちろんのこと、黙り込んでいたギルドメンバーたちも俺に対して一斉に怒りの視線を向けてくる。


「っ──アンタほざいてんじゃねぇぞ! いくらアンタが≪百人斬り≫を成し遂げた野郎だからって、『足手まとい』を引き連れて勝てるわけがねぇだろうが!? てか68人しか斬ってねぇし!」

「お前がアリスさんをそそのかしたんだなッ! じゃなきゃ、『戦力外』のアリスさんが侵略戦なんてしかけてくるわけないもんなぁ!」

「舐めやがって! こうなったら二人まとめてぶっ殺してやる!」


 ついにその手に武器を構えて、魔人種たちは殺意の叫びを張り上げた。

 ああ──最上位ギルドの構成員として、“舐められた”ことが相当頭に来たらしい。見くびられたことが、馬鹿にされたことが、彼らの理性を一気に消し飛ばしたようだ。



 だけどなぁ……お前たちは気付いているか?



 聖騎士たちにはなぶられて、さらには仲間たちからも見下されて、追い出された……お前たち以上に屈辱的な目に合ってきた少女がいることを。

 そいつが一体──どれだけの『怒り』を胸に秘めているか、お前たちはわかっているのか?


「チッ……いいでしょう、お兄さん。今回の侵略戦、受けてあげますよ。

 ──ただし条件があります! それは、【ワルプルギスの夜】を見くびった愚か者がどんな眼に合うのかわからせるため、『市街地公開モード』で戦うということ!

 ボッコボコにされる姿をせいぜいみんなに見てもらうがイイですよっ! ……アリスさんも、わかりましたね!?」


「ええ……何でもいいからさっさと始めましょう。アナタの話は長いのよ」


「あぁッ!?」


 苛立たしげに吠えるレッドフードだが、アリスの態度は揺らがない。

 氷のように冷たい眼光を放ったまま、その手の中に『赤黒い魔導書』を召喚させる。


「……それじゃあ魔王様。打ち合せ通り、私が詠唱を終えるまで守ってもらってもいいかしら?」


「ああ、もちろんだ。何なら全滅させてやっても構わないぞ?」


「それはダメよ。彼らは──あくまでも私の獲物だから……!」


 真紅の瞳を煌めかせ、アリスは凄惨に笑う。

 まったく恐ろしいことだ……。これは俺も、恥ずかしい姿は見せられないな。


「それじゃあ赤飯、開始の合図をよろしく頼む」


「ッ、指図してんじゃねえですよっ! ……それではこれより、『侵略戦』を開始します──ッ!」


 レッドフードが叫んだ瞬間、古城の周囲に光の結界が張り巡らされた。この領域においてのみ、プレイヤーキルが可能になったということか。

 さらには空中に巨大なウインドウが出現し、戦場全てを映し込む。



 かくして────2対478という、絶望の決戦が幕を開けた。



『死ぃねェェェェエエエエエエッッッ!!!』



 鬼が、小悪魔が、妖精が、獣人が、その他にも吸血鬼が、屍人が、虫人が、巨人が──俺たちに向かって武器を構えて襲い掛かってきた。

 さながら暴力の大津波だ。アレに飲み込まれたが最後、肉片すらも残らなくなってしまうだろう。


 俺とアリスの死を期待して、後方でレッドフードが狂い笑う。


「あははははははっ! さぁみなさんッ! 魔人種最強ギルドの名に懸けて、反逆者共を抹殺するのですッ!」


 こうして哀れな愚か者と追放者は、数秒後には全身を切り刻まれて死亡するはず──




 ──だと思ったか? 【ワルプルギスの夜】。




「俺たちの“反逆の意思”を舐めるなよ──いくぞ、魔人種共」


 背負われていた黒き大剣を引き抜いて、人外の軍勢へと俺も駆けた。

 ああ、土埃を上げながら連中が迫ってくる様はたしかに驚異的である。

 2対478……なるほど、大した数字の差じゃないか。


 だったら──


「今こそ目覚めろ、≪絶滅剣デミウルゴス≫。我が生命を喰らい尽くし、この身に力を与えるがいいッ!」


 ウェポンスキル【憑神の契約】、発動──ッ! 


 その瞬間、大剣の柄を握る手より膨大なエネルギーが溢れかえってきた。

 これによって全ステータスが1.99倍になった代わりに、俺のHPバーが一瞬にして残り1%へと落ち込むが──それこそが俺の狙いだ!


 身体を満たしていく全能感に酔いしれながら、重ねて俺は吠え叫ぶ。


「【反逆の意思】、発動──ッ!」


 HPが30%を下回ったことで【反逆の意思】が発動し、俺の筋力と敏捷値が4倍にまで跳ね上がる。


 加えてさらに、もう一歩──ッ!



「ここに条件は満たされた! 新スキル【絶滅の意思】、全開発動──ッ!」

 


 そして──俺が地面を強く踏みしめたその瞬間、


 突然起きた未曽有の事態に、魔人種の軍勢が大きくたじろぐ。


「なっ、なんだこれは! 地震か!?」

「馬鹿言えっ! このゲームにそんな現象は──!」


 そうだ、ゲームの世界に地震なんてあるわけないだろう。

 これは──『12倍』と化した俺の筋力によって巻き起こったものなのだ……!


(新たに取得したスキル、【絶滅の意思】。HPが10%を下回った時に発動し、自身にかかっている“ステータス補正率”を2倍にする効果を持っている。

 それに加えて、もしもHPが1%まで落ち込めば──その倍率は3倍になる……ッ!)



 つまり俺の筋力1600は、【憑神の契約】によって約2倍になり、【反逆の意思】によってさらに2倍となり、【絶滅の意思】によって補正率が3倍になり……その結果、



「筋力値12倍──にまで到達だ。それじゃあ耐えろよ……魔人種共ォォオオオオオオオッ!!!」



 かくして俺は、たじろいでいる大軍勢の目の前にまで一瞬で接近し──黒き大剣を全力で叩きつけたのだった。


「剣術奥義(スキル)――参式、〝斷絶轟壊刃〟!」


『ヒッ、ヒギィイイイイイイイイッ────!?』


 そして──巻き起こる大災害。

 俺が大剣を振り抜いた瞬間、数百人もの人外たちがまるでゴミのように空へと舞い上がっていった。


 ──これが筋力値1万9000による、真の数字の暴力だ。


 俺の一撃が直接当たった最先鋒だった者たちは当然死滅し、さらには後方にいた者たちすらもが衝撃波によって吹き飛ばされた。


 さて……これで100人くらいは死んだだろうか。

 

(──俺の仕事は終了だ。もっと暴れてやってもいいんだが、流石に筋力12倍となると力のコントロールが難しいからな……)


 全力で集中しないと身体が上手く動かない上、この状態でのHPは1%と来た。強化系スキル全力複合発動モード……これは最後の切り札としてあつかったほうがいいだろう。


 ま、やることもやったし脇役はさっさと引き下がることにしよう。

 俺は余裕そうなフリをしながら、魔人種の軍勢にきびすを返した。


 ──さぁ、いよいよ主役の晴れ舞台だ。



「それじゃあ後は頼んだぞ。お前の『怒り』を見せてくれ──アリス」 



 俺が撤退するのと同時に、彼女の足元に極大の魔法陣が浮かび上がった。

 そしてアリスは手のひらをまっすぐに魔人種たちへと突き付けると、凛とした声で言い放つ。



「『我は堕天せし闇の支配者。くらく冷たき地獄の底より、星の終わりを望む者なり。

 さぁ愚者たちよ、赫怒かくどの光に焼き尽くされよ──ッ!』」



 ──≪スターブレイク・ジャッジメント≫。

 


 全てを滅する黒き閃光が、轟音と共に解き放たれた。



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・そのほかも!

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