15:逆襲の悪魔(改稿)
(クソ)運営の調べによると、魔人種には童話や伝承から名前を取ったプレイヤーが多く、聖騎士には英雄などから名前を取ったプレイヤーが多い傾向にあるそうです。
それをホームページで発表すると、『そんなこと調べてないで悪質プレイヤー対策しろカス』という意見が多く集まり、(カス)運営ちゃんはイタイイタイって気持ちになりました。
「……着いたわ。ここが魔人種最大のギルド──【ワルプルギスの夜】が集まる場所よ」
アリスと共に向かった先にあったのは、石造りの外壁に囲まれた『古城』であった。
街の中心部に堂々と建っていた先ほどの武家屋敷とは違い、郊外に位置したこちらの城は、ファンタジーな景観に十分適した印象を受ける。
「へぇ、いいところじゃないか。絵本にでも出てきそうな感じだな」
「ええ……ゲームを始めたばかりの頃に、仲間たちと相談して決めたの。いつか全員でこんなお城に住もうねって。
それからはみんなで頑張ってお金を稼いで、ようやく建てることが出来たのよ。あの時は嬉しかったなぁ……」
入り口を閉ざした鉄の城門に手を当てながら、アリスはそっと顔を伏せた。
──どうしてこうなってしまったんだろう。
そんな思いが、彼女の小さな背中から伝わってくる。
(……辛いだろうなぁ。その仲間たちっていうのもまた、顔を曇らせながらも幹部連中に付き従っていったそうだし……)
はぁ……やっぱり駄目だな、俺は。
慰めの言葉なんて思いつかない。もはや円満な解決方法なんて思いつけない。
ゆえに──言えることはただ一つ。
俺は左手で彼女を後ろから抱き寄せて、そして右手を城門に当てられたアリスの手に重ね合わせた。
「ア、アラタくん……っ?」
面食らいながらこちらを見上げてくるアリスに、せめて笑って俺は答える。
「悩んだり悔んだり考えたりするのは、全部ぶっ飛ばしてからにしようぜ?
──約束しただろう。邪魔者は全部ねじ伏せて、二人で仲良く覇道を歩もうって」
「アラタ、くん……」
「力がないと嘲られたなら、暴力によってそれを証明すればいい。居場所を奪われ地獄に突き落とされたのならば、地獄の底から足を掴んで引きずり込んでやろう」
抱き寄せる腕に力を込めて、耳元でそう囁いた。
ああ、俺にもっと慈悲や器や寛大な心とやらがあったら、アリスとギルドの連中を仲直りさせる策でも思いついたのかもしれないが──残念ながら俺は『勇者』じゃない。
彼女が逆襲を望むなら、喜んでそれを後押してやろう。
「……幹部連中はともかく、元仲間たちと戦うのは辛いっていうならそっちは俺が引き受けるが……どうする?」
そんな俺の問いかけに、アリスは静かに首を横に振った。
「……ううん、大丈夫よ。ちゃんと覚悟はしてきたつもりだから。
ただ……ほんの少しだけ懐かしくなって、寂しくなってしまっただけ」
そう言って彼女は瞳を閉じ、小さな身体を俺のほうへとそっと預けた。
そして、
「でも……もう大丈夫よ。私には、頼りになる『魔王様』がついてるから」
「ああ。俺だけは永遠にお前の味方だ」
こうして俺たちは微笑み合い、鉄の城門を共に押し開いたのだった。
──かくして相まみえる、400人以上の魔人種たち。
鬼がいた。小悪魔がいた。妖精がいた。獣人がいた。その他にも吸血鬼が、屍人が、虫人が、巨人が──。
城の前にある庭園には、数えきれないほどのバケモノたちが揃い踏みしていた。
その中より出てきた下半身が蛇の少女三人が、アリスを小馬鹿にした視線を向ける。
「……いったい何のご用なのぉ、アリスさま~? わたしたち幹部以外にも、ギルドメンバー全員にメッセージを送って呼び集めるような真似をして。
マスターの座に返り咲きたいってお願いなら、叶えられないよ~?」
「まぁまぁ、邪険にしちゃダメだよメデューサ。この子の呼びかけに応えてほとんどのギルドメンバーが集まったっていうんだから、それだけ人徳すごいってことだよ。
それも一つの力だと思うし……エウリュアレ的には、マスコットとしてギルドに加えてあげるくらいはイイと思うよ~?」
「ステンノはどっちでもいいかな~。……そんなことよりも、アリスさまの隣にいるのって≪百人斬り≫の……?」
蛇少女三匹――顔がそっくりなことから、おそらくリアル三姉妹――が、アリスが出戻りしにきたということを前提として好き勝手に話していた。
なるほど、こいつらが【ワルプルギスの夜】の幹部共か。
その後ろでは、ギルドメンバーたちがどこか気まずげにアリスのことを見つめている。
そうして重い空気が漂う中──やがて海が裂けるようにして集団が割れ、赤い頭巾をかぶった少女が姿を現した。
「──お久しぶりですねぇ、元ギルドマスターのアリスさん。意外と元気そうじゃないですかぁ?」
挑発的な笑みを浮かべるその少女。スピードに特化しているらしい『獣人族』なのだろう、頭巾からは茶色のイヌ耳がぴょこんと飛び出していた。
(それにしても……あの格好は……)
そして、小柄なくせに胸だけはツンと突き出たその身体には……なぜかコスプレっぽいメイド服を纏っていた。
フリフリのミニスカートから伸びたガーターベルトが、白い太ももを強調している様は大変すばらしいが──態度のデカさは完全にメイドのものではなかった。メイド舐めてんのかコイツ。
なるほど、この子が今のギルドマスターってわけか。
「……本当に久しぶりね、レッドフード」
「あははっ、出来れば“レッドフード様”と呼んでほしいんですけどねぇ? ……それで、今日はいったい何の御用で?
あっ、もしかしてわたしのギルドに入れてほしいとかぁ!?
うーんそれは困りますねー! 戦う意思も力もないナメクジよりも弱い女が入ってきたところで、任せられる仕事なんて……」
アリスに対して言いたい放題にしている少女。
しかしアリスはまったく動じず、真紅の瞳を光らせて──
「……いったい何を言っているのかしら。
私はただ──貴方たちのことを、ブチ殺しに来ただけよ」
そう言って彼女は、【ワルプルギスの夜】に対して『侵略戦』を申請したのだった。
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