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13/21

13:それはまさに鉄塊だった。




「アリス~!」


「カグヤーっ!」


 俺への挨拶もそこそこに、満面の笑みでアリスと抱き合うカグヤさん。

 アリスの銀髪をくしゃくしゃと撫でている彼女の姿は、友達というよりお姉さんといった感じである。……アリスを見る目が少し危ないのは無視してあげよう。


(うーん大変好ましい光景だ。アリスのほうもカグヤさんに懐いてるみたいだし、普段の落ち着いた雰囲気を忘れて子供みたいにじゃれついてるなぁ)


 こういうアリスも可愛さマックスである。

 まあ(胸以外は)ランドセルを背負っててもおかしくはないルックスをしてるし、ある意味年相応と言えるだろう。

 手下の黒服連中もにこやかな笑みで彼女たちを見守っている。


(いやぁ心が洗われるなぁ。うんうん…………うん?)



 俺──【蓬莱ファミリア】に何しに来たんだっけ?



 ◆ ◇ ◆



「──悪かったねぇお前様。アリスの可愛さについつい頭がとろけて、お前様の相手を忘れてたよ」


「いやいや、しょうがないってカグヤさん。健気で可愛い小悪魔ゴシックロリ巨乳の前になら、俺は喜んで空気になるさ。

 ──百合の花が咲く楽園には、男なんて不純物はいらないんだよ」


「お、お前様……っ! ……フッ、わかってるじゃないか」


 清々しい笑みを浮かべながら、固く手を握り合う俺とカグヤさん。


 あれから俺は、カグヤさん専用の鍛冶場にまで通されていた。

 ちなみにアリスには少し『準備』があるため別行動だ。


 カグヤさんは炉に火を着けると、花魁衣装の袖をまくり上げ始めた。


「さてと……アリスから聞いてたけど、ご所望なのは大剣でいいのよね? 大剣には装備条件として、武器のランクに応じて筋力値が求められることになるんだけど……お前様、レベルと筋力値はいくつ何だい?」


「えーと、今は37レベルで筋力値は1600だったかな」


「うっわぁっ、えげつない数値だねえ! 同レベル前衛騎士の1.5倍以上はあるよ……。

 まあ例の動画で『筋力極振りカウンター』なんて意味不明の鬼畜戦法やってたから、大体察してたけどさ……」


 何の気なしに答えた俺に、カグヤさんが苦笑いをする。

 あー、アレは格上のジャンヌダルクをぶっ殺すために必要な策だったからしょうがない。

 まあアリスと冒険してた時から、筋力に極振りだったんだけどな! がはは!


「極振りはロマンだよなぁ、うん!」


「いやいやいやいや。……敏捷値ほどじゃないけど、筋力ステータスの上昇は移動速度なんかにも影響してくんのよ。つまり上げれば上げるほどアバターがどんどん超人化しちゃって、リアルの運動感覚と離れまくっちゃうってわけ。

 だからこのゲームじゃあどんなに数値だけ上げたところで、それを十全に活かしきるには慣れが必要になるし、とくにお前様みたいに一気に爆上げした日には、まともに歩くことさえ出来ないはずなんだけどねぇ……はぁ」


 こりゃあアリスが羨むわと、カグヤさんは溜め息を吐いた。


「──ともかく、ステータスのほうは把握したよ。そんだけ馬鹿みたいな筋力値をしてれば最高級の大剣だって扱えるだろうさ。

 今のトッププレイヤー共……40後半から50ちょいのレベルを誇る奴らにだって装備するのは難しい、最強クラスの大剣がね」


 そう言うや、熱された炉の中に虹色の鉱石や金色の角や銀色の爪やらを放り込んでいくカグヤさん。

 ってあのーすいません……そんなに高級な素材を使われても、ちょっと払いきれる自信がないんですが……!


「ああ、ちなみに費用は払える時でいいよ。レベルだけならアリスと同じくらいの準トップ級とはいえ、一応・・このゲームを始めてからまだ一日なんだろう?

 流石に200万ゴールドの製造費用をポンと出すのは……」


「おっ、そんなもんでいいのか! 騎士の連中からはもちろん、特にジャンヌのヤツから大量にぶん獲れたから、300万くらいまでならギリギリ出せるぞ」


「あーうん、お前様のことを初心者扱いしたウチが馬鹿だった! ……聖騎士たち、慢心して金庫に預けるのを怠ってたんだろうねぇ……」


 その資金で反逆の武器が作られようとしているのだから、これも因果かと彼女は呟く。


「はぁ……そもそもだよ? この【ダークネスソウル・オンライン】は長期でやってもらうことを目的にしたMMORPGなんだから、高レベルになればなるほどレベル上げが難しくなっていくのさ。

 だから、始めてから一週間の内は経験値にビギナーズボーナスが付いてくるとはいえ、それでもせいぜい30レベルになれるかどうかって話なのに……お前様はたったの一日で40レベル近くまで上げちまうとかさぁ……」


「ああ、騎士たちを全員ワンパンで殺してたら色んなボーナスが付いてきたからなぁ。

 『一撃必殺ワンショットキルボーナス』とか『急所決殺クリティカルエンドボーナス』とか『格上殺しジャイアントキリングボーナス』とか。

 あっ、ジャンヌの奴を殺した時には『大群絶滅スーパーデストロイボーナス』とか『全装備破壊ハイパーウェポンブレイクボーナス』とか『超絶激烈滅殺アルティメットバーストストリームボーナス』とか──」


「わかったッ! もうわかった! お前様を一般プレイヤーと比べようとしたウチが悪かったよゴメンナサイッ!

 ったく……本当に規格外なお客様だねえ。それじゃあちょっくら待ってなよっと」


 深い溜め息を吐いた後、慣れた手付きで作業に取り掛かるカグヤさん。

 流石にゲームだけあって色々と省略化されているらしく、彼女が炉の中に地金バシを突っ込むと、すぐに中から熱された鉄のかたまりが出てきた。

 そうして大きなハンマーを持つと、ガンガンガガンとリズミカルに叩き始める。そのたびにカグヤさんの背中より生えた四枚羽がパタパタと揺れた。


(器用値に特化してるらしい『妖精族』を選んでるみたいだな。まあそれはいいとして……なんで花魁衣装なんだろう……)


 いや、服装自体はめちゃくちゃ似合ってるんだがな。

 ただ胸元まるだしの爆乳フェアリー遊女が鍛冶場で刀を打ってるというのは、よく考えてみればなかなかにカオスな光景である。火に照らされたおっぱいが大変まぶしい。


 そんなことを思いながらボーっと完成を待っていた時だ。不意にカグヤさんが、鉄を叩きながら口を開いた。


「……アリスがマスターを務めていたトップギルド。そこは元々、あの子を慕って集まっただけの仲良し集団だったんだよ」


「え……?」


 鍛冶場に響く平坦な声。

 ただひたすらに鉄を打ちながら、カグヤさんは独り言のように続きを語った。


「アリスは優しい子だからねぇ。すぐに友達が出来て、友達がまた友達を呼んで、そうしていつしか団員数は300人を超え、魔人種を象徴する大規模ギルドのマスターに成り上がったってわけだ。

 ……だけどそれが悲劇の始まりだった。聖騎士たちとの本格的な戦争が始まっていくと、周囲は次第にアリスに対して戦うことを求め始めた。魔人種の顔役になったのだから、率先して戦争を主導しろってね」



 ──あの子には……戦う意思も才能もまるでないっていうのに。


 

 何でもないことのように話すカグヤさんだが、鉄を叩く音だけは次第に大きくなり始めた。リズミカルだったそれは徐々に荒々しくなっていき、彼女が内心では怒り狂っているのが明白に読み取れた。


「それからさ。闘争が激化していってから、あの子のギルドには友達でも何でもない『戦うことだけを目的にした連中』が出入りし始めた。そいつらは勝手に幹部制度だの集金制だのを考案して……そして最後には、」


「──アリスのことを追い出して、ギルドを完全に乗っ取ったってわけか」



 ズガンッ! と、甲高い音が鍛冶場に響き渡った。


 

 ああ、なるほどな……だいたい想像してはいたが、アリスのギルド追放にはそんな事情があったわけか。

 良いことを聞いたよ……本当に。


「わかったよカグヤ──思いは一つだ、反逆してやる。だから俺に、虐殺の牙を授けてくれ」


「ははっ、是非ぜひもなしッ! さあ出来上がったよ、新たな時代の魔王様。

 コイツがお前様の決戦兵装──≪絶滅剣デミウルゴス≫さ」


 カグヤが退いた先にあったのは、黒い瘴気を濛々もうもうと纏った『闇色の大剣』であった。

 刃渡りは2メートルを優に超えるほどだろう。分厚さも巨大さも常識外れの一品であり、もはや大剣というより『鉄塊』と称しても過言ではないほどの重厚さを誇っていた。


「≪絶滅剣デミウルゴス≫……これが俺の新しい武器か」


 作業台の上に乗ったそれをしげしげと見つめる。その刀身から放たれる質量感は圧倒的で、思わず息を飲んでしまうほどだった。

 そうしてさっそく柄に手を伸ばそうとした……そのときである。


 大剣がひとりでに震え始めるや──根元のあたりがバックリと開いて、……!


「ってなんじゃこりゃぁああ!? キモッ!」


 思わぬ事態に飛び上がって叫ぶ俺。これはどういうことかとカグヤのほうを振り向くが、彼女も顔を真っ青にしてブルブルと震えていた。


「なんだいそれっ! キモッッッ!」


 ってアンタも知らないのかよッ!?

 

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] この回も面白かったです。 ボーナスとかのネーミングのぶっ飛んだ感じはクスリと笑えてしまいます。 アンタも知らないのかよ!のくだりは実に笑えます
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