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1:いきなりの死




 ──白一面に満たされた空間に、無機質なシステム音声が響き渡る。



『キャラクター作成が完了しました。それではアラタさん、【ダークネスソウル・オンライン】の世界をお楽しみください!』



 ああ、本当に技術の進歩とは大したもんだ。

 目の前がまばゆく光った次の瞬間──俺は、子供の頃からあこがれ続けてきた『ファンタジー世界』に降り立っていた。


「すっげぇ……! これが仮想現実空間ってヤツかぁ……!」


 中世的な石造りの街並みに、変な形のフルーツを売ってるネコ耳のお姉さんに、雑談しながら街を歩く鎧姿の戦士たちなど……まさに考えていた通りの『異世界』の光景が目の前には広がっていた。

 耳に感じる人々の声や、鼻に感じる食べ物の匂いもとてもリアルで、フィクションのモノであるとは思えなかった。


 ああ。これが──



「これが、【ダークネスソウル・オンライン】の世界なのか……!」



 ──電脳技術の発展と普及より早数年。ついにネットゲーム業界は、全感覚の電脳接続機能──通称“フルダイブシステム”を搭載した初の作品、【ダークネスソウル・オンライン】の配信を決定した。

 当然ながら、全世界のゲーマーたちは狂ったように喜び叫んだ。何しろ剣と魔法のファンタジー世界に自分の足で立てるというのだから、興奮しない方がおかしいだろう。


 ……ちなみにサービスが開始された時の俺は、いわゆる『社畜』ってやつだったせいでとてもネットゲームなんて出来る状態じゃなかった。

 色々あって辞職した今だからこそ、「どーせ時間もあるし俺もやってみようかな~」と思い至ったわけである。


 そういう感じで、スタートダッシュ組より二ヵ月ほど出遅れてゲームを開始してみたのだが──


「うおおおっ! 二十数年生きてきてよかった! 辛くても大変でも社畜やってきてよかったぁ!」


 想像以上のクオリティを見せつけられて、まだログインしただけだというのに俺はもう大満足だ!


 俺は近場の噴水にまで駆け寄ると、その水面で自分の姿を確認した。

 ──そこに映っていたのは、俺が“設定エディット”した通りの黒髪和服な『鬼人族』の青年であった。


「お、おおう……ちょっと髪の毛を長くし過ぎたせいで目元があんまり見えないんだが……いいじゃないか……! クールな侍って感じだぜ!」


 髪の毛がやたら長いことと、二本の角がちょこんと生えてること以外はリアルの俺とそれほど変わりはないんだが、ゲーム補正のおかげか何だかカッコよく見えやがる!

 でも初期装備の一つである和服が、実際に見るとオンボロで……なんというか侍っていうより『浪人』って感じなんだが、まぁいっか!

 それと初期装備の中に刀がなくって、仕方なくデッカい大剣を背中に下げてることについてもまぁいいか! もはや侍ではない気がするけどこれはこれでよしッ!


 細かいことは全部「まぁいいか」で済ませられるくらいに、今の俺は最新ゲームのクオリティに大興奮していた。


 ──さぁ、ゲームの世界に降り立ったのならばさっそく行動開始だ! モンスターを狩ったりダンジョンを攻略したり戦友を作ったりして、この世界を思う存分楽しんでやろう!


「よーし、それじゃあさっそく狩りに出るかぁ!」


 人とビルでごった返したクソ現実と違って、ここには俺を縛るものは何もない! 


「俺の冒険は、これからだッ!」


 そうして俺は、意気揚々と【始まりの街】を飛び出して行ったのだった!




 ◆ ◇ ◆






 そんなこんなで街を飛び出して数分後。



「──チクショウッ! どうしてこうなったぁあああああああ!!?」


「「「待てやゴラァァアアアアアア!!!」」」


 ……俺は現在進行形で、十数人の武装集団に追い掛け回されていた。

 別になにか悪いことをしたというわけじゃない。大草原の中を駆け回っていたら、なんか唐突にコイツらが追いかけてきたのである。

 それからはもう命懸けの鬼ごっこの開始だ。

 後ろからピュンピュン飛んでくる弓矢を直感で回避したり、道中に転がっているスライムっぽいモンスターを後ろ脚で蹴り飛ばして連中にぶつけたりしながら、どうにかこうにか逃げ回った。


(ああチクショウ! 隠れるところがどこにもありゃしねぇじゃねえか!)


 右を見ても左を見ても草まみれである! 草ァッ!



 そうして逃げ回ること約10分間──所詮はレベル1に過ぎない俺は、いよいよ武装集団に囲まれてしまったのだった。



「ハァハァ……! ちょこまかと逃げ回りやがってゴラァッ!?」「初期装備のくせにどんな逃げ足してんだよオラァッ!?」「ホントお前なんなんだよボラァッ!?」


「えっ、えーと……疲労回復ポーションってやつ飲む……?」


「「「てめぇ舐めてんのかッッッ!?」」」


 ひえぇ!? せっかくの好意を無下にされたぁ!


 怯えすくむ俺に対して、いよいよ武器を構えて押し寄せてくるプレイヤーたち。あまりにも圧倒的な数の暴力に、当然ながら太刀打ちできるわけがなかった。

 

「くたばりやがれぇ! このクソ『魔人種』がぁッ!」


「ってあだだだだだ!?」


 全身を剣やら槍やらでブッ刺されまくり、ぼろ雑巾のような姿となってぶっ飛ばされていく浪人ファッションの青年鬼──ていうか俺……。

 これが、このゲームを始めて最初の出来事。生涯忘れられないであろう、史上最悪のオープニングイベントであった。


 プレイヤーたちが『聖騎士』と『魔人種』に別れて争い合う、全感覚接続型VRMMORPG──【ダークネスソウル・オンライン】。


 その殺伐とした世界の有り様を、俺は死をもって理解することになったのである。

  

 

”皆様に楽しく読んでもらえる物語” を目指して日々精進です!

ブクマや評価などで応援してくれれば、本当に嬉しく思います!!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 運営が推奨しててはなぁ……。 世界初のフルダイブでは他所にも行きようがない……。 町中とか不戦エリアはあるのかな?
[一言] 処女作でこのクオリティー。 何より最初から読者を突き抜けて商業化を意識して書くなんて。 まんじ先生、まじ凄~っ‼️
[良い点] この回も面白かったです。 ブレスキから来ました。 初っ端からのドタバタっとした展開、引き込まれますね
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