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アステラ戦記 村人からの成り上がり英雄譚  作者: 仙崎まいたけ
第2章 大森林
8/12

2-1 遭遇

 「よぉ…皆生きてるか…」

 「まだ…何とかね…」

 「…うむ…」

 「はい…」


 ジオの問いかけにエミル達が答えるが、どの声にも力がない。


 ここは大森林、魔人軍の包囲をかろうじて切り抜けて森に入ったエミル達だったが、予想以上の魔境を前にして完全に追い込まれてしまっていた。


 昼でも常に薄暗く、どこまでも続く森に方向感覚が全く働かず、既に外へ出ることすらもできない。

 ウルフヴァイパーなどの獰猛な魔獣があたりをうろついており、油断しているとすぐに襲われる上に、戦いの血の匂いがまた新たな魔獣を引き寄せてしまうという悪循環。


 そして、致命的な食糧不足。魔獣は倒すと体内の魔石を残して消えてしまうため、肉などが残らない上、植物や虫なども村の物とは全く異なる生体で、うかつに口にできない。

 

 携帯していた飲み水も昨日底を尽いたため、今朝は草に付いた朝露をなめたのみだ。


 「とにかく、誰か人を探さないと……風ノ理ヲ示セ、参ノ参"音共鳴ソナー"」


 パチンッと両手を合わせた音が、見た目以上の大きさで森に響く。陣内での盗み聞きにも使った遠くの音を拾う魔法の応用で、鳴らした音の反響で周囲の地形や生物などを感知することができる。

 相手によってはこちらの位置を知らせることになってしまうので、今まで使用を控えていたが、もはや背に腹は代えられない。


 最大範囲で探知を行うと、500メルテ程離れた先に複数の反応を感知できた。

 エミルはその方向を指差した。


 「あっちに複数の反応があるね。おそらく人型の生き物が、なにか大きな四角いものと一緒に動いてる感じだ。魔族やその眷属である可能性もあるけど、どちらにせよ行かない選択肢はないと思うよ」

 「よし、見失わないうちに動こう。頼むぞ…少なくとも交渉ができる相手であってくれ…」


 しばらく進むと、森の中で軽く整備された道が見えてきた。

 そこを十数人の人が馬に引かせた荷車と共に進んでいる。まだこちらには気づいていないようだ。


 「あれは…鼠人族だね」

 「鼠人?ここは兎人の支配域じゃなかったか?」

 「対虎人で共同戦線を張っていたはずだよ。兎人が滅ぼされれば次は鼠人のはずだからね」


 虎人族の領域は南を兎人族・西を牛人族と接していた、西の牛人族を魔族と共に滅ぼしたので、次は南・もしくはさらに西の人馬族領域へと進行を開始する可能性が高い。

 そのため獣人族の一部は結束し、南と西から先手を打って攻撃を仕掛けている。


 その南側の主力が兎人・及び鼠人だ。兎人族が抜かれれば鼠人族、そこから西に大森林を抜ければ帝都は目と鼻の先なので、帝国としても全く他人事ではない。


 鼠人族は獣人の中でもヒト種族に近い種として知られており、特徴としては成人でも子供程度の小柄な体格であることくらい。

 彼らは力や特別な能力などは持たないが、商才に長けており、普段は自身のテリトリーで生活して他種族との交流をめったに持たない他の獣人と違い世界中で活動している。


 今回の戦でも資金面や物資面で各方面に協力しているという話だ。


 「とりあえず食糧など分けてもらえないか交渉してみよう。あの荷車、布で覆われていて中身が見えないな。余剰な食糧とかだと交渉もやり易いんだが…」


 そう言うとジオは彼らに近づいていく


 「すまない、鼠人の方々とお見受けする」

 「そういうあなた方はヒト族のようだ、こんな大森林の奥地でお会いするとはめずらしい」


 先頭を歩いていた鼠人の指揮者らしき人物は一瞬訝しげな目をするが、すぐに人懐こい笑顔で応答する。


 「実は我々帝国軍の義勇兵なのだが、伝令の任務を受けて大森林に入ったものの、道中魔物に襲われ道に迷ってしまった次第で…

 もう数日飲まず食わずで森を彷徨っているのだ。多少の食糧を分けていただき、兎人族の集落の場所を教えていただくことはできないだろうか?」


 相手の性質を知るまで敗残兵であることを伏せて話をすることは事前に決めていた。


 「なるほど、それはお困りでしょうな。ですが我々も急ぎの道中、食糧はほとんど持ち合わせていないのです。どうでしょう?一度我々の村までご同行頂くというのは。村で多少の振る舞いは可能ですよ」


 それを聞いて一同にホッとした雰囲気が流れる。


 (どうも話がうますぎる気がするな。とはいえ乗らないわけにはいかないか…)


 「すまない、恩に着る」

 「ところで、あなた方の村とはどちらにあるのでしょう?正直こちらは限界でして、あまり遠いと厳しいのですが…」


 「失礼、私たちの村とは申し上げても、鼠人族の村ではございません。兎人族の村に間借りをさせていただいているのですが、物資はそちらにあるという次第でして。半日もあれば着きますよ」


 「かしこまりました、申し訳ありませんがよろしくお願いします」


 そういった話をしていると、一人の男が水袋を手にこちらに近づいてくる。


 「皆様、飲まず食わずとのこと、さぞおつらかったでしょう。食糧はありませんが、まずはこちらで喉を潤して下さい」

 「何から何まで本当にすまない、ありがたくいただこう。よし、まずはサリアから…」


 そう声を掛けた刹那、森の中から一本の矢が飛来する。

 それは今まさに水袋を手渡そうとしていた男の脳天に突き刺さった。


 「騙されるな!そいつらは私たちを裏切り魔人に与した者たちだ!」


 凛と響く女性の声。振り向くと頭の長耳が特徴的な兎人の女戦士が森の合間に一人、十字弓クロスボウを構えてこちらをにらみつけている。


 「鼠人が魔人に寝返ったのか!?」

 「チッ、メンドクセーことになりやがった…おい!相手は死にぞこないどもに女が一匹だ!囲んで全員ぶっ殺せ!!」


 鼠人達の様子が豹変し、獲物を手にこちらへ向かってくる。


 「僕とオーラーがフロントだ!ジオはサリアをかばいつつ援護してくれ!そこの兎の人も援護をお願いします!」

 「おう!」

 「誰が兎の人だ!!」


 「…ぉおおお!!!」

 「はぁ!」


 オーラーが盾を一振りすると、取りつこうとしていた鼠人達が2~3人まとめて吹き飛ばされる。

 その隙をついて横を抜けようとする相手に対し、エミルはすかさず牽制を入れた。


 元より体格では勝っている。

 チカラで押し返すオーラーと、抜け目ない技で合わせるエミル。数で勝っているとは言え、鼠人達も攻めあぐねる。そこをジオの魔法と、兎人の矢が的確に相手を減らしていく。


 「グッ…この死にぞこないども、強ぇ!」

 「矢だ!遠巻きから矢で仕留めるんだ」


 残った敵は、慌てて弓矢で遠巻きに攻撃をする。エミル達も対応しようと身構えるが、どうしたことか矢は全て逸れてしまい、一本もこちらに当たることはなかった。


 「"幻結界ファントムバリア"、兎人族の戦士に飛び道具は通用しない。知らなかったのか?未熟者どもめ!!」


 「幻影結界術…そ…そんな、まだ使い手が残ってやがったのかよ!グァッ!」


 気づけば形勢は完全に逆転している。鼠人は五人までその数を減らしていた。


 「ダ…ダメだ…勝てねぇ!逃げろ!」

 「逃がすか!」


 算を乱した逃げる敵を、すかさず兎人が追いかけて森の中へ消えていく。その様子を見たエミルも慌てて魔法を唱える。


 「風ノ理ヲ示セ、参ノ壱"加速スピードアップ"!彼女を連れて戻ってくるよ。ごめんジオ、あとはよろしくお願い!」


 それだけを言い残すと彼もまた森の中へ消えていった。


 「やれやれ、もうヘトヘトだぜ。…しかしあの女といいこいつらといい、一体なんだったんだろうな?」


 ジオは力なくその場に座り込む。


 「…おそらくその答えは、"アレ"の中身にあると思います」


 サリアは遠慮がちにそう言うと、荷車を指差した。引いていた馬は先ほどの騒ぎで綱が外れ、逃げ出してしまったようだ。比較的近くにいたオーラーが覆っていた布を一気に引き剥す。


 「……!!」

 「コイツは…」

 「ひどい…」


 結論から言うと、荷物は十数人の"兎人"であった。それも女子供ばかり、かなり衰弱しきっていて声も出せないようだ。長いこと押し込まれて放置されていたようで、荷台は糞尿で汚れ、異臭を放っている。


 「こいつらは戦士じゃない、大方どこかの村から連れて来られた奴隷候補ってことか!?

 鼠人が裏切ったって言ってたな。にしても…こんな……クソッ!!胸糞悪りぃ!!」

 「みなさん衰弱されているようですが、中にはかなりの暴行を受けている方もいるようです。外傷のある方は治療しないと……オーラーさん!皆さんをここから出すのを手伝ってください」

 「…ああ…わかった…」

 

 衰弱した人を一人一人荷車から下ろし、一旦外に寝かせていく。

 

 「鼠人の方々の水を集めましょう。飲料と、汚れの酷い方は洗ってあげなければ病気の元になってしまいます。本当は近くに川などあればいいのですが…」

 「それもあの女が戻ってくれば分かるだろうな…クソッ!頼むぞ、エミル…」

国とかの位置関係が文章だと難しいので、

とりあえずざっくりイメージ書いてみました。


挿絵(By みてみん)


枠の外周も大森林は続いていますが、外に行くにつれて強力な魔獣がうろついてたりするので、

各種族は限られたスペース内で生活圏を区切って共存しています。


森と海だけの世界で、一部だけがヒトの住んでる地域ってイメージですかね。

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