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アステラ戦記 村人からの成り上がり英雄譚  作者: 仙崎まいたけ
第1章 魔人大征伐
2/12

1-2 前線

 武装した一団が街道を進んでいる。彼らの装備はバラバラで、動きも統率がとれているとは言い難い。腕に巻かれている揃いの布が、かろうじて彼らが同じ所属であることを示している。

 その中に、エミルらアロ村の若者達の姿もあった。


 「しかし、カルマやサリアまで来るとは思わなかったぜ」


 いかにも軽薄そうな金髪の男がヘラヘラと笑いながら近くを進む女性二人に声をかける。


 「別に貴方の知ったことではないわ、マルス」


 カルマと呼ばれた女性がそっけなくそう返す。女性としては長身で、長い黒髪を後で束ねた彼女は村の剣術道場の娘でもあり、この中の誰よりも剣の腕がたつ。

 逆にサリアという女性は小柄で、赤毛を短く切り揃えている。アーモンド型の瞳には頼りなさげな色を浮かべており、顔立ちも美人のカルマと比較すると、可愛らしいという印象だ。


 「そうつれないこと言うなって。貴女方は私が守りますよ、レディ」

 「……本気でうっとおしいわ、黙ってて」


 その返答には氷の冷たさがあり、横で聞いていたエミルは思わず震えたが、軽薄男マルスはどこ吹く風だ。

 空気を読まない、という点において彼の右に出る者はそういない。その貴族然とした風貌で女性から一定の人気があるのも勘違いに拍車をかけている。

 しかし実際以前は参加しないと言っていた二人がここにいるのは気になる。とエミルも便乗して聞いてみた。


 「でも、ほんとにどうして二人は志願したんだい?」

 「私はカルマちゃんとか皆が行くって言うから、やっぱり気になって…ケガした時に直せる人がいた方がいいと思うし…」

 

 サリアがおずおずと答える。彼女は剣の腕はからきしだが、村で唯一の治癒魔法の使い手なのだ。


 「カルマは?…いや、答えたくないならいいんだけど…」

 「なによ、聞くならはっきり聞きなさいよ!……もぅ、アナタがそんなだから心配になるんじゃないの…」

 「え、なに?最後の方よく聞き取れなかったんだけど…」

 「なんでもないわよ!!」


 怒られてしまった。隣でジオがにやにやしながら肩を小突いてくる。まったく意味が分からない。


 義勇兵へと志願したエミル達は、一度志願兵の集まる駐屯地に召集された。そこで1ヵ月程の簡単な戦闘訓練や集団行動の訓練を行い、前線へと向けて出発している。


 その顔ぶれはまさに千差万別。指名に燃える若者から、明らかに食い詰めの浮浪者と分かる者、一見すると盗賊の類にしか見えないような無頼漢もいる。


 「それにしてもすごい数だな、ここにいる義勇兵だけで千人だったか」

 「うん。最終的には帝国軍だけで正規兵一万六千に義勇兵四千、総勢二万の大部隊になるみたいだね」


 義勇兵については訓練の期間がごく短かったこともあり、出身村ごとにある程度まとめられている。

 エミル達アロ村の面々に関しては他4つの辺境村と合わせて100人程度の小隊となった。


 「道中の魔物は全部先発隊に引き殺されちまったみたいだぜ」

 「こりゃ思ったより簡単に片が付きそうだな」

 「おいおい、ちゃんと俺の獲物を残しといてくれないと困るぜぇ」


 そんな声がそこかしこであがっている。

 

 実際道中は全く順調だった。魔人どころか魔物とすら遭遇することなく、義勇兵は前線拠点のアデラ砦に入ることができた。

 そこで正規軍や他の義勇兵とも合流する。二万の兵は五千の四部隊に分けられ、一部隊が砦の守りを、残りの三部隊が三方向から魔人領に攻め込むこととなった。


 そうして意気揚々とアデラ砦を出陣して約一日、唐突にそれは現れた。


 「なん…だ…こりゃあ!」


 それは、一見すると果ての見えないとんでもなく長大な壁。しかし高さ50メルテはあるであろうその上部では何かがチラチラと動く気配があり、また正面に巨大な門があることからこの設備が単なる壁ではなく、城壁であることの証となっていた。


 「これが…3ヵ月前に突如出現したという、悪魔壁デモンズウォールか……」

 「魔人領をすっぽり囲んでるって話だけど、噂以上の大きさだね。一体どうやったらこんなものを一晩で作れるんだろう?」


 兵士達にも不安が広がっていく。

 と、その様子に業を煮やした指揮官の号令が響き渡る。


 「ええい、こうしておっても仕方がない。ここを突破さえすればもはや勝利したも同然なのだ!歩兵部隊前進!」

 「歩兵部隊前へー!!」


 ジリジリと前進する帝国軍、城壁は相変わらず不気味な沈黙を守っている。近づくにつれその城壁の巨大さが改めて認識できる。

 と、城門まで50メルテ程まで来たところで一度隊列が止まる。


 「ふむ…ここまで来ても反応はなし、か。よし、矢を射かけるぞ!弓兵隊前へ!」

 「弓兵隊、整列!構え!……撃てぇー!!」


 士官の号令で矢が斉射される。かなり距離があるので途中で落ちてしまうものも多いが、それでも矢は放物線を描きながらある程度の数が城壁の上に吸い込まれていく。しかし、それでも門からの反応は皆無。


 「次!魔法!」

 「魔導隊、前列へ!詠唱開始!」


 合図を受けて炎や氷、雷など様々な魔法攻撃が城壁へ放たれる。しかしそれらの魔法は城壁に張られていた魔法障壁によって、到達する前に掻き消えてしまった。


 「むぅ…何か反応が無いか、少し挑発してみろ」

 「よし、城内から敵を引きずり出す!お前ら!なんでもいいからあの門の中のやつらを挑発しろ!」


 そう命令され、兵士たちが挑発を始める。


 「臆病者の魔人どもが!くやしかったら出てきて戦え!」

 「この大部隊に恐れをなしたのか?びびってんじゃねーよ!」

 「や~い、お前の母ちゃんゴブリン~」


 義勇兵たちも調子に乗って色々な罵詈雑言を浴びせる。ちなみに最後のやつはマルスである。

 それでも、門が開く様子は全くなかった。


 「ここまで反応がないとはな…これだけ巨大な城壁だ、もしかすると守備するだけの兵力が足りていないのかもしれんな…よし、破城槌だ!門をぶち破るぞ!」

 「破城槌、よぉ~い!」


 大きな丸太を屋根に釣り、それを滑車に載せた巨大な破城槌が運ばれてくる。丸太の先端など、要所要所が魔法合金で補強されており。振り子の要領で丸太を叩き付けて城門を破壊する帝国軍の秘密兵器である。

 工兵部隊が滑車を押し、それを歩兵が守る形で城門に近づいていく。


 その瞬間、天から一筋の流星が落ちてきた。それは唸りをあげながら正確に破城槌の上部へ、貼られていた魔法障壁をぶち破って落下、轟音と巻き上がる土煙が周辺を支配した。

 土煙が晴れたとき、そこにはバラバラに破壊された破城槌と、巻き込まれ同じくバラバラになった兵士の残骸が残るのみであった。


 「こ…これは…隕石召喚メテオストライクだと!?馬鹿な!30年前の魔王が使った秘儀ではないか!

 …仕方がない、一時後退して陣を敷くぞ!」


 指揮官の指令によりその日の攻撃は終了、門より1キロメルテほど離れた小高い丘に陣を敷くこととなった。


 その後も、帝国軍は手を変え品を変え様々な方法で門の突破を試みたが、挑発はことごとく無視され、攻城兵器は隕石で破壊。その他搦め手も上手くはいかず、ただいたずらに時を過ごすことになるのだった。

 そうこうしているうちに、陣内では深刻な問題が発生することになる。

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