第1話 赤井 白兎(はくと)なんて名前はだれがつけた
第1章 赤井 白兎なんて名前はだれがつけた
子供ができないんでどっかの神社にお参りする。これってよくある話らしいが、
その神社の名前をそのまま名前にするのは手抜きだろう(怒)
鳥取県の片田舎の神社にお参りしたら俺が生まれたのでその神社の神様に感謝して俺の名前にしたと親は言う。
白兎神社に御参りして生まれたから俺の名前は「赤井白兎」
ゴロが良かったからだなんてそんないい加減な理由かよ。
後から親が言うには、「生まれた時は、白い髪の毛だったわよ」とか
「白兎のように、皆さんに可愛がってもらいなさい」とか
「白兎のように、神様の為にお仕事できたらいいじゃない」とか親は言う。
しかしだ、だったら虎とか鷹とか竜とかもっとカッコいい生き物がいるだろうと俺は言いたい。
かくして「白いウサギ」と名づけられた俺の人生は全て名前に絡んでいる。
小さい頃には、「うさぎ、うさぎ」と呼ばれてからかわれた。
かくして幼い時から男としての尊厳を守る為の戦いの日々となった。
全て名前が悪い。
「うさぎ」と呼んだ男にはゲンコツパンチ。殴って逃げる。こんな事で無駄に逃げ足だけは早くなった。逃げ足が速いんで後ろから「やっぱりうさぎだ」。と言われると、また戻ってきて殴る。
「うさぎ」と呼んだ女には、ゲンコツできないから、しかたがないんで、方法が思いつかなかったから、スカートめくりで報復する事にした。とにかく「うさぎ」とは呼ばれたくなかったのだ。
しかし、中学に入るとウサギの名前がいよいよ本格的に災難を呼ぶ。
なんと髪の毛が白くなってきたのだ。中学後半では完全に白くなった。
中学生で白髪である。年寄りである。
絶対に名前が悪いから白くなったんだ。
童顔で、ふさふさと真っ白な髪。背はひょろひょろと伸びたが、筋力とは無縁。
女どもは「きゃー可愛い!」と言う。ふざけるんじゃねえ。女に可愛いなんて言われる為に学校に来てるんじゃねえ。
「ふざけるな!」怒鳴るのだが、俺の声は高い。
低音のドスの効いた声になりたい。
実が女どもと話をする事が嫌いな理由がもう一つある。
基本的に俺、女好きだよ、彼女欲しいと心底願っている。けれどダメなんだ、話ができん。
女性、それも好意がある女の子と話し始めると、目が、ウサギの赤い目になってしまうのだ。
これもウサギの呪いか祟りに違いない。
元々情に弱くて涙もろい性格であった事は認める。
フランダースの犬の映画を見て感動して涙目になるのは俺だ。
これだけならば一人で見ればいいから問題無い。
しかしウサギの祟りはますます悪化し、好きな女の子と一対一で顔を向き合わせて話し込むと涙目になってしまうようになってしまった。
別に泣きたい訳ではない。ちっとも泣きたくない。感動もしていない。平常心だ。けれど泣きたくないのに、目がウルウルする。
涙目になって目が充血してウサギの赤い目になってしまうんだ。
しかし、俺は男だ。少々の事で泣くなんて知られたくない。
俺の理想とする男とは、めったな事では泣いてはいけないのだ。
話し込むと涙目になる。白い髪に目まで赤い。これじゃ完璧に白うさぎではないか。
白い髪は隠せないが、涙もろい事は隠せる。ならば絶対に隠さなければならない。
涙もろい事を隠すには、つまりは好きな女の子と話し込まなければいい。
俺の理想とする男は、口数の少ない男なのだ。
白兎コンプレックスの俺は、間違っても神話の白兎みたいな馬鹿はしないと誓っている。
神話ではワニ(サメ)を騙すものの嘘がバレて皮を剥がれるという。
騙せる程には賢いが、嘘がバレる程度の賢さが白兎である。
俺は(白兎よりは)賢い生き物だ。
学校嫌になった俺は、中学3年の時親に言った。
勉強出来ても出来なくても命取られる訳じゃないし、どうして勉強しなきゃならんのだ。
そう言うと遠く離れた高校に放り込まれた。
男子寮で個室ありの一人暮らし。憬れの一人暮らしならいいかと俺は親の言う通りの高校に進学した。
白髪は隠せないけど、好きな女の子と話をするとウサギの赤い目になるのは治らないかもしれないけれど、新しい土地で新しい学校ならば、新しい人生が切り開けるのではないか。
悪夢の中学生活よサヨウナラ。これからは、過去の俺を知らない新天地で、俺は新しい人生を歩むんだ。