NO 7.
あの日、決断してから一ヶ月たった。
《―――ッ隆。標的はエリア21−5Eにいる。しとめろ》
短い機械音の後、棗の冷静すぎるほど冷たい声が耳に届いた。小さく“了解”と呟くと、ゴーグルの右端のボタンを押した。目の前に自分の現在地と、さっき棗が言ったエリアの場所が映し出される。
ここからそう遠くは無い。
《―――ッエリア移動。花梨、援護》
《―――ッSure!!》
極力短い単語で話すと妙に明るい声が帰ってきた。コイツ、ちょっと楽しんでやがる・・・。
フッと短いため息を漏らしてから、静かに・・・それでも速く走り出した。
今の俺の手の中には黒光りする拳銃が握られている。これで標的を獲らなければならない、という任務がある。
額に浮かぶ汗を服の袖で拭ってから棗の指示通りの場所の壁にそっと凭れ掛かる。
《―――ッ行くぞ》
素早く身を翻しエリア内へ足を踏み入れる。
黒いスーツを纏った人物が焦った様に自らの銃をこちらに向けた。俺はその武器に向かって撃ちこんだ。弾き飛ばされる銃。相手がひるんだその隙に相手の胸に向かってもう一発撃ち込んだ。
しかし。相手は超人的な反射神経で二発目の弾丸をよけ、自分の足元に有った木片をさほど遠くない距離の俺に向かって投げた。
「くっ」
自らに投げられたそれを反射的に腕で払ってから“しまった”と思った。
ダンッという音がしたと同時に俺の左肩は赤く染まった。
やられた・・・。これで左腕は使えない。
銃口を男に向けなおし一発打ち込むが彼は俺をあざ笑うかのように避けていく。右側から銃声が三、四回鳴り響き、男が飛びのいた。花梨だ。射撃は続き、俺はそれに合わせて男に標準をあわせる。
ついに彼はエリアの端に追い詰められ、逃げ場が無くなった。
「おわり―――ッ!!?」
最後の弾をうとうとした瞬間、足元が崩れた。
「隆哉ッ!!?」
ダンッダンッ
べちゃっと左胸が濡れる感触。
ああ・・・死んだ。
「ったく。卑怯だ!!なんだよッ足元崩すとか、拳銃三丁所持とか・・・そんなのありかよー。・・・っと隆哉、大丈夫か??」
「大丈夫・・・っ痛ぁ」
思いっきり腰から落ちてしまいズキズキと痛むそこをさすると“ほらっ”と言って花梨が手を差し伸べてくれた。その手を掴み反動をつけて立ち上がる。
「お前等・・・」
コツッと足音が聞こえ前方を見ると黒いスーツを来た零夜が両手に銃を持って立っていた。
「チームプレイになっていない。隆哉、お前は攻撃が単調すぎるんだ。何度言えば分かるッ」
「でも、俺・・・」
「でも・・・じゃねぇ!自分に出来る事を瞬時に判断し、すぐさま行動に移せるように反復を繰り返せ!!何回も何回も言ってんだろーがこの大馬鹿野郎ども!!!」
耳元で怒鳴られたわけでもないのにキーンと耳鳴りがした。おまけにゴンっと頭のてっぺんに重い拳を落とされてクラクラとめまいもプレゼントされてしまった。
俺の左肩と胸には赤いペイントがべっとり付着している。今の実践練習で俺は一回死んだ、ということを意味している。花梨なんか額のど真ん中。バンダナでふき取ってはいるがまだ赤い。他にも花梨の体には数箇所ペイントが付いている・・・っておい右手アウトじゃん。さっき左手で撃ってたのか!!
しかし、零夜の身体にはペイントは全く見当たらない。
「花梨、お前は全体的に緊張感が足りんッ!!あと銃の乱射は危険だから止めろといっているだろう」
彼がそう怒鳴ると花梨は拗ねたように唇を尖らせ“でも、まあまあいい線行ってるっしょ??”と言って零夜に殴られた。
「痛ぁぁ!!?ちょ、アイドルの顔殴るとか、マジ止めて!!」
「うるせぇ!俺なんか三ヶ月も活動停止してお前等の面倒見てやってんだ。感謝しろボケナスがっ」
ジッと短い機械音。それから、穏やかな笑い声が耳に届く。
《―――ッまあまあ・・・。零夜さん、その辺にしといて・・・アジト帰りましょう??》
《・・・そうだな。今日は01がメシ係・・・か》
いつ取り出したのか、零夜が耳にインカムをつけて棗と話していた。それから“帰るぞ”と言って俺達を手招きしスタスタと歩き出してしまった。
「えー・・・01がご飯係??今日もカレーかよぉ・・・」
「まあまあ・・・それでもあのコは頑張ってるんだから、な??」
俺がそう言ってからフッと笑うと、彼はまた拗ねたようにそっぽを向いてから
「お前最近、笑い方零夜に似てきた!!」
と叫んで“行こうぜ”と笑いかけてきた。
・・・それは勘弁して欲しいな。
残された俺は苦笑いを零して、彼らを追いかけた。