表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/13

NO 6.















―――【オブシディアン】



―――俺に与えられた称号




“キミは俺達ファミリーの要になるんだ”










「・・・【オブシディアン】・・・?」

「ああ、キミしかいないんだよ」


彼の言っていることが理解できず、言葉を鸚鵡返しに聞き返すことしかできない。

朱雀が微笑を浮かべた表情を真剣な表情に変えた。それだけの事で空気が変わったのだ。ああ、この人は本当に凄い人なんだ。と本能的に悟った。

ピリピリと張り詰めた空気の中、乾いた唇をなめる俺。朱雀がその茶色い一度瞳を閉じてゆっくりと話し出した。


「僕たちの世界がどんなに危険な世界かは・・・分かるね??」

「は・・・い」

「表の世界が平和な分、裏の世界は影として・・・時には人殺しも厭わない位 酷いこともする。僕たちの中にもルールはあるが何時でも敗れる様な状況。その、ただでさえ危ういこの世界の均衡。それが今、確実に崩れだしている。しかし、その危うい均衡を少しでも修正するために俺達は存在するんだ」


彼は自分の太腿にあるショルダーからアノ黒い物体を取り出した。酷く散漫な動きでその拳銃を目の前の俺にに向ける。俺は驚きと恐怖で体が固まった。零夜が“ボスっ”と呟いたのが聞こえたが、朱雀さんは零夜を手で制した。


「殺人や麻薬、他にも沢山の悪行。それを行いたいがために・・・。邪魔な俺達のような監視役のファミリーを潰して、悪をばらまこうとしている」


射抜くような視線と向けられた銃口。威圧感の中、夢だと信じ込みたくなる。



「俺はこの世界が嫌いだ。だけど、この世界でしか生きていけない悲しい奴がいる。そういう奴がいる限り、俺はこの世界を守りたいと思ってるんだ。彼らにこれ以上人を殺させないためにも・・・。表の世界が平和であるためにも・・・」


震える声を絞り出して、抗おうとしてみる。無駄だと知っていながら。


「ッ―――それと、俺達になんの関係があるんだ・・・?」


朱雀さんは口元に笑みを浮かべた。零夜のそれのようにぞっとする笑みだった。


「言ったろう。俺達のファミリーにはキミたちが必要なんだ」


ふいに朱雀さんは自分の手の中にある小型の銃に目を移して、目を細めた。憎しみの篭った瞳だ、と瞬時に思った自分に吃驚した。彼はもう一度俺と視線を合わし、それから くるりと持ち手を俺に向けた。


「こんなもの、平和を生きる君たちに持たせたくはなかった」

「・・・。」

「ああ零夜、そんなに睨まないでくれよ。ちゃんと言えるから」


零夜の視線を感じて・・・彼は本当におかしそうに、あまりにも不釣合いな明るい笑みを零した。

俺達は動かない、否動けない。一呼吸でもおけば彼らの闇に飲み込まれてしまいそうで。


「カタギである君たちをあえて俺のファミリーに引き入れようとするのか。君たちの才能は・・・悪いけど平和を生きるためにはあまりにも危険すぎる。いつか俺達のような闇の世界に巻き込まれていくだろう。実際何度もあったんじゃないか?その度に危機を乗り越えてきたことだろう。だからこそ、君たちは裏世界では重要人物としてマークされ始めている」

「っ・・・!?」



・・・確かに、朱雀の言うとおりだ。

俺は曖昧にしか覚えていないが、どう見てもカタギには見えないヤツラと乱闘して・・・一人で倒れる彼らの真ん中に立っていたこともあった。そのとき花梨と棗も少し離れた所でそれぞれヤツラを倒していた。


その数総数20名。一人約7人を相手に勝利を収めたのが・・・中学校1年のときだった。



「それぞれに覚えがあるはずだ」


隣を見ると二人は、目を見開いて朱雀を凝視していた。ありえないとでも言いたげな視線。彼の言っていることが真実だとありありと語っている。


「あえて闇の世界に引き入れるのは、君たちを護るためでもある。これ以上暢気に平和ボケしてられない。初見で俺が明らかに異質なオーラを感じるほど・・・君たちは危険だ。しかしそれは同時に大きな強みになる」

「強み・・・」

「俺の、夢。平和なんて甘い考えは捨てた。だけど、捨てちゃいけないものために・・・君たちが必要なんだ。俺の庇護下に入ってもらい、俺のために働いてもらう。君たちの能力は他のファミリーには毒になりうるが、俺達には必要だ。どういうことか、わかるよね?」


つまり・・・


俺達はこのままだと、殺されるかもしれないということ・・・か?


たどり着いた思考を裏付けるかのように、朱雀と零夜は頷いた。





「さて、今の話を聞いた上でよく考えてくれ。―――そしてどうか良い答えを・・・」



朱雀さんは銃を持っていないほうの手を自らの左胸に宛がう。

薄い色素の瞳を閉じて、落ち着いた声を出す。




「俺の手とこの銃を取り、俺のファミリーとなるか??」


それとも・・・死ぬか?





俺は思わず棗と花梨を振り返った。彼等の表情を見て心が定まった。

彼の血が通っていないかのような白い手を取って呟いた。


「俺達が朱雀さんの役に立てるのであれば・・・ボス、俺達は貴方のファミリーに入ります」



俺達が生き残るためにも。






朱雀さんはゆっくり目を開けて穏やかな笑みをみせた。



胸に下げたオブシディアンが一瞬熱くなった気がした。


・・・気のせいだろう。




















どうして、俺はこの時“マフィアになる”といったのだろうか。

どうして、朱雀さんの穏やかな顔をみて安心したのだろうか。





今でも、理由は全然分かってないけど。



ただ一ついえること。


    ―――――俺は、後悔なんてしていない。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ