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NO 3.







「う、るさい!!」


花梨が大声で叫んだ。

じりっと零夜が彼に近づくと花梨は零夜に”来るなっ”と叫んだ。零夜は大人しく止まることなどなく、ゆっくりと花梨に近づく。しかし茶髪の男が花梨から目を逸らすことなく”零夜、止まれ”と命令すると、瞬間ロボットのようにきっちり止まった。

男は愛しそうに目を細めて口元に微笑みを浮かべた。


「花梨君。やっぱり君は俺の見込んだ通りだね。率直に自分に従う、行動力を持っている」

「だまれ!!お前に何がわかるっ」


花梨は人をも殺せる武器を手にして興奮したのか、一発地面に打った。とても冷たくて大きな音が白い部屋に響いた。棗と俺は固まって何も言えなくなった。びびっただけではない。花梨の目が今までみたこともないほどキレていて・・・情けないことにどうしたらいいか分からなくなったのだ。

花梨は怒りで染まった目を男に向けた。


「俺は本気だ。俺達を解放しろよ。何がファミリーだ!!俺達はまだ死にたくねーんだ!!」


突然男の笑みが消えた。

冷たくはないが整った顔が恐ろしく見えた。


「花梨君・・・なにか勘違いしてるんじゃないか??」

「あぁ゛!!?」


花梨、こえぇ・・・。


「俺達は別に君達を殺そうとしているわけではないよ」

「「じゃあなんなんだよ」」


棗と花梨の声が被った。

男はにっこり笑った。



「君達を俺のファミリーに迎え入れたいんだ」


空気が凍った。零夜さえも押し黙るほどの重い沈黙の後。


「「っざけんなよ!!」」


棗と花梨がまたハモった。固まっていた俺もやっと解凍され、噛み付くように男に向かって叫ぶ。


「誰が銃とか持ってる所になんか入るか!!だいたい此処はなんなんだよ!!」

「だから、それを説明しようとしてんだろーが」


零夜が口を開いた。“零夜っ”と男が声をかけるが、彼は男を一瞥しただけだった。コツッと靴音を立てて花梨に一歩近づき、花梨は勢い良く振り向いて零夜に銃を向けた。零夜が冷たい笑みを浮かべて両手を上げた。



「・・・此処はマフィアの世界だ。中学生だった君たちを少し見かけてね。他の子とは明らかに違うオーラを見たんだ。“きっとこの子達はファミリーに必要になる”と考えたんだ」


時々花梨と棗が突っ込んだが男は全て無視した。


「俺の名前は朱雀。好きなように呼んでくれ。―――本当はこんなこと言いたくないんだが・・・。言わなければならないのだろう」


寂しげに眉を下げて朱雀と名乗る青年は笑った。そして、刹那の間をおいてすべての感情をその顔から消し去った彼は絶対零度の視線を向けた。



「君たちはこの運命から逃れることは出来ない。マフィアとして俺の手足の一つになってもらおう」


今まで会った誰よりも強い威圧。ゾクと背筋に悪寒が走りぬける。



どこか、自分の中で【逃げられる】と思っていた。こんなドラマみたいなことあるワケない、と。

殺されるはずがない。逃げられないわけがない。・・・俺が人殺しになるなど、有りえないと。



現実を叩きつけられた。




「ッッ!ふ、ふざけんなぁぁあああッ!!」


花梨が狂気を宿して吼えた。

朱雀に向けられた銃口。怒りに染まった花梨の目。驚愕の表情を浮かべて彼を止めようとする棗。全てがスローモーションのようにゆっくり動いた。


カッと目の前が赤くなった気がした。

意思の中にあったのは“花梨を人殺しにしたくない”ということだけ。



俺は、零夜の銃を抜き取った。近くに居た彼の腰のホルスターから抜き去る一連の動作に誰も反応を漏らさなかった。

数瞬遅れて“っおい!?”と零夜は叫んだが気にしねぇ。・・・気にしていられない!


花梨が発泡する直前。

俺は彼の銃に標準を向け、撃っていた。


パァ――ンと、乾いた音が鳴り響いた。


映画とは全く違う。引き金を引いた指から腕、肩にかけて強い衝撃が走る。両手で撃って尚、発泡の余韻で手が痺れてしまう。逃げられようもない、本物の衝撃。



「―――ぁ・・・たか、や??」


自身が持つ小型の銃の先から煙が立ち、空気に溶け込んだ。はっと意識を取り戻し、震える手の所為で銃を握っていることができずに大きな音を響かせて床に落とした。

この場にいるもの全員が俺の行動についていけていない。当事者である自分自身でさえも。


花梨は何時もの優しい顔を涙でぐちゃぐちゃにしていた。



「なんで・・・?」


口から漏れたのは、自分自身への問いかけ。



俺、今何した??

花梨・・・銃だけど。

花梨を撃った??


叫びたいほどの恐怖が全身を巡った。体がぶるぶると震える。


もし、もしも。

銃弾が花梨に当たっていれば・・・。

俺は、また(・・)大切な物を失っていた。




ふっと鼻から抜けたような笑みを零した。それを零した本人である零夜はそれから可笑しくてたまらないとでも言うようにクツクツと顔を手で覆って笑った。瞳に宿るは小さな狂気。だがそれに気が付く者は一人としていないのだ。



「やっぱりだ!隆哉君、君は天才。どうしても君が欲しかったんだッ」


嬉々とした朱雀の声が鼓膜に届いた。

周りは真っ白なのに・・・俺は目の前が真っ暗になり、そのまま気を失った。









ああ、それでも。


失わなくてよかったと、心の底から思った。






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