NO 1.
...2009/05/10/18:26
事の始まりはよくわからない。
取り合えず俺は、学校でぼおっと授業受けて双子と一緒に帰りの電車に乗り込んだ。そのあとは生活のためにしているコンビニのバイトに行って、ご飯を食べて、お風呂入って寝るだけだったはずだ。
そうだ、そんな平凡男子の俺が。
こんな所で銃を握ってるわけなんか無いんだ。
ってか、ここ何処だ??
白い壁、遠くのほうに人の形をしたようなものがある。警察系の映画とかでよく見る射撃場、みたいだな・・・。
「なんだ・・・ここは・・・?」
周りには誰もいないのに呟いてみる。混乱で頭が可笑しくなりそうだ。
ふと自分がとても危険な武器を持っていることを思い出して、そのまま銃を取り落としてしまいそうになった。投げ捨ててしまいそうになるその手を止めたのは、双子の片割れが“誤動作を起こす可能性があるから銃器類は丁寧に扱わなけりゃなんない”と自慢げに語っていたのを思い出したから。震える手をどうにか動かして小型の銃を床にそっと置いた。
俺だって男だし、モデルガンやエアーガンなら持ったことはある。もしかしたらその類であるかもしれないのに、俺はなんでこんな情けなく怯えてるのか。・・・否、本能で感じ取ったのだろう。目の前に在るのは人の命を奪える凶悪な武器だ。
そのまま床に身を投げた。受身など取らずに背中から思いっきり。衝撃で体が小さくバウンドして目の覚めるような痛みが脊髄を震わす。この痛みは、決して夢じゃない・・・。
ああ、俺は何故こんな所に居る?記憶がどうにも曖昧で電車に乗った直後までしか覚えてない。
まさか記憶障害?いや、ぼんやりとだが誰かと会話をしていたような気がしないでもない。
思考に没頭する前に、真っ白な壁に切れ目が入り思考の波に沈むことはなくなった。警戒していた俺は思いっきり体を引き起こし、手探りで先ほどまで見たくもないと視線を逸らしてたソレを探る。
切れ目は大きく開き、軋むような独特の音が鳴り響く。わかりにくいこと極まりないが、どうやら扉だったようだ。
開いた扉から男が身を滑り込まして入ってきた。硬質の床であるにも関わらず男の足音は此方まで聞こえてこない。たったそれだけの動作を見て、“こいつは、ヤバイ”と判断できてしまった自分に一番驚いた。
彼は俺に冷たい目を向けた。背筋を冷たい手でなぞられた様な嫌な感覚が刹那起こった。
「・・・気がついたのか・・・。」
男は低い声で呟くようにいうと俺に歩み寄ってきた。白いニット帽から覗く赤い髪が揺れ、芯のぶれない綺麗な歩みにゾクゾクと背筋は凍るばかり。
男のその手には銃があった。
―――殺されるっ!?
思わずやっと発見した銃を夢中で掴み取った。男に銃口を向けて、震える指を引き金に置いた。
いやだ、死にたくない。こんなワケのわからない所で死にたくない!
一連の動作は勿論男には見えているはずなのに彼は歩みは全くぶれない。人の命を消してしまえるような危険な物を向けられているというのに、彼はそれを全く意に関しないかのように振舞う。いや、本当に気にしていないのか!?
「とっ、止まれよッ!」
恐怖でひっくり返った声を出した。しかし今はそれを恥ずかしいと考える余裕もない。
赤髪の男は鋭く俺を睨むと太腿に着いているらしいショルダーに銃をしまった。が、やっぱり足は止めなかった。
「こ、こはどこなんだ!何のために・・・何のために、俺はここにいるんだ!答えろよッ!!」
男は無表情のまま早足で俺のほうにやってくる。一歩一歩と確実に近づく脅威に、俺は腰の抜けた体をずるずると後退させながら叫んだ。
男は面倒くさそうにため息を付いて顔を顰めると”うるせぇなぁ・・・”と呟いた。ボソボソと小さな声だったために、その声は恐怖で一杯になっている俺には聞こえない。
「銃を降ろせ。邪魔だ。」
「黙れ!質問に答えろよ!!」
必死に足を動かしているはずなのに、体はそれ以上下がらない。何でだ!と視線を背にやると、そこは真っ白な壁。アドレナリン効果かなんだか知らないが、正常に体は作動していないようだ。男は俺との距離あと一メートルという所で止まった。
冷たい目で見下ろされていると感覚が狂いそうだ。
「・・・その質問の答えは後でする。銃を降ろして俺について来い。」
なんでコイツはこんなに命令口調なんだ・・・。冷たい視線に気圧され自然、手は銃を下ろそうとした。
いや、そんなことしたらそれこそ何されるかわかりゃーしないじゃないか!
「騙されるかよ・・・。そう言っておいて後で殺す気なんだろ!!」
この男ほどではないが俺の出来る限りできつく睨んでやった。
男は気圧されて・・・くれればいいのだが、そんなウマくはいかなかった。
男はそれどころか口元にぞっとするような笑みを浮かべて銃口に手をかぶせた。俺は引き金を引く勇気すらなく、されるがままにそれを見ていた。
「セーフティすら外していないその拳銃で、人を撃とうなど・・・笑わせる。」
軽く握られ引かれただけで、唯一の武器はスルリと手からすり抜けていった。放心する俺に男は更に顔を近づけ小さく言った。
「付いて来い。竜道 棗・花梨。二人がどうなるか、わかるか?」
驚いて目を見張った。どうしてこの男の口から二人の名前が出てくるのか。
電車で一緒だったじゃないかなどという考えに及ぶはずもなく、俺はその答えを頭に巡らせショートした。
俺が着いていかないと二人が殺されるかもしれない。
俺に何かを考えている暇はない。二人を救うために俺は何をすべきだ?
「・・・わかったよ・・・」
ふっ、と口角だけ引き上げる冷笑を零して男は俺に手を差し伸べた。白い手袋を纏ったその手を刹那見詰めてから思いっきり掴んだ。せめてもの仕返しのつもりだったのだが、彼は俺の力以上に強い握力で握りそのまま無理矢理俺を立たせたのだった。
まだ膝が震えているじゃないか。これじゃ立てないのも当たり前だ。
男は静かに名乗った。
「俺は零夜だ。働きを期待している、オブシディアン。」
そしてまた、あのぞっとするような笑みを浮かべた。
カチリ、と
頭の奥で錠が音を立てた
翼を持たぬ愚かな彼は
まだ、気が付かない
気がつけない