NO 10.
朱雀に連れられて来た小部屋には既に零夜や花梨、棗が揃っていてその他にも俺の知らない人が2人いた。
「ボス、こいつがオブシディアンですか」
「ああ。かっこいいだろ??」
そういって眼光の鋭い男に微笑みかける朱雀。
男は面白くないとでも言うように俺を睨みつけて、それから目を逸らした。黒髪の銀色のメッシュが栄えて一瞬光って見えた。うん。気のせいって分かってる。
隣に居る女性が俺に笑いかけて“ごめんなさいね”と謝った。三十台前半くらいだろうか。大人っぽい雰囲気がかっこいい人だ。
「よろしくね、オブシディアン・・・。私は緋咲・・・ヒサキと呼び捨ててちょうだいね」
「え、あ・・・よろしくお願いします」
戸惑いがちに出された手を握る。とても冷たい手だった。
「京。」
「え??」
目を逸らしたままだった男が突然言い放った。意味が分からず間抜けな声を上げると、意思疎通が図れないことがイライラするようで舌打ちしてから続きを言った。
「・・・俺の名だ。だが、呼び捨ては許さん。たとえオブシディアンでも」
先ほどの男が唸るように呟いた。物凄い威圧感と敵対心に気圧されながらも“はあ・・・よろしくお願いします”とだけ返すと、男はフンと鼻を鳴らして顔を背けた。
・・・俺、嫌われてるのか。
小さくため息をつくと同時にヒサキが“こら”と言って京さんを小突いた。
京さんはたいして怒ることもせず機嫌悪そうに顔を背けたままだった。
あれ、ていうか・・・。
この二人・・・。
「やっと分かったのかよ!!【HANABI】だよっ」
花梨に軽いエルボーを喰らい、一瞬息が詰まった。
いや、それだけが理由じゃないか。
「【HANABI】!?まじでっ」
京さんがまた小さく鼻を鳴らした。
人気歌手の【HANABI】の二人。
去年の締めの歌合戦にもメインとして登場し、圧倒的人気を誇るユニット。
華々しいデビューから役10年。
熱狂的なファンが多く、花梨や棗も支持している。
まさか、この二人もマフィアだったなんて・・・。
驚きを隠せず口をパクパクさせていると、ヒサキは面白そうにくすくすと笑った。
「そんなにビックリしなくてもいいじゃないの。貴方達もじきに私達以上に成長することになるわ。ね、京??」
「・・・悔しいが、そうなるか。」
盛大にため息をつきながら京さんが答えた。
「はい、お待ちかねぇ!!新メンバーの登場だよぉ」
パンパンと手を打って、自分とその後ろの扉に注目させるボス。
全員がそちらを向くと“入って”といって扉を薄く開けた。
「ハじめまし・・・・て??」
裏返った声と共に部屋に入ってきた銀色の少女。
・・・え。
「「「伊織っ!?」」」
「・・・隆哉・・・!!?それに棗に花梨!?なんでっ」
大きな目を更に大きく見開いて隆哉を指差す少女とも言える銀髪の彼女。
「なんで、って・・・お前・・・」
「突然高校辞めちゃって!行方不明になって、皆心配してたんだよ!連絡の一つもよこさないで・・・なんだってこんな所でそんな格好してチャラチャラしてんのよ!!!」
チャ、チャラチャラって・・・。
一息も休みをおかず一気に捲し立てる少女。
俺達のもう一人の幼馴染、高橋 伊織。ハーフらしく瞳には薄く碧が掛かっている。しかし、あまりそう感じないほのかに和を感じる端麗な容姿。本来は金色らしいが色素が薄いらしく銀色に見える髪の持ち主。
こんなところで・・・会うなんて。
「えー、隆哉たち、伊織のこと知ってるのかぁ??」
わざとらしい声がして彼をみると朱雀はヘラヘラと笑った。
俺が“朱雀さん・・・あなた・・・”と呟くと、花梨がぐっと手を突き出して俺を押さえた。棗がそっとため息をついて、伊織に向き直る。
「伊織、ここがどういうとこか分かってる??」
一瞬息が詰まるような音がして、目を逸らす彼女。一回ゆっくり瞬きしてから、そっと微笑む伊織。
その仕草が美しいと思ったのはきっと俺だけじゃないだろう。
「わかってるよ、棗。マフィアの世界。大丈夫、私だって覚悟はある」
「ッ―――」
今度は俺達が息をのんだ。
いつも眠たそうにしている目が覚悟を写していた。
でも、その覚悟は
「私は両親を殺したこの世界が嫌い。だから、大嫌いなここで復讐をするの。大嫌いなマフィアに」
怒りと悲しみの覚悟。