NO 9.
ふっと目を開けると、そこは医務室のベッドの上だった。
・・・また気を失ってたのか。
ゆっくり身体を起こすと目の前には朱雀。予想外すぎて体が跳ねて、ベッドのスプリングがギシッと嫌な音をたてた。
「隆哉??起きて大丈夫か??」
「え、あ・・・はい、まあ・・・」
ショックで意識が飛んじゃったんだな。
はあ、とため息を漏らすと朱雀は茶髪を揺らしてクツクツと笑う。それから“おき抜けで悪いがよく聞けよ”と真剣な眼差しになって話を続ける。
「お前の芸名は【鷹】だ。忘れるなよ・・・忘れねーか。んで、棗は【迅】、花梨が【翔】だ。本当はもう一人いるが、それはあとで紹介するな」
「・・・もう一人・・・ですか??」
「ああ。お前たちも知ってるやつだよ」
最後に安心できる笑顔をくれて朱雀さんは立ち上がった。俺は慌てて立ち上がり頭を下げる。その動作もこの一ヶ月の間に習慣として身体についてしまったものだ。
・・・否、零夜によって無理矢理付けさせられたのだ。
しかし彼はこの行動をあまり芳しく思わない。いつも苦笑いをして“よしてくれよ”と言って俺の頭を撫でるのだ。
人として対等にいたい、と朱雀さんはよく口にする。彼等にファミリーに入るという選択肢を出された時に彼が言った言葉と矛盾があって、始めは少し戸惑った。
ただ、この一ヶ月で少しだけ分かった。
朱雀さんは俺達を気に入ってる。だからこそ、きつく縛りたくないのだ。
人間は「縛り」がないと、どうして良いのか分からなくなるものだと棗が言った。朱雀さんは俺達に余計な負担をかけたくないのだと思う・・・。
「なあ、隆。お前は自分に自信があるか??」
「えっ・・・??」
気絶する前に考えていたことを彼の口から問われた。思わぬ言葉にとっさに答えることが出来ず声がつまってしまった。しかし彼は俺の答えを求めているわけではなかった。
「お前、自分がどれだけ魅力と才能に溢れてる人間だと思ってるんだって聞いてるんだよ」
その声色は何処と無く冷たくて、身震いするほど【朱雀】という人が恐ろしく感じる。俺はゆっくりと彼と目を合わせていく。
彼の目は泣きそうな位歪んでいた。
「俺の犯した過ちを・・・お前にはして欲しくない。だから・・・・だからな」
今にも泣きそうな笑みを精一杯作った彼が、
「だから、自分に嘘をつくな。自分を信じて、思ったことをすればいい。そうだろ??」
息を呑むほど美しくみえた。
「・・・はい」
泣きそうな瞳はゆっくり瞬きをすると消え、代わりに明るい光が灯る瞳になった。それだけで俺はほっと息を吐き出す。
「っつーことで、隆哉・・・いや鷹。新しいメンバーのお披露目だ。女の子だぞ」
にやっと意地悪そうに笑って“お前のタイプだよ”と言った。違いますッと否定したら豪快に笑われた。
「まだ見てないんだから。わかんないだろー?そんなこと」
・・・ってか、朱雀さん俺のタイプ知らないでしょ・・・??
心の中でツッコミをして背を向けて歩いていく朱雀さんの左斜め後ろを付いていく。まあこれも何があってもすぐボスを護衛できるようにと零夜に教え込まれた物だが。
・・・女の子、か。
その子が俺達と一緒にデビューする子かな。
俺は少し内心ワクワクしながら表情に出さないように気をつけて少し歩を早めた。