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序章






「兄さん・・・兄さん、兄さん!!!」


嫌だ、嫌だ、嫌だ!!!

母さんが、父さんが!兄さん。助けて、兄さん―――。


「かえってきて!かえってよ兄さぁぁん!いや、いやだよぉぉおおお!!!」


僕が弱いから。僕が兄さんを巻き込んだんだ。

こんな中途半端な力なんていらない!

大好きな家族を・・・護れない力なんて、捨ててしまえばいい!


そうだ、目だ。目を捨てちゃえば僕は何も見えない。

そうすれば・・・何も、何も――――。



燃えるような赤いソレに染まった、小さな手でガラスの破片を握る。


「おいっ!?やめ、やめろ!やめ―――」


にこりと微笑んで、縦に瞼を切り裂く。

つもりだった破片は目にたどり着く前に最愛の兄の手によって阻止された。


ぎゅっと抱きしめられて、兄さんの髪が頬にくすぐったい。

頬に流れる生暖かい物は先についていたソレと混ざって、地に落ちた。


「・・・ごめん、ごめんなぁ」


兄さんの謝る声を聞きながら、僕は目の前が真っ暗になっていくのがわかった。


ブツリ と意識が途絶えて。

それから何もわからなくなった。




   少年は、嘆いた。


    己の無力と、己の力を。
















「ねぇーお母さん」


聞いてる?と問うものもお母さんは私を背に押し込むばかりでちっとも答えてくれない。


ねえお母さん?あのお兄さん達誰?


どうしてあのお兄さん体が真っ赤なの?

どうしてお父さんはあそこで真っ赤になって倒れているの?


どうして、このお兄さん達は―――



「いい?絶対此処からでちゃ駄目よ?いい子にしていてね」


頭をそっと撫でられて、ぎゅっと抱きしめられて。

うふふ お母さんったら甘えん坊ね。大丈夫よ、お母さんの言うこと聞くよ。


答えると、母さんは泣きながら笑った。変なの。


「ほら、耳を塞いで。これから先は何も喋っちゃ駄目よ。目も閉じて―――そう、いい子ね」


元々暗かったのに、私の目にはもう何も見えない。

優しいお母さんの声が耳をかすめて―――



さようなら



「お願い・・・あなただけでも、生きて」




   少女は嘆いた


    己の無知と、己の力を。
















誰もボクらの変化に気が付かない。


ほら、入れ替わったって気付きやしないじゃないか。

ボクらは話さなくたって通じ合うのにね。


「悲しいな」

「悲しいね」


叔母さんはともかくね、母さんも父さんも気付いていない。いつもボクらを間違える。


「僕とお前は違うのにな」

「お前と僕も違うのにな」


姉さん・・・姉さんはボクらの違いをわかってくれる。

いつもボクらの悪戯を見ては怒って、叩いて・・・最後は本気で笑い飛ばしてくれる。


あれ―――?


「「姉さんは、どこ?」」


いない、いない。


いない・・・?


「母さん、姉さんどこにいったの?」

「父さん、姉さんどこにいったの?」


ちょっと、泣いてないで答えてよ。いつもはボクらが泣いても“泣くな!”って怒るくせに。


真っ赤に染まった目を擦って、溢れる涙を拭って・・・母さんはボクらを抱きしめた。


「姉さんは、遠い所にいったの」

「「それってどこ?」」


迎えに行かなきゃ。

気が強いくせにすぐ迷子になる姉さんだしね。ボクらが迎えにいかないと泣いちゃうじゃん。


母さんは答えない。父さんは背を向けてボクらのほうを見ようともしない。


「「ちょっとー、聞いてる?」」


ボクらを抱く手に力を込めて、振るえる声で母さんは言った。


「お願い・・・行かないで」



あなたたちは、どこにも行かないで。



   少年達は嘆いた


    己の(しがらみ)を、己達の力を。



















何も知らない彼らは


何もわからない彼らは





ただただ、嘆いた






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