第二話 信頼……?
「で、何で私を此処に連れてきたの?」
私は、目の前にいる少年に問いかけた。
「う~ん、人助け?」
「人助けって、あんたふざけてるの?」
「いや、これでも真面目だよ」
(……信じられない。どうせ、身体か人身売買目的でしょう?隙見てさっさと逃げよう)
「ああ!そう言えば、自己紹介が遅れたね。俺の名前はレキア。因みに十四歳だよ。君は?」
「……カタリーナ」
私はボソッと呟いた。
「そうか、カタリーナか!良い名前だね!」
「別に。ていうかあんた、自分の親の元に帰らないの?」
「うん?俺の親は戦争で死んで、数年前までは孤児院で生活してたよ?」
「えっ?そ、そう、それは大変だったわね」
「君は?」
「わ、私は……」
言いかけた所で、数時間前の光景が頭に過ぎり、眼から涙が落ち吐き気に襲われた。
「お、オエェェェェェェッ」
「おい、大丈夫!?」
「ゲホッ、ゴホッ……。ハァ、ハァ、……フゥ。ごめん、嫌な物見せて」
「いや、こっちそこごめん。気分を害する様な事を聞いて……」
「別に良いわ。顔を洗いたいんだけど、お手洗いは何処?」
「お手洗いは、外出て近くに水が流れてる所だよ。付き合おうか?」
「一人で大丈夫よ。」
「そう、それなら良いけど」
私は、先程の嘔吐からくる気持ち悪さを感じながら外に出た。
外に出ると、水が流れてる所まで歩き顔を洗った。そして、レキアに気付かれない様に、静かに逃げ出した。
――――どれ程逃げただろう?そう思いながら、私は走り続けた。
時間は、およそ二時位だろうか?辺りが非常に静かで、私は少し寂しさを感じた。
そんな事を考えていたせいだろうか、走っていた私は前に人がいる事に気が付かず、ぶつかってしまった。
「あ、すみません……」
「痛ぇなオイ。何処見てんだコラァ!」
「すみませんでした」
そう言って走り去ろうとした私の手首を掴み、引っ張った。
「逃げんようとすんじゃねぇよオイ!」
「ぶつかっといてそれはねぇだろ。詫びいれろや詫び!」
「離して下さい!」
「あぁ!躾がなってねぇな。こっち来いや!」
そう言われ、私は直ぐ近くの路地裏に連れ込まれた。
相手の男二人は、私を路地裏に連れ込むと、ドスの利いた声で私を脅してきた。
「嬢ちゃんよぉ、人にぶつかっといて謝るだけはねぇだろあぁん?」
「何か出すモンあんだろ、出すモン」
「そう言われましても……」
「お前さ、あんま人をからかってんじゃねぇよ。金がねぇんだったら、身体で払って貰うぞ」
男達はそう言うと、一歩また一歩と、私に近づいてきた。
私は、相手が近づく度に後退った。
数十歩程度後退った所で、急に男達はニヤリと笑った。一瞬私はその事に気付かなかった。だが、直ぐに嫌でも理解出来た。
一歩下がった瞬間、背中にひんやりとした壁が当たった。この路地裏は袋小路だったのだ。
「捕まえた」
そう言い、私の両手首を握った。
「止めて!離して!」
「離さねぇよ。これから俺達と遊んでもらうんだからよ」
「いやぁ!」
そう悲鳴を上げた瞬間、目の前にいた男が突如呻き、しゃがみ込んだ。……どうやら、急所を蹴られた様だ。男の急所を蹴った張本人は、男がしゃがんだ時に顔を確認する事が出来た。
その張本人は、レキアだった。
恐らく、私がいつまで経っても戻らない為、外に出て様子を見に行ったのだろう。そして、私が居ない事に気付き、走って探しに来てくれたのだろう。……よほど走ったのか、レキアはとても息を荒げていた。
「大丈夫か、カタリーナ?」
「え、ええ」
「それなら良かった」
レキアが安堵したところで、動揺していたもう一人の男が口を開いた。
「テメェ、いきなり何してくれてんだ!」
「お前らこそ、女の子一人に二人掛かりで脅してんじゃねぇよ」
「んだとゴラァ、テメェ喧嘩売ってんのか!」
「ああそうだよ、掛かって来いよ」
レキアは、手招きしながら男を挑発した。
男は、レキアの挑発に完全に乗り、レキアに殴りかかった。
「ぶっ殺してやる!」
男はそう言いながらレキアを殴ろうとしたが、レキアは紙一重で避けた。
そして、カウンターで腹に膝蹴りを入れ、顔面に頭突きをした後そのまま殴り飛ばした。
男は見事に吹っ飛び、数度痙攣した後、動かなくなった。……どうやら気を失った様だ。
私は唖然とした。まさかレキアがあそこまで強いとは思ってもいなかったからだ。
レキアは、唖然としている私をチラッと見た後、未だに急所を蹴られ蹲っている男に向かって言った。
「さっさとそこに倒れてるヤツを連れて、ここから失せろ!」
そう言うと、男は顔を歪めたまま、倒れてる男を担ぎ
「お、覚えとけよ!」
と捨て台詞を吐きながら、千鳥足で走っていった。
「危なかった~。カタリーナ、大丈夫だったか?」
「ええ、大丈夫だけど」
「間に合って良かった~。あんまりにも戻ってくるのが遅いから、外に出てみたら姿が見えないんだもの、すんごい焦ったよ」
どうやらルキアは、私がさっきの男達に連れ去られたと勘違いしている様だ。
「ごめんルキア。私、貴方に謝らなければいけないの」
……人間なんて信用出来ない
「えっ?いきなりどうした?」
「私がいなくなったのは、さっきの男達に連れ去られたからだと思っているでしょ?本当は違うの。本当は、貴方の事が信頼出来なかった。だから、隙を見て逃げ出そうと思った。ごめんなさい」
……だからこそ、この目の前にいる男には、しっかりと謝罪を述べた方が良いと思った。
この男は、一生懸命になって私を捜し、男達から助けてくれたのだ。多分、信用しても良いんじゃないかと思う。
「………………」
「ルキア?」
「なんだ、そんな事だったのか~。いきなり謝りたい事があるって言われた時は、何かしたのかって身構えちゃったけど、そんな事だったのか」
「そんな事って……。何で怒らないの!?」
「何でって。俺は君に怒る事なんて、何一つ無いだろ?」
「私は貴方を騙したのよ!怒られて当然なのよ!」
「別に俺はそんな事気にしてないし、大丈夫だよ?だからもうこの話は終わりにしようぜ?」
「はぁ、分かったわ。でも、ありがとう」
「うん?何がだ?」
「何でもない!」
「じゃあ帰ろうぜ。もう時間も遅いし」
そう言ってルキアは、住処へ歩みを進めた。
(多分確証は無いけど、ルキアなら信じれる気がする。だから、これから住処で住ませてもらおうかな。その前に相談しなきゃ)
そう思いながら、私はルキアの後を追った……
住処に帰ると、私はルキアに今まで起きたことを、包み隠さずに全て喋った。私の親が三歳の時に死んだ事。その後、叔父と叔母に引き取られ、酷い扱いを受けていた事。そのせいで、人間不信に陥ってしまっていた事。数時間前に起きた戦争で、叔父叔母までもが死んだ事。そして、この街まで逃げて来た事などを。
その事を踏まえ、此処で住んで良いかを、ルキアに尋ねた。
「という事なんだけど、此処に住んでも大丈夫?」
すると、ルキアはにっこりと笑い、
「全然問題ないよ。というか、寧ろ大歓迎だよ!俺、独りだったから凄い寂しかったんだよね。だけど、カタリーナが此処に住んでくれるなら、これからは寂しくないしありがたいね!」
「良かった……。てっきり断れるかと思ったわ」
「それにしても、まさか人間不信だったなんて。俺よりも酷い扱いを受けていたんだな……」
「ううん、でもその時は、まだ戦争が起きていなかったから良かったの。だけど……」
「大丈夫だよ。これからは俺がずっと一緒にいてあげるから」
ルキアはそう言うと、優しく微笑んだ。
「ありがとう」
「どういたしまして。取り敢えず今日はもう遅いし、寝ようか。カタリーナはそこのベッド使って良いよ。俺は床で寝るから」
「そんなの悪いよ。私が床で寝るから」
「気にしないで。後、これからは遠慮しなくて大丈夫だから」
「でも……」
「仕方ないな~」
ルキアはそう言うと、私の手を引いて一緒にベッドへ飛び込んだ。
「なら、一緒に寝ようか」
私は、そんなルキアの行動に一瞬固まったが、直ぐに正気に戻って叫んだ。
「何でそうなるのよ!」
「だって、カタリーナはまだ遠慮がちだし。だったら緊張ほぐしのついでに、一緒に寝れば、誰も床で寝ずに住むでしょ?」
「はぁ、貴方ってホントに非常識ね……」
「うん?何か言った?」
「何も!もう寝る!」
「そっか。じゃあお休み」
ルキアにそう言われた直後、直ぐに睡魔に襲われ、私は深い眠りについた。