第一話 出会い
これは、一人の女の子と一人の男の子の物語である……
私は銃弾が飛び交う戦場の中で生まれた。老若男女の阿鼻叫喚がそこら中に響き、銃声がいつまでも鳴り止まない、そんな世界だった。
そしてこの最悪の戦場のせいで、私を産んだ母は私が三歳の時に死んでしまった。また、父も兵士として戦場に送り込まれ、戦死してしまった。
両親を亡くした私は、母の弟である叔父に引き取られた。叔父は私を腫れ物の様に扱い、私を遠ざけた。逆に叔母は、私をガラクタの様に扱っていろいろな事に扱き使った。
辛かった。何度も死にたくなった。両親と楽しく幸せに暮らしたかった。だがそれは叶わない夢だ。全てはあの憎たらしい戦争が奪っていった。私の人生の何もかもだ。だから私は戦争が大嫌いで許せない。その気持ちは今もこれからも変わらないだろう。
そして気付くと私は、戦争の恨みの対象が人間に変わっていた。話しかけてくる人々全員が、私に何かをしようと企てているのではないかと思え、信用出来ないのだ。
そんな感情が出てきてしまったせいで、憎い対象が戦争からこの世界に変わっていった……
叔父に引き取られてから月日が経ち、私は十四歳になった。今でも叔父と叔母の私に対する態度は変わらなかった。
「まだ掃除も終わってないの!?ホントあんたは役に立たないゴミね」
そう言って掃除をしている私の腹に蹴りをいれた。
「すみません……」
「ほらゴミ、さっさと掃除しなさい!まだまだやることはたくさんあるのよ」
「はい、叔母様」
私はそう言い、また暴力を振られない様に急いで掃除をした。
(ふざけないでよ!私はあんたの奴隷じゃない! ……はやく、ここから出て行きたい)
いつもこんな感情が出てしまう。
だが今の私は、あの叔父叔母さへ除けばそれなりに幸せに生活出来ている。何せ、今住んでいる地域の戦況が膠着状態にあり、銃撃戦がないのだから。それだけで私は幸せを感じられる。
しかし、本当の私の幸せは両親が存在しない以上、絶対に手に入らない。
(私は一生本当の幸せを感じる事はないだろう。でも、この家から出て行く事が出来れば、もう少し幸せになれるだろうなぁ……)
私はそう考えながら、掃除を終えた。
その日の晩だった。私は日課になっている星空を眺めていると、遠くの方で一瞬光った様な気がした。
私は、気のせいだろうと思いまた星空を眺めていると、1キロメートルぐらい先の民家に突然火があがった。それに続き、あの忌々しい銃声と人の悲鳴が聞こえた。
(信じられない……。また戦争が始まるの?何でよ!?いまこの地域は全く無関係だったじゃない!)
そう思いながら私は窓を閉めようとしたとき、男性がこちらに走ってきた。おそらく向こうから逃げて来たのだろう。
「おいそこのお嬢ちゃん、やべぇぞ!敵軍がいきなり攻めて来やがった。早く逃げないと、もうじきここにも攻めてくるぞ!」
「分かりました!」
そう言い、私は下に降りるとさっきの男性の話が聞こえていたのか、叔父母が逃げる準備をしていた。そして私の方を向かず、外に繋がる扉を開けた。
だが扉の向こうには、
「そんなに急いで何処に行くのかなぁ?」
そこには数名の兵士が立っていた。
私はとっさに物陰に隠れる事が出来たが、叔父叔母は突然の事に身体が動かない様だった。
「おーい、聞こえてますかぁ。無視は寂しいなぁ」
「な、なんで……」
「何でだと思う?簡単な事じゃないかぁ。待ち伏せだよ、ま、ち、ぶ、せ。お前らみたいなネズミを狩る為に待ってたんじゃないかぁ」
「そ、そんな……」
「という事で、お前らは邪魔だから死んでもらいまーす」
「ど、どうか、命だけは。娘を差し出すので」
この台詞を聞いた瞬間、私は叔父叔母に対しての憎悪と憤怒の感情に呑み込まれた。
(そこまでして、自分達が生き残りたいの!?ホント人として最低!)
「へぇ~。お前ら、娘がいるんだぁ。じゃあどうしよっかなぁ。なぁ、お前らはどうするよ?」
「そんなもん決まってんだろ」
「やっぱりあれだろ」
「あれかぁ、やっぱりそう思う?じゃ、決めた。お前らはいっていいよ」
「本当ですか!?ありがとうございます、ありがとうございます」
二人は助かる事と、邪魔な私を捨てる事が出来た事に喜びを感じ、ほくそ笑んでいると、
「ああ本当だ。逝ってらっしゃい」
男はそう言い、叔父に銃口を向け発砲した。
叔母は、一瞬何が起きたのか理解出来ていない様だった。そして、やっとのことで発せられた言葉が、
「ど、どうして……」
「あれぇ、理解出来なかった?俺らは逝っていいよって言ったんだよ」
「それは、逃げて良いってこと……」
「だ、か、ら、あの世に逝っていいって事だよ。お前らの娘は、後で楽しんでやるよ。じゃあ、逝け」
言い終わると、叔母にも銃口を向け発砲した。
「さてと、後は娘だけだな」
その言葉で、私は正気に戻った。
「おーい、お嬢ちゃーん。出ておいで。俺らと遊ぼうぜ」
そんな言葉と共に、足音が近づいてくる。
私は奴らが扉から離れ後ろを向いている隙に、一切の物音を立てず兵士達が入ってきた扉から外に出た。そして、他の兵士達にばれない様に、姿勢を低くして遠くへ走った。走り続けた。絶対に奴らに捕まらない様に……
私は走っている最中、不意に涙が一粒零れた。一粒零れると、また一粒と止まることを知らないかの様に、立て続けに流れた。
一瞬何故だか分からなかった。だが、気付かされた。それは叔父母が死んで、また一人になるのかという不安と恐怖に心がやられていたのだ。人が信じられない以上に、一人になるのが怖かったのだ。
――――どれ位走っていたのだろう。気付くと、住んでいた村から隣の街に辿り着いていた。
私は哀しみと絶望に胸に抱きながら、夜の街を歩いていた。行く当ても無く独りで……
(私、これからどうしよう。お金も無いし、服もボロボロだわ。もうこの際神でも良い!誰か私を助けてよ!)
そう思っていると不意に背後から、
「そこの君、大丈夫?」
私は声のした方を向くと、そこには私と年齢が同じ位の少年が立っていた。
「何?」
「いや、なんか泣いている様に見えたから……」
「泣いてないし、私は今忙しいの。だからあっちいって」
「いやいや、もう遅い時間だし。あ、そう言えば隣の村が戦争に巻き込まれたって言ってたな。君、もしかしてその村の人?」
「だったら何だって言うの?」
「どうせ、行く当てが無いんでしょ?だったら俺の住処に来ない?」
「大丈夫よ。迷惑になるし」
「そんな事言わずにさ、行こう!」
「ちょっと!腕を引っ張らないで!」
私は少年に腕を引っ張られ、無理矢理少年の住処に連れてかれた――――