5話
「フェルド、おいフェルド!しっかりしろっ!」
「ん……んんっ?」
誰かに激しく揺すられてフェルドは目を覚ました。
ぼんやりとしか見えていなかった視界が段々と晴れる。
「あ……ハルツさん……?」
「やっと気がついたか……」
ハルツはホッと息を吐き出したのも束の間、いきなり大声をあげた。
「フェルド!一体お前はなんてことをしてくれたんだっ!?」
「は、ハルツ……さん……?」
彼の怒声にフェルドは眼を回す。
そんな彼に、ハルツは「これを見ろ!」と震える手で目の前の光景に指をさした。
そこはなぜか地面や草が赤く染まっていた。さらに何十人もの帝国兵士が胴体と下半身が真っ二つに引き裂かれて地面に転がっていた。その中には、部隊の隊長の生首もある。
「ーーう゛っ?ウ゛エッ!!」
その残虐な光景と漂ってくる生臭い血の臭いでフェルドは思いっきり胃の中のものを全て吐き出した。
そんなことは御構い無しに、ハルツがフェルドの胸ぐらを掴む。
「これがどういうことかわかるな?帝国に反逆したっていうことなんだぞ!?」
「お、俺には何がなんだか……。一体……帝国の兵士は誰に殺されたんです……?」
「誰に殺されたかだって……?フェルド!お前、自分のやらかしたことを忘れたっていうのかっ!?」
「え……?」
事件を聞きつけたウルクルフの村人全員が、自発的に集会場に集まってり緊急の集会が煽られた。
壇上に立つハルツとフェルドに色々な声が上がる。
「おい!村長が殺されたっていうのは本当なのか!?」
「帝国兵士を皆殺しにしたそうじゃないか!」
「隠してた農園も見つかったんだって!?」
「革命だ!今こそ我々ウルクルフが立ち上がり、人狼族の力を奴らに見せつけてやるのだ!」
「亜人たちが帝国から独立する先駆けとなろう!」
「馬鹿かっ?帝国に敵うはずないだろう!」
「もうダメだ!このままじゃ皆殺しだ!」
「いや、今ならまだ間に合う!この際、何人かを帝国に奴隷を献上しよう!」
「それだ、それしかない!帝国に詫びを入れよう!」
口々に意見をぶつけ合う。次第に会場が、帝国に反旗をひるがえすことを主張する強硬派と帝国にひたすら許しを乞うべきだと主張する穏健派に二分されていった。
見かねたハルツが銅鑼を鳴らして場を静めさせる。
「みんな静かに!静かにしてくれっ!」
一同が口論を中断させて壇上のハルツを見上げた。自分に注目の目が向いたところで彼は小さく咳払いする。
「みんな聞いてくれ!俺たちがこれまで隠し通して来た隠し農園が帝国に発覚してまった!そして村長も殺された!今後のウルクルフをどうするのか決めたいと思う!」
彼の言葉に一人の村人が声を上げた。
「帝国の兵士を皆殺しにしたっていうのは本当なのか!?」
ハルツは顔をしかめて頷いた。
「本当だ……ここにいるフェルドが奴らをやってしまった」
バッと村人達の目がフェルドに向けられる。彼は萎縮して身をすくめさせた。
またしても村人達はそれぞれ己の意見を叫んだ。
「なんということをしてくれたんだっ!」
「帝国が怒り狂って大軍で襲って来るぞ!」
「あの小僧の首を差し出せば許してもらえるハズだ!」
「そうだ!あのガキを殺せっ!」
フェルドは村人が自分目掛けて迫ってくるのを見て恐怖で腰を抜かした。
それを強硬派の村人達が阻止し始める。
「貴様ら何を言っているんだ!あんな少年が勇気を振り絞って行動に出たっていうんだぞ!恥ずかしくないのかっ!?」
「我々はあの子を見習うべきなんだ!」
「嗚呼その通りだ!次の村長はフェルドに決まりだ!彼なら勇敢な指導者になるに違いないっ!」
「時代は変わった!若い少年に出来て俺たち大人に出来ないはずがない!」
「今こそ立ち上がれ!武器を取れ!帝国の旗をこの手で消し炭にしてやる!」
強硬派達の熱気は穏健派よりも最高潮に達し、徐々に穏健派達も彼らに感化されていった。
ハルツが再び銅鑼を打ち鳴らした。
「みんな静かに!そこまでだ!これから誰を村長にするべきか投票を行う!」
村長を決めるということは、すなわち村の、ウルクルフの今後の方針が決まるということでもある。
「候補者はフェルドと、このハルツだ!因みにフェルドは強硬派だ。しかし、俺は帝国と手を携えるべきだと考えている。どう考えても帝国には勝てない!約束しよう!俺を村長に選べば村は救われる!滅びを選ぶか、それとも繁栄を選ぶか……。それは皆んなの気持ち次第だ!さあ選んでくれ!!」
ハルツの言葉に今度は強硬派が押され始める。
フェルドは、揺れるウルクルフを呆然と眺め、立ち竦んだ。
(どうして……どうしてこんなことになってしまったんだ……?)
まさに村の危機。という感じですが、まだなんだか説明不足な感じ……。それに投票になる経緯についても少し……。多分次回に補足文を挿入します。