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3話

(レリン、村長、皆んな……。今……助けに行くからな……っ!!)


 震える足をひっぱたいて立ち上がり、一歩足を踏み込んだ瞬間、不意にどこからか少年の声が聞こえてきた。


 〔おーっと、ちょと待った〕


「ーーっ!誰っ!?」


 バッと後ろを振り返るが、そこにあるのはただ風で揺れる草原だけだ。辺りを見渡しても、どこにも人の姿はなかった。


「ど、どこにいるんだ!?」


 〔そらぁ、お前の中に決まってんだろ〕


「な、なかっ?」


 フェルドは慌てて自分の胸を見た。


 彼のその反応に少年の声が鼻をならす。


 〔はっバーカ、違えよ。普通こういうんは頭ん中って決まってんだろうが。オレはお前の頭ん中に居んだよ〕


「あ?頭の、中に……?」


 フェルドにはそれがどういう意味なのかさっぱり分からなかった。あまりに突然のことでどうすれば良いのかさえ思いつかない。


「き、キミは一体誰なんだっ?」


 〔オレか?オレはお前だよフェルド〕


「き、キミが俺……?な、なにを言ってるんだ……?」


 余計に頭の中がこんがらがってくる。


(俺は俺だろ?他の誰でもない、フェルドという普通の人狼のはずだ……)


 〔本当にそう思うか……?〕


「ーー!?」


 フェルドが口に出して喋っていないにも関わらず、少年は彼が思ったことに対して口を挟んできたではないか。


 〔なにビビってんだよ。さっき言ったろ?オレはお前だって。同じフェルドなんだから考えてることくらい分かって当然だろうが〕


「そ、そんな……」


(俺の中にもう一人の俺がいるっ……?冗談じゃないっ!)


 〔クドイなーお前。ま、いっか。……それよりさぁ俺くん。確か愛しの何とかちゃんを助けに行くんじゃなかったっけー?〕


(……!そ、そうだ。レリンはっ!?)


 フェルドが農場に目を向けると、怒りでわなわなと肩を震わせた隊長が顔を真っ赤にしてレリンを蹴り飛ばしていた。彼女の身体が数メートル吹っ飛ぶ。


「この小娘が!よくもこの私の美しくしなやかな腰を傷めつけてくれたな!女を抱けん身体になっていたらどうしてくれるっ!?この場で叩っ斬ってやる!」


 腰の剣を抜き放った隊長の目の前に、ボロボロになった村長が手を広げて立ち塞がった。


「この子は悪くねぇ、ワシの所為じゃ!殺すならワシを殺せ!」


「じゃあまずはお前から死ねぇ!」


「ーーギャアアアアッ!!」


 ヒュッと音を立てて振り下ろされた剣が村長の頸動脈を切り裂いた。瞬間、大量の血が噴水のように噴きあがり、膝をついて力なく崩れ落ちた。


「あ……?あ……!ーーうぐっ!」


 〔おおっと血の雨だ〜!って、のんびりしてるから殺されちゃったじゃんか〜っ〕


 フェルドはその光景にショックで吐きそうになっていた。対して頭の中から聞こえる少年の声はいたって変わらなかった。いや、それどころかどこか楽しんでいるようにすら聞こえる。


(そ、村長が死んだ……?)


 〔お前マジでメンタル弱すぎじゃね?そんなんじゃあのなんとかちゃん……レリンちゃんだっけか?助けらんないぜ?〕


(どうしたら……どうしたら皆んなを救える……?)


 〔お前には無理だ。だが、オレにならば簡単に出来る……。オレにその身体を譲れ。なに、ほんの少し預かるだけさ〕


(キミに身体を渡せば……救えるんだな……?)


 〔ああそうだ。村のヤツらはきっちり助けてやるさ〕


(……分かった。で、身体を預けるにはどうすれば良い?)


 〔静かに目を閉じて、それから頭ん中でオレの目を見ろ。ただそれだけだ〕


(目を見るってどうやって……?)


 〔やってみればすぐ分かる。クズクズしてっと手遅れになるぞ!〕


(分かった……やってみる!)


 フェルドは一か八か目を閉じた。そして少年の目を探す。


 音のない闇の中、少年の目はすぐに見つかった。その目はどこかで見覚えがあるような……。そう思った瞬間、少年の目とフェルドの目が合ってーー



 地面に倒れていたフェルドはゆっくりと立ち上がった。それから唇の端を吊り上げて笑った。


「初めまして「オレ」で〜す。異世界の世界さん、どうもこんにちは〜」


(さぁ……これから楽しい楽しい殺戮ショーの始まりだぜーー!)

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