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魔王商売を始めるw

(8)


 毎日のようにジェリー達のところに足を運んでみたが、なんでも屋の仕事は入ってきてないようだった。

 と、いうのも小さな話はチラチラあるのだが、ベテランでしかも銭勘定で経費以上の報酬を選びたがるジェリー達の眼鏡にかなう仕事がないのだ。

 実際に口入れ屋に足を運んでみたら、近隣の村に出没する野犬の駆除だとか、下水道の鼠掃除だとか、労力のわりに報酬が少ないものがほとんどだった。

 駆け出しの連中やまともな職につけない奴らならいざ知らず、ベテラン連中はプライドが高い。

 それなりの仕事でないと受け付けないのだ。


「どうしたもんかな」

「日銭は細工仕事で稼げますし、気長に待ってたらいいんじゃないですか?」

 リチャードがあっけらかんと言う。

「私が何でも屋ならそんでもいいんだがな…」

 打倒現職魔王の目的があるからには、漫然と暮らしていてはまったく目的にたどり着かない。

「一歩踏み出さなければ目的地には着かないのだ」

「そんなもんですかねぇ」

 リチャードはシュガー・ジンジャーに手を翳して、言った。

 私が買い与えたものだが、ゴーストの能力で気を吸っているのだった。

「うまー」

「ゴーストでも味がわかるんかい」

「分かります。これは三丁目の角のガラクタ屋を曲がった先の三角亭のシュガー・ジンジャーですよ」

「なんで分かるし」

「ふふふ、違いの分かる幽霊と言ってくだされ」

 リチャードは自慢げにベラベラしゃべる。

「あそこは自家製の砂糖漬けジンジャーを使ってるので味に雑味が少ないんですよ」

「ふーん、そんなもんか」

「あ、甘さにうるさい人には分かるんです」

 リチャードは力説した。

「砂糖漬けジンジャーとスパイスを煮詰めて、蜂蜜と砂糖を加えてゆくんです」

「砂糖漬けにまた砂糖か」

 甘すぎだろ。

 と、顔に出たらしい。

「いいじゃないですか! 甘さの追求にはこれがだいじなんです!」

「砂糖付けなら後追いの砂糖は要らないし、普通にお菓子として売れるな」

 私は思い付きを口にしてみた。

「炭酸水はたしか重曹で造るんだったな」

「あと柑橘類の果汁を入れます」

「入れ物はどうしたもんかな」

「え?」

「道端で売って客が持って歩けるようなのがいいんだが」

「ガラス瓶ですかね」

「ガラス職人が要るな」

「炭酸水は確か腐敗や変質しないはず。問題は蓋だな」

「木でいいんじゃないですか?」

「いやそれじゃ密封されんだろ」

「じゃーガラス蓋?」

「割れるだろ」

「どーすればいいってんですか!?」

「ま、それは後回しにして、だ。持ち運べるシュガー・ジンジャーを製造、販売する」

「ガラス瓶とか高くて買えませんよ、庶民には」

「そーか? じゃあポーションみたく魔法関係の店に置くとか」

「魔法使いとか何でも屋にはいいかもしれませんね」

「値は張っても保存性のある飲料だぞ、栄養もあるし」

「ワインやエールの飲めない下戸の連中にはいいんじゃないですかね?」

「おし、この線でいこう」

 私は外出。

 知り合いの伝でガラス職人を訪ねるべきだな…。

 その前にジェリー達にこの話をしてみよう。



(9)


 ジェリーにこの話をして、早速やってみることにした。

「酒が飲めねぇ奴の事は考えた事がなかったな」

 ジェリーは目から鱗って顔をしてる。

「商売の基本は隠れたニーズを掘り起こすところにあるのさ」

 私はなんかそれっぽい事を言ってみた。

「まずは中身のシュガージンシャーを発注だな」

「どこに?」

「それなら三丁目の角のガラクタ屋を曲がった先の(ry」

「お前も知ってるのか、トラバンユ」

 後ろで話を聞いてたトラバンユが話に混ざってくる。

 甘党だからなコイツ。

「旅先で旨いシュガージンシャーが飲めるなら協力を惜しまないぜ」

「そーか、なんでもする、と」

「いや、何でもするとは言ってない」

「じゃー、中身はそれできまりな」

 ジェリーは言って、

「ガラス瓶はどーする?」

「それは職人仲間のつてで探すさ」


 私とジェリーとトラバンユはシュガージンシャーの旨いという三角亭へむかった。

「仲良いね、あいつら」

「そーだな」

 マジニーとサバーシがその後ろ姿を見送った。


 三角亭で手始めに味を確認。

「甘い」

「あめぇ」

「旨い」

 三者二様の感想。

 確かに記憶の中のシュガージンシャーより、雑味が少ない気がする。

「雑味がなく、それでいて味は濃厚、大胆にして繊細、すこぶる元気」

 トラバンユがよく分からない料理漫画のような事を言っていたが無視された。

「無視すんなよ」

 トラバンユは面白くなさそうにしてたが、

「まいど!」

 三角亭の亭主らしき親父が気さくに話しかけてきた。

「いつもご贔屓にあずかり、ありがとさんでやす」

 料理と経営の両方をやってるんだろう。

 小さな店にはありがちなタイプだ。

「なに、甘味にはうるさい方なんでな。料理も旨いし」

「誉めてもまけまへんでー」

「なんだよ、ケチくせぇ」

 トラバンユは普段の無口さからは考えられないくらいにしゃべってる。

 打ち解けるとしゃべるやつ?

 コミュ障ともいうなぁ。


 しばらく世間話をして打ち解けてきてから、本題を切り出す。

「親父さん、ちょっとした頼みがあるのだが…」

「ん、なんでぇな?」

 斯々然々。

「という事でシュガージンシャーを買い付けたいんだが」

「へー、ビン詰めにねぇ」

 亭主はピンと来ないふうだった。

「そんな高価なもん、買うヤツいるのかね?」

「魔法関係の店とか何でも屋が集まる店とかに置くつもりだ」

「ていうか、ガラスの原料が品薄だって聞いたぜ?」

 そうなのか、知らなかったな…。

 と思ったが、

「大量に作る訳じゃないさ」

 ポーカーフェイスで答える。

「ま、良いけどよ」

 亭主は一つ間を置いて、

「面白そうだから受けてやるぜ」

「それは助かる」

 続けて値段の話をした。

 発注数が少なく高品質なのもあり、あまり値切らなかった。

 最初から高いものとして売るし、値段は実態としての売り上げが出てから考える。

「で、ガラス瓶を作る職人はもう決まってんのかい?」

「いや、これから探すが」

「なら、オレのダチにガラス職人やってるヤツがいんだが、そいつを紹介してやるよ」

 お、それはホントに助かる。

「助かるよ、探す手間が省けた」

 雑談をしてから三角亭を後にした。


 更に紹介されたガラス職人の所へ行き、ガラス瓶について話した。

 ガラスの原料が品薄だというのはホントらしく、なんだか原料を採掘する地域にモンスターの一団が移り住んできて採掘がままならないとか。

 原料が品薄なので力のある商人、問屋が原料を買い占めてしまい、値をつり上げているようだ。

 商人達は分かってやってるから始末が悪い。

 高いものを買わされて、品質が悪くてもあまり文句も言えない。

 売ってもらえなくなると困るから。

「想定してた値段より高すぎて手が出ない」

「なんだよ、ダメかー」

 ジェリーは諦めモード。

「いや、諦めるのはまだ早い」

 だが、トラバンユは諦める気はないようだった。

「採掘場に移り住んだモンスターを排除すればまた元の通りに原料が入ってくる」

「ふむ、口入れ屋にこの仕事があるか見に行こう」

 私は言うが早いか進路変更、口入れ屋に向かった。


 口入れ屋は通称で、本来は酒場兼宿。

 カンテラ亭という。

 誰もホントの名称でよばないが。

 何でもやるならず者や仕事にあぶれた連中に仕事を紹介してるうちに、人が集まり、口入れ屋と呼ばれるようになったとか。

「あったぞ」

 私が掲示板の紙を指差した途端、

「親父さん、これ受けたぜ!」

 トラバンユが亭主に申し込んでいた。

「え、あんたらが請けるレベルの仕事じゃ…」

「仔細があってな、わりいけど受けるぜ、これ」

「はぁ、あんたらが良いんなら…」

 口入れ屋亭主は釈然としてないようだったが、この仕事を請負済みとしてくれた。


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