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月の光  作者: 麗音
1章
6/45

6話

「まずオルディンと総隊長。2人は最前線に行き、敵軍を引き付けてくれ」

「「はっ」」

「フローラとゼオンは最前線で傷ついた戦士たちの治療と誘導を」

「はい」「はっ」

「エデンはジュリアとレイラと共に東の城門から避難所へ向かい、民達を友好国などに亡命するように説得を」

「「「はい」」」

「では、30分後に各自動いてくれ。頼んだぞ」

父上様がみんなに指示を出す。

民達を亡命させるということはルーベンス国は滅ぶということだ。

私は寝ている間に何があったのか、準備をしながらジオルドに尋ねた。

すると

①ランファ国はルーベンス国よりも先に滅ぼされており、王族は皆殺しにされた

②バーレンシア国の援軍3000人が合流した

③友好国からの援軍が来る様子はない

④ランファ国で良く生産されていた魔法石が全て奪われた

などを聞いた。

「ローあねうえさまはだいじょうぶなのですか?」

「私は大丈夫よ。心配してくれてありがとう」

ロー姉上様が近くに来ていてビックリした。

その隣には大兄上様が当然のようにいる。その横には小兄上様もいる。

「私達は騎士達に説明するために先に行くよ。レイラと逢えるのはこれが最後だと思う。私はこの国の王太子だ。最後まで国のために戦うつもりだ。レイラ、私の妹に生まれてくれてありがとう。愛してるよ」

「私もオルディン様の妻でこの国の王太子妃です。命乞いをして生き残るつもりはありません。この身はこの国と共にあります。今まで仲良くしてくれてありがとう。私の可愛い妹。愛してるわ」

と言って2人は順番に私を抱き締めて額にキスをしてくれた。

私も泣くのをこらえて2人の額にキスをした。

「ありがとうございます。わたしもおふたりがだいすきです。わたしのおおあにうえさまとそのおくさまがおふたりでとてもしあわせです」

過去形では絶対に言いたくなかった。

2人はわたしの言葉に泣きそうになっていたが、最後に頭を撫でてくれた。

そして私の横にいる母上様に挨拶に行った。

「あーあ、2人とも僕の言いたいこと全部言っちゃって」

ちょっと拗ねたように小兄上様が言った。

「まぁ僕も覚悟を決めたけど、最後まで国のために王族としての務めを果たすつもりだ。レイラ、君も逃げずに決断する勇気を持つんだよ」

そう言って頭を撫でてくれた後、母上様のもとに行った。

父上様に挨拶した後、大兄上様、ロー姉上様、小兄上様そして総隊長の4人は王の間を出ていった。

私が4人を見たのはこれが最後だった。


しばらく4人が出ていった王の間の扉の方を見ていると急に抱き上げられた。驚いていると

「レイラ、何があるかわからないから城の外に出るのはとても危険だ。それでも、外に出す父を許してくれ」

そう、沈痛な面持ちで父上様が言った。

「ちちうえさま」

「こんなに早くレイラと別れることになるとは、思っていなかった。もっと一緒に過ごしたかった。成長したレイラを見たかった。本当にすまない。愛してるよ」

父上様が話している途中で、先程は我慢できた涙が溢れ出た。

私は父上様に抱きつき

「わだしも、もっど、いっじょに、いだがっ、だでず。もっど、おはなじ、じだがっだ、でず。わだじも、だいずき、でずぅぅ」

涙声で途切れ途切れにそう言う。

お互いにキツく抱き締め合い、額にキスをして、父上様が私を母上様に渡す。

父上様と母上様はアイコンタクトした後、何も言わずに姉上様や側仕えを引き連れて王の間を出る。私は母上様にキツく抱きつきながら母上様の肩越しから父上様が見えなくなるまで、ずっと見つめていた。父上様もこちらを見ていた。

最後に見た父上様は泣きそうな、でも無理に笑おうとしているような複雑な表情だった。


母上様と側仕えが4匹、私と姉上様は3匹の馬を用意してもらい計10騎の小さな騎馬隊で避難所に向かう。

道中は問題なく、避難所に着いた。

馬から降りる際、母上様は執事の1人に何か指示をしており、指示されたものは馬に乗ったまま来た道を引き返していく。

それを見送った後、母上様は民衆の前に立ち、亡命するように説得を行った。

民の中には共にいさせてほしいと言う人も多くいたが、母上様の生きてほしいという願いに亡命する準備を始める。

それを見守っていた私と姉上様のもとにも民達からの感謝と別れの言葉を言い合う。

徐々に避難所から人が出ていくと、母上様が私たちのもとに来た。

「これで民は大丈夫でしょう。次はジュリア、あなたです」

なんのことかわからなかったので、ジオルドに確認すると、姉上様は狙われているので、民衆に紛れてルーベンス国を離れることが私が寝ている間に決まっていたらしい。

皆その意見に賛成したが、姉上様だけは納得していないらしい。

その証拠に

「母上様、やっぱり私も共に残ります。一人だけ逃げるなんて嫌です!」

「いい加減に聞き分けなさい。敵軍の望みは貴女です。でも、貴女が捕まらなければ相手の目的は達成されず、無駄に終わる。私たちができる最後の萎縮返しです。何もかも相手の思い通りになるのは嫌でしょう?さぁ、馬に乗りなさい」

「母上様!!嫌です!!」

と言い争いをしている。その間にも母上様は姉上様を馬がいる方に連れていっている。すごい手腕だ。

そうこうしているうちに、姉上様の馬のところに着いた。

既に姉上様の執事が馬に乗り、暴れている姉上様を馬上に抱き上げる。

「母上様!!私は…」

姉上様は涙を流し、抵抗している。すると、

「復讐しようとも思わないで。殺されたから殺して、殺したから殺されて、それで最後は本当に平和になるのでしょうか?私は思いません。それに、復讐しようと憎しみに心が染まった貴女を見たくはありません。貴女は私の太陽ですもの。貴女を産んで思ったことは太陽のように明るく勇気づけ、力を与え、皆を笑顔にする子になるという確信でした。その通り、貴女は明るく活発で貴女の周りは常に笑顔があった。これからは辛い日もあると思います。死を選ぶこともあるでしょう。でも明日からは後悔だけはしないようにしてくださいね。過去ではなく未来に希望をもって生きていきなさい。これからも愛していますよ」

母上様の言葉に姉上様は抵抗をやめ、馬に座ってなかったら泣き崩れていたであろう程、大泣きしている。

様子を見ていると母上様に呼ばれ、近寄ると抱き上げられながら最後の挨拶をしなさいと言われる。

最後のという言葉に家族全員で会うことはもうないのだと、実感する。

もうすぐだった姉上様の生誕日に渡す予定だったチューライトのブレスレットを収納ネックレスから取り出して姉上様、腕につける。

「ほんとうはこんどのせいたんびにわたそうとおもっていたのですが、こんなじょうきょうでわたすことになるなんておもってもみませんでした。これはチューライトのいしです。くわしくはわすれましたがせいしんめんをクリアにたもつたすけだったり、いつくしみのこころをふかめるといういみがあるそうです。しゅうのうブレスレットにもなっているので、おちついたらなかをかくにんしてみてください。わたしはあねうえさまのいもうとでしあわせです。いままでありがとうございました。だいすきです」

最後まで泣かずに言うことができた。

姉上様は私が話している間は泣きながらブレスレットを眺め、ずっと頷いていた。

そして、ブレスレットがついている方の手で頭を撫で

「わだじも、あなだが、だいずぎ、でず」

と言ってくれた。

その言葉の後に姉上様を乗せた馬と側仕えの馬は走りだし、3騎共民衆に紛れて見えなくなった。


しばらく母上様に抱き上げられたまま一緒に姉上様が消えた方角を見つめていると

「さて、レイラもお行きなさい」

と言った。

「えっ?」

寝耳に水の事に聞き返すと

「貴女もジュリアと同じく国を出なさい。但しジュリアとは違う方向にお逃げなさい」

「ははうえさま?」

呆然としている間に既に馬上にいるジオルドに私を渡す。

「貴女が寝ている間に陛下と2人で決めました。こんなに幼い貴女が厳しい世界で生きていけるだろうか、でも生きてほしいと最後まで悩みました。きっと貴女は一緒にいたいと言うだろうと。でもジオルド、シャナリーゼ、ルイの3人がこれからもずっとあなたと共にいる。だから貴女は大丈夫だと判断しました。私たちがいなくても生きていけると」

そこまで言った後、母上様は私の頬に手を当てる。

私は既に大泣きで、目から零れる涙を指で拭ってくれる。

「ジュリアは私の太陽ですが、貴女は私の月です。月は皆を優しく癒し、安らぎを与え、見ているものの一筋の光です。これから先貴女がどのように成長するのか側で見守りたかった。もっと色々なことを教えてあげたかった。これからは違うところからずっと見守っています。どうか生きてくださいね。これからも愛しています」

母上様も涙を流して言う。

私は涙で霞んでいても、母上様から目を離したくなかった。

「わだじは、ははうえざまの、むずめで、よがっだ、でず。わだじのはばうえ、ざまに、なっで、ぐれで、ありがどう、ござい、まず。わだじも、だいずき、でずぅ」

最後は堪えきれずに泣きながらそう言う。

母上様は最後に額にキスをしてくれた。

そしてジオルドが馬を走らせる。

母上様は泣きながら、私が大好きな笑顔で見送ってくれた。



こうして私の故郷、ルーベンス国は滅んだ。

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