5話
母上様と王の間に戻ると父上様、大兄上様、ロー姉上様、小兄上様、総隊長が難しい顔をしながら話し合っていた。
「ジュリアから緊急事態だと伺いましたがどうされました?」
母上様が声をかけたことでようやくこちらの存在に気づいたようで、みんなが驚いた顔をした。
「敵軍の目的がわかった」
父上様が言いにくそうにしながらも教えてくれる。
「何が目的だったのですか?」
「ジュリアだ」
「…え?」
「正確にはジュリアと我が国の魔法研究の成果だ」
母上様が聞き返した内容を父上様が詳しく教えてくれた。
その瞬間、母上様は目を閉じ、繋いでいた手をぎゅっと強く握ってきた。
私は繋いだ手はそのままに母上様に抱きついた。
すると母上様は手をほどき、私を抱き上げてきつく抱き締めてきた。
ちょっと苦しかったけど、母上様の次の言葉で固まった。
「魔法研究の成果ということはレイラも狙われているのですか?」
確かに前世を思い出してから魔法の便利グッズなどを作ったり、研究員と研究したりしていたが、私も狙われているとは思ってもおらず、びっくりした。
私の側仕え3人の顔にも緊張が見える。
「いや、魔法研究にレイラが参加していたことは研究員と王族の関係者しか知らない。極秘事項の1つだ。内通していたとされる公爵は知らないはずだ。だからレイラは大丈夫だ」
と、母上様の肩に手を置き、私の頭を撫でながら父上様が言った。
それに少し安心し力を抜く。
「だが、ジュリアのことは問題だ」
そうだ。私は大丈夫でも姉上様は標的にされている。
「なぜあねうえさまをねらっているのでしょうか?」
私の素朴な疑問に、いつも通りの優しい微笑みで大兄上様が教えてくれた。
「ジュリアは魔族の中でもけっこうな美人だし、光魔法のスペシャリストだからね。レイラの周りには光魔法を使える人は多いけど、魔族全体から見るととても少ないんだ。各国に1~2人光魔法が使えるかなぁって割合なんだよ。だから光魔法の研究は他の属性に比べてとても少ないんだ。そんな光魔法だけど、うちの王族はなぜか全員使える。血が繋がってなくても王族の関係者になったらその人も使えるようになるんだ。だからフローラも使えるし、母上も使える」
思わずロー姉上様を見るとコクンと頷いてくれた。
「ジュリアは最初から使えるからか母上やフローラよりも、最初から使える父上や僕よりも強力な光魔法が使える。恐らく世界で3番の指に入るほどの使い手だ。だから狙われているんだろうね」
「王族は5歳から光魔法の訓練を行うんだ。だからレイラがまだ使えなくて当たり前なんだよ」
王族なのに使えない私って…とちょっと思っていると、大兄上様の説明の補足を小兄上様がしてくれた。
安心した。
でも、そうすると疑問が出てくる。
「ではなぜてきぐんはすぐにせめいってこないのでしょうか?」
「どういう意味だ?」
父上様に問われたので根拠とともに答える。
「ひかりまほうのけんきゅうがすすんでいないのはどこもおなじということですが、そのぶんひかりまほうのつかわれているしゅるいもすくないですよね?いまあねうえさまがつかっているまほうはきょうかすることもできないはずです。ちがいますか?」
と問えば是の答えが帰ってくる。
「ではなぜほかのぞくせいのまほうをつかってこうげきしてこないのですか?とくにやみまほうはひかりまほうのはんたいぞくせいです。けっかいをこうげきすればじゅつしのたいりょくのしょうもうもはやくなり、けっかいをじぞくすることができなくなります。なのにてきぐんはけっかいをこうげきしていません。なぜでしょうか?」
と問いかけるとみんな驚いた顔をして私を見る。
「確かに結界を張られた場合は結界を攻撃して速く術が解けるように体力を消耗させる。なぜそれをしていないんだ?」
と小兄上様も疑問に思ったようだ。
みんなが考えていると
「何かを待っていてその時間稼ぎ、かな?」
と大兄上様が言った。
「もし私が敵軍の指揮官だったら、1500の軍隊での進軍は不安だ。だから援軍を待っているのではないかと思う」
「そうなると厄介ですな。今の情況だけでも緊迫しておりますがこれ以上の軍隊となると…」
「こちらも援軍なしではキツいな」
総隊長が言った後に父上様が肯定する。
深刻な事態に再度援軍の要請をランファ国に行うように指示し、父上様と小兄上様、総隊長が周りに言いくるめられ休息のために仮眠室に向かった。
「レイラ、お父様のところに行ってお昼寝してらっしゃい。今日の夜はゆっくり休めないかもしれませんから」
父上様を見送っていると母上様にそう言われ、母上様の腕の中からジオルドの方に移った。
父上様tに許可をもらうため先にシャナリーゼが仮眠室に向かう。
母上様と離れがたかったが、幼い体は体力が少ない。お言葉に甘えて休みに行こう。
「ありがとうございます。きゅうそくをいただきます」
挨拶をし、仮眠室に向かう。
仮眠室に入ると父上様が待っていた。
ルイに寝支度をしてもらうと、父上様に抱き上げられて一緒にベッドに入る。
「疲れたな。レイラは大丈夫か?」
「すこしつかれましたちちうえさまこそだいじょうぶですか?」
「大丈夫…と言いたいところだが、私の代でこんなことになるとは思わなかった。私の危機管理の甘さが原因だろう。…とても悔しい」
父上様が珍しく、いや私の前では初めて弱音を吐く。
「ちちうえさま」
私はなんて声をかけたら良いのかわからなかった。
そんな私に気づいた父上様は苦笑し、
「すまない。もう休もうか。次にいつ休めるかわからないからな」
と言って目を閉じたので、私も目を閉じた。
目を覚ましたのは夕方の6時くらいだった。
あと30分程で結界が張れなくなる時間帯になろうとしている。
慌ててルイに支度をしてもらい、王の間に向かう。
王の間には当然ながら主要メンバーが全員いた。
「おそくなりました」
そう言って母上様と大兄上様の間に行く。
「ゆっくりできた?」
母上様に抱き上げられているときに大兄上様に言われた。
「はい。ゆっくりしすぎねぼうしてしまいました」
と恥ずかしがりながら答えるが、みんな笑って許してくれた。
「今決まったことを確認ついでに説明しよう」
父上様の言葉に全員が真剣に耳を傾ける。
ここで決まったことが運命の分かれ道になるなんて、思っていなかった。