4話
結局説得出来ないと判断され、ロー姉上様も城下に行くことになった。
王の間を出ていく前に怯えている私と姉上様のもとに来て、励ましてくれた。
「2人とも、大丈夫だよ。すぐに帰ってくるから。そんな泣きそうな顔しないで」
「そうですよ。私もオルディン様もすぐに帰って来ます。だから心配しないで」
と言い、抱き締めてくれた。
そしてそれぞれの側仕えと共に、王の間から出ていった。
緊急事態のため、普段は閉まっている王の間の扉は開きっぱなしになっており、2人の後ろ姿が見えなくなるまでずっと見つめていた。
「父上、僕も城下に行きます。西の城門付近の逃げ遅れた人々の避難に手を貸しに行きます」
と言うと、引き留める間もなく小兄上様も出ていった。
「ゼオンめ、総隊長ゼオンと共に行ってくれ。ここよりも前線の方が情況はわかる。民の避難を最優先に動いてくれ」
と父上様は指示し、小兄上様を追いかけるように総隊長も出ていった。
最初に報告があったのが20時頃。今はだいたい23時近くになる。
4歳児の私はいつもならとっくに寝ている時間帯だ。
それに今日は結婚式だったため体力の限界が近い。
それにいち早く気づいたのは私の側仕え3人だった。
「陛下、隣の小部屋に仮眠室を作りましたので、レイラ様を休ませて頂いても宜しいでしょうか?」
ジオルドの言葉に父上様が私を見て、すぐに了承した。
シャナリーゼに抱き上げられて、仮眠室に入って寝る準備をしていると母上様も入室してきた。
「私も一緒に休ませてくださいな。」
「ははうえさま、いいのですか?」
「陛下と交替で休む事にしましたの。ですから一緒に休みましょう」
私が恐がらないように、微笑みながら言った。
そうして私は母上様に抱きつきながら眠りについた。
目が覚めたとき、母上様はもういなかった。
「おはようございます、レイラ様。もう起きられますか?」
シャナリーゼが声をかけてくれる。
「もうおきます。みんなはやすめたのですか?じょうきょうはどうなっていますか?」
「レイラ様がお休みの間に交替で休みましたので、ご心配なく」
「戦況は現在落ち着いています。光魔法がお得意な王妃様が太陽の力を利用し結界を張ってくださいました。それにより敵軍は西の城門付近より内深部に進軍出来なくなっております。」
私の質問にシャナリーゼとジオルドが答えてくれる。
話を聞いている間にルイが身支度を行ってくれている。
見事な連係プレーだ。
「ではいまはりょうぐんともきゅうそくちゅうなのね。けっかいはいつまでもつのですか?」
「太陽が出ている間は大丈夫とのことです。王妃様御一人で術を使い続けるのは大変なので、同じく光魔法がお得意なフローラ様とジュリア様と交替で結界を張ってくださるとのことです。」
「別室にも仮眠室を作り、現在そこで王太子ご夫妻、ジュリア様がお休みになられています。皆様が起きられた後に陛下とゼオン様がお休みになられるご予定です。」
「おおあにうえさまがたはごぶじなのですか?」
「皆様、かすり傷程度で問題ないということですよ」
シャナリーゼの言葉に安心して、王の間に行く。
そこには寝る前と同じく難しい顔をした父上様と騎士総隊長と小兄上様が話し合いを行っていた。
挨拶して良いのか迷っていると顔をあげた父上様と目が合った。
「おはよう、レイラ。ゆっくりできたか?」
と話しかけてくれながら私の方に歩いてくる。
「おはようございます、ちちうえさま、みなさま。やすませていただいて…うきゃぁ」
私が挨拶と休ませてっもらった感謝を言っている途中で父上様に抱き上げられた。…驚いて変な声が出てしまった。
父上様は私を抱き上げてから固まってしまっている。
「ちちうえさま、だいじょうぶですか?」
心配になり声をかけると
「癒される~」
と小さい声が聞こえた。
普段の父上様からは想像できない言葉に思わず聞き返してみると
「大丈夫だ。ちょっと疲れただけだ」
といつもの父上様に戻り、そう言った。
聞き間違えたのだと判断し、気にしなかった。
それからしばらく父上様に抱っこされ続けた。
用意された朝食も父上様の膝の上で食べた。
父上様が離してくれなかったのだ。
朝食後、母上様が気になったので母上様の居場所を聞き、そこに向かう段階で解放された。
1時間は抱っこされてたと思う。
余計に疲れたのではないかとちょっと心配だ。
教えてもらった場所に行くと術を発動している母上様がいた。
母上様を光が包み込んでいて、緊迫した情況を忘れることができるくらい綺麗で見惚れた。
術中は集中力が途切れると危険なので、静かに母上様を見守っていた。
その間にジオルドに戦況を詳しく確認する。
前世の知識を利用して魔法道具の開発をしているからか、精神の発達が早いとか、天才だとか色々言われている。
言われるたびに申し訳ないような騙しているような複雑な気持ちになる。
まぁそのおかげで、4歳児にあるまじき行動や言動をしても大丈夫だという利点もあるのだが。
「てきぐんのそうしきかんはだれですか?」
「バーレンシア国の国王、エディール・バレアだということです」
「わがくににせめいったもくてきはわかっているのですか?わざわざこくおうがみずからしきをしているのです。それそうおうのもくてきがあるはずでは?それと、てきぐんのかずははあくできたのですか?」
「目的は未だ不明です。あちらからの要求もまだありません。現在第2騎士団が情報収集中です。また、数は西の城門にいる1500人程です」
「たったの1500にん?すくないですね。どこかにかくれているのでしょうか?」
「わかりません。今までのバーレンシア国の進軍の際、必ず4000人以上の軍隊での進軍でした。隠れている可能性を視野に入れ、そちらも調査中です」
「えんぐんはどうなっていますか?」
「王太子妃様のご実家であるランファ国をはじめ、近隣の友好国に援軍の要請を行いましたが、まだどの国からも返答がありません」
「ランファこくからもですか?けっこんしきにはランファこくのおうたいしでんかもいらしてましたよね?」
「はい。そして攻撃されてすぐに来賓の皆様とともに東の城門から脱出されています」
「それなのにへんとうがないなんて…。おじさまにしてはへんですよね?」
「はい。ランファ国についても現在確認中です」
ランファ国の王族の方々とは家族ぐるみで仲が良く、末っ子の私に全員が甘い。その中でも国王夫妻はおじ様、おば様と呼んでほしいと言われてそう呼んでいる。
最初はパパ、ママって呼んでと言われたが、父上様のもう反対により譲歩したということだ。
我がルーベンス国とランファ国は昔から助け合っている。
戦争になっても1日で援軍を送り合ったこともあるぐらいだ。
それなのに返答もまだなんて、おかしい。
様々なことを考えていると、姉上様が部屋に入ってこられた。
私を一瞥した後、すぐに母上様と術の発動を交代する準備を始める。
「母上様、緊急事態です。ここは私が代わりますので至急王の間にお向かいください」
母上様は眼を開け、術を解いて姉上様と交代した。
「レイラも一緒に王の間に行きましょう」
疲れているはずなのにそんなそぶりを見せず私に声をかける。
すぐに母上様のもとに行き、手を繋いで王の間に向かう。
私は地球でいうお母さんっ子だ。
前世で両親と早くに死に別れたからか、親がいるということがとても幸せで、とりわけ母親が近くにいるだけで安心する存在だとは知らなかった。
そのため、起きている間で母上様に仕事がないときはだいたい一緒にいる。
今回の事は子供の身体だからか周囲の雰囲気を敏感に感じ取っているからか母上様が忙しくても離れたくないのだ。
なるべく一緒にいたいという本能はこれからの事を感じ取っていたからかもしれない。