3話
それは突然起こった。
大兄上様とロー姉上様の結婚式当日。
前日の夜、当事者である2人は朝早くから予定がつまっているため珍しく父上様と母上様と3人で一緒に寝た。
朝、母上様に起こされて、一緒に身支度を行う。
私付きの女官シャナリーゼが身なりを整えてくれる。
今日は全員がそれぞれの紋章色のドレスを身に纏う。
魔族の結婚式は禁色とかはなく、主役は好きな色の服をペアで着る。
そして招待状に何色を身に纏うか書いておき、招待客はその色にならないように服装を選ぶ。
誰だって主役と同じ色の服を着て悪目立ちはしたくないしね。
あと、神に誓ったりというのもない。魔族だし。
国王に夫婦の宣誓を行った後は披露宴だ。
規模は国中の貴族、隣国、友好国、同盟国の代表者など、2000人近くが参加しており、城下の広場には民が押し寄せ、お祭り騒ぎだ。
はっきりいってこんなに多くの人が集まるとは思ってなかった。
でも私以外は知っていたみたいなので、幼いからと情報が来なかったようだ。
「わたしもはやくりっぱなおうぞくとしてみとめられたいです。」
小さく独り言を言ったつもりが、シャナリーゼには聞こえていたみたいで
「レイラ様はご立派ですわ。魔法道具の開発は素晴らしいですし、幼くとも十分役目を果たされようと日々努力されていますもの。」
と、励ましてくれた。
ルーベンス国の王族は代々、側仕えの人数は少数だ。
王、王妃、王太子、王太子妃の4人のみ女官2人、執事1人、侍従か侍女2人の5人。(王と王太子は侍従、王妃と王太子妃は侍女)
それ以外の王子、王女は女官、執事、侍女それぞれ1人ずつの3人が専属としてついている。
そのため王族の側仕えは護衛も兼ねるしと、1人3役ぐらいは余裕でこなすほど優秀だ。
私の側仕えはシャナリーゼの他に執事のジオルド、侍女のルイの2人がいる。
3人とも常に私と一緒に居てくれて、私のことを1番に考えても行動してくれている。
とても頼りになる私の家族同然の人達だ。
披露宴も中盤に差し掛かり大人はお酒が回り始めた20時頃、それは起こった。
ヨレヨレになり、倒れ混むようにして会場に入ってきた騎士が
「宴席の中、大変、申し訳、ございません。緊急、事、態です。敵国バーレンシアが、我が、国に、攻め入りました。皆様、お逃げください!」
と息も絶え絶えになりながら言った。
喜楽の席から雰囲気が一変した。
笑い声から悲鳴や怒号しか聞こえなくなった。
私は王族の席で母上様に半泣きになりながら抱きついた。
「情報を集めてくれ。その間に各自動きやすいものに着替えて王の間に集合だ。」
父上様の冷静な声が聞こえた。
父上様の指示により、その場にいた全員が動く。
私は母上様からジオルドの腕の中に移動し、抱っこされながら猛スピードで自室に戻った。
既にシャナリーゼとルイが着替えを用意してくれていた。
ドレスから動きやすいパンツスタイルにかわり、ブルームーンストーンの収納ネックレスを身に付けた。
再びジオルドに抱っこされ、私と側仕えの4人で急いで王の間に向かった。
服についてだが、我がルーベンス国を含めた魔族の国は大抵が地球の西洋風の服装で、鬼族や妖孤族などは東洋風、龍族や人魚族の人形はアラビアン風、人族は現代風、エルフ族は古代ローマ風の服装が主流となっている。
なので、今の私の服装は乗馬とかで着るようなパンツスタイルということだ。
王の間には既に父上様、母上様、大兄上様、ロー姉上様、小兄上様、叔父上様、騎士団総隊長、など国の主要メンバーが集まっていた。
「既に周辺の町は墜とされ、残すはこの城下町のみとなっています」
「○○公爵がバーレンシアと内通し、情報操作を行ったため首都に情報が来なかったようです」
「西の城門付近は戦場になっています」
「来賓の皆様は東の城門から既に自国に無事出立されました」
「バーレンシア軍は魔物を城下町に放とうとしているみたいです」
など、情報が行き交っていた。
私のすぐあとに姉上様が王の間に到着し、姉上様の側仕えも合わせて8人で邪魔にならないように王の間の端の方による。
「せっかくのお祝いの日が台無しね」
「あねうえさま」
「大丈夫よ、レイラ。私達の国の者はみんな強いもの。だから大丈夫よ」
姉上様は私に言っているようで、自分に言い聞かせているようだった。
「父上、私は行きます」
大兄上様が言った。
「今魔物を放たれたら、今以上に城下は混乱します。私と第1騎士団は魔物討伐と西の城門に敵軍を留めておきます。その間に東の城門から民達を逃がしてください」
「…わかった。無理はするなよ」
「はい」
大兄上様の提案に父上様は少し考えたあと許可を出した。
「では私も参ります」
それまで大兄上様の隣で静かに立っていたロー姉上様が言った。
周りが止めようと声をかける前に
「私は光魔法が得意です。城下で怪我をして動けない者の治療や東の城門への誘導ぐらいなら出来ます。私はルーベンス国の王太子妃です。夫と共に戦います」
そう啖呵を切った。
その時のロー姉上様は今まで見たなかで一番綺麗だった。