17話
私とライゼンとタマキと穏やかに話をしていたら、いきなりカガリの怒声が聞こえた。
日よけテントの方を見るとルイが倒れ、周りに食べ物が散乱している。
どうやら昼食を持っていったルイを押し倒したらしいカガリが、立って上からルイに土星を浴びせている。
「親切なふりして、何をたくらんでるの!?食事の中に毒でもいれてるんでしょう!?私は騙されないわよ!私とソウマに近寄らないで!」
とヒステリックに叫んでいる。
ソウマはルイに謝り起こしながら、カガリを必死になだめている。
「カガリ、落ち着け。この人たちはそんなことしないよ」
「騙されちゃだめよ、ソウマ!この魔族達は私達と無理矢理契約してこきつかおうとしてるに決まってるわ!ソウマは私が守るから、安心してね」
と、思い込みが激しすぎてソウマの話しすら聞いていない。
私達魔族はどれだけ危険かを自分の思い込みも含めてソウマに話す。
ルイはジオルドと共に散乱した昼食を片付けている。
ルイが日よけテントから離れると、ジオルドが我慢の限界といった感じで口を開く。
「そんなに魔族が嫌いなら、さっさとこの結界から出ていってくれませんか?ここは私達が確保した安全地帯です。魔物から助けてやり、結界の中に入れて差し上げただけでなく、限りがある貴重な食料を分けてやろうとしたら、ぶちまけて、挙げ句の果てにルイに暴言を吐く。恩知らずで礼儀知らずな貴女にこれ以上何かしてやるつもりはありません。さっさと出ていけ」
と、敬語と敬語なしと混合してそう言った。
静かに微笑んでそう言うジオルドの後ろには気のせいだと思うが黒いものが見える。
可哀想にソウマはカガリの隣にいたせいでジオルドの顔を真っ正面から見て、真っ青になっている。
ジオルドの激怒を初めて見たレフィーリア、ライゼン、タマキは絶対にジオルドは怒らせないとこの時誓ったと後日聞くことになる。
「本性を見せたわね!やっぱり何かしようとしていたんでしょう!ここにいると危険だわ!ソウマ、行くわよ!」
と言って自分の荷物を持ちさっさと結界の外に出ていく。
ソウマも自分の荷物を持ち
「助けていただいてありがとうございました。カガリがご迷惑をおかけして申し訳ありません‼」
とお辞儀をしてカガリを追って出ていこうとするが、
「これをお持ちください。余った結界石です。ルミエール様が出ていくときは持っていってもらうようにと言うことですので、気にせずお持ちください」
とシャナリーゼが結界石の入った袋を渡す。
再度御礼を言い、今度こそ出ていった。
私は2人を連れ戻そうとタマキに下ろしてもらうよう言ったが
「貴女様があの者に関わる必要はありませんわ。4人で行動していたときも、勝手な思い込みで私達にいろいろなことを言ってきましたもの。先程も勝手に大声で喚き散らすから魔物が来たのです。私の堪忍袋の緒が切れそうですわ」
「タマキの言う通りだ。ソウマには悪いが、カガリがこの危険な森でどうなろうと知ったこっちゃない」
と2人ともかなり鬱憤が貯まっていたようで、2人が出ていった方角を冷たい目で見ている。
「ですがあれではソウマにたいへんです」
「そうですが、ソウマが決めたことです。とりあえず私はあの女が結界に入れないように結界魔法を修正します」
と、いつの間にか近くにいたジオルドがそう言って離れていく。
私達は驚いて心臓が飛び上がった。
落ち着いてから、ライゼンとタマキは日よけテントで昼食を取り始めた。
ルイとシャナリーゼは今日の夜のバーベキューの用意をしており、ジオルドは結界の修正。
私はレフィーリアと共に日よけテントの中でお茶をしながら2人と話をすることにした。
「2人は夫婦になってどれくらい経つんだ?」
「そうだな、もう200年は経ってるんじゃないか?」
「そうですね。それくらいです」
「では200ねんずっとこのもりにいたのですか?」
「いいえ、各地を転々としていました。この森に来たのは6日前です」
「最初の3日は2人だけで、残りはあの2人も一緒にこの森を移動していた。安全な場所もあったんだが、カガリが喚いて魔物が寄ってきてと2人の時よりも4人の時の方が大変だった」
とため息をついてライゼンの言う。
「レフィーリアは魔族ではありませんよね?どなたかと契約しているのですか?」
「私は龍族だよ。主はルミエール様だ」
「はい、わたしです」
と私を指すレフィーリアに手を挙げて答える。
すると2人は驚いたような、納得したような表情をみせる。
その時シャナリーゼが私を呼んだので、3人に断って日よけテントを出る。
「ルミエール様、あの2人についてですがどう思われますか?」
とシャナリーゼに問われる。
「あやういとかんじました。カガリはぼうそうしかけています。ぼうそうするとソウマがきけんです。あとソウマはカガリからこころがはなれているようにおもいます。ただひとりにしてはいけないというぎむかんのようにかんじました。さいごにおれいをいわれたとき、ここをはなれたくないとめがうったえていたようにもおもうのです。だから」
「気になるということですね?実は結界石の袋に危険察知の魔法がかけてあります。何かあればわかりますし、袋の中に使い方の説明書も入れてあります。だからご安心ください」
とシャナリーゼが私を抱き上げ、落ち着くように促す。
私は安心して力を抜き、2人の行く末が良いものであるように祈る。
そのまま私はシャナリーゼとテントに入り、ジオルドの建築魔法の本を借りて、どのような家を建てるかを相談する。
時間はあっという間に過ぎており、気づくと話し合ってから3時間経過していた。
私とシャナリーゼはテントから出て夕食の準備を始める。
今日は早くに夕食を食べ、みんなで夕日を見に行くことになっている。
ライゼンとタマキも誘おうと思っていると、2人が真剣な顔で話しかけてきた
「どうか私達とも契約して頂けませんか?」
「レフィーリアから話を聞いたし、俺達は嬢ちゃんが気に入った。それに嬢ちゃんは俺達を引き離すことはないだろう?」
タマキは真剣に、ライゼンは冗談混じりにそう言う。
私はいきなりのことに思考が止まってしまった。