表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/50

第四章 あなたを、忘れない(8)

 シェリーとアンジェラの激しい戦いは、その間もずっと続いていた。

 攻守がめまぐるしく入れ替わる。

 シェリーは、ただ戦うことだけに意識を集中させた。

 妹弟子は、「私だけを見て欲しい」と望んでいる。

 おかしな話だが、彼女の目的はシェリーを殺すことではないのだ。

 だから恐らく、これまでのようにマナやココに意識を向ければ、また彼女は戦いを止め、逃げ出してしまうだろう。

 それでは意味が無い。

 同じことの繰り返しだ。


(今、ここで決着をつける!)


 この場でアンジェラを殺す。

 悲しいが、それが『蒼血燕』の暴走を止めるただ一つの方法なのだ。

 そしてそれは、シェリー自らがやらなければならない。

 それが、かつて彼女を誰よりも深く愛した姉弟子としての務めなのだ。


 だが、やはりそう簡単に倒せるような相手ではなかった。

 風の如き速さの連撃にも、アンジェラは対応を誤ることがない。

 内功を込めた力強い一撃を浴びせようとすると、一瞬の隙を突いて攻勢に転じてくる。


(このままでは消耗戦になる)


 こうなれば、あとは体力・精神力の勝負だ。

 それで後れをとるとは思っていなかった。

 だが、狂ったような表情を浮かべながらも、アンジェラの呼吸は乱れない。

 アンジェラが大きく後方に跳んだ。

 刀を持たない左手の指先が光る。


(飛び道具か!)


 瞬時に察したシェリーが真横に跳躍する。

 こめかみのすぐ横を、銀色の鈍い輝きが飛んでいった。

 おそらくは細身の手裏剣だ。毒でも塗らない限りは致命傷にならない。

 だが、当たり所が悪ければ、続く攻撃で命を落とすだろう。


(全てを使えってことね!)


 刀術の技には、体術も投擲術も含まれている。

 共に師母の下で修練したその術・技を全て出し尽くして戦え、とアンジェラは暗に言っているのだ。


 シェリーが後方に跳びながら、懐に隠しておいた手裏剣を放つ。

 アンジェラがにやりと笑い、首をわずかに傾けるだけで易々とかわした。

 しばしの間、距離を空けた二人がお互いに飛び道具を投げ合う。

 夜間の戦いで、高速で迫る手裏剣を回避することは容易ではない。

 だが、二人は常にぎりぎりの所で避けていた。

 動きを止めれば刺さってしまうので、どちらも足を止めようとしない。

 その攻防の途中で、アンジェラが不意に間合いを詰めてきた。


(使い果たしたか!?)


 あるいはこのままでは埒が明かないと看て、接近戦での決着を図ったのか。

 手裏剣もわずかながら残っていたが、シェリーも刀を構えて迎え撃った。


 アンジェラは刀を下段に構え、左の脇を締めて掌をシェリーに向けている。

 その構えを見て、シェリーは彼女の狙いを察知した。

 肉体の深奥に眠る全ての内功を掌に込め、それを叩きつけるつもりなのだ。

 まともに受けてしまったら、内部から身体を破壊されてしまうだろう。

 だが、同時にそれは危険な賭けでもあった。

 内功を全て解き放ってしまうことは、自身の命を削るに等しい。


(ここで決着をつけるしかない……!)


 アンジェラが猛然と迫ってくる。

 あとわずかで刀の間合いに入るというところまで待った。

 息を大きく吐き、身中の内功を高める。

 そしてアンジェラと同じように、左の掌に内功を集中させた。

 アンジェラが低く跳躍し、間合いに飛び込んできた。

 予想通り、刀はあくまでも見せかけだ。

 裂帛の気合と共に掌を突き出してくる。

 内功を限界まで込めた一撃――全てを懸けた攻撃だった。


 シェリーは一瞬だけ、目を閉じた。


(……マナ、ココ! 私に力を貸して!)


 目に入れても痛くないほど可愛がってきた、かけがえのない愛弟子の顔を思い浮かべた。

 二人のためにも、絶対に負けられない。

 全身に力が漲ってくるのを感じた。


(来なさい、アンジェラ!)


 シェリーは一歩踏み込んだ。

 身内から沸きあがる内功を全て乗せ、掌を真っ直ぐに突き出して応戦する。

 踏み込んだ地面が、ドスンと重々しい音を立てた。

 掌と掌が、正面からぶつかり合った。

 掌を通して、お互いの放った内功が交錯する。

 腕を伝い、全身を一瞬の内に強い力が駆け抜けていった。

 その衝撃に、二人の身体がそれぞれ後方に飛ばされた。


 シェリーは何とか着地しようとしたが、無理だった。

 かろうじて顎を引いて受身を取り、芝生を転がる。

 すぐに起き上がって戦闘態勢をとろうとした。

 だが、刀を離さずに片膝をつくまでが精一杯だった。

 全身がびりびりと痺れていた。呼吸が荒い。

 大量の汗が身体中から噴き出てくる。

 全身の血脈がめちゃめちゃになっていた。

 血の混ざった胃液が喉までこみあげてくる。

 彼女ほどの達人でなければ、即死していただろう。


 一方のアンジェラは、まともに背中から落ちていた。

 大の字に倒れたまま、四肢がびくりびくりと小刻みに痙攣している。

 そこからどうにか起き上がろうと試みたが、足が全く言うことをきかない。

 全身を走る、ズタズタに切り刻まれたような痛み。

 血泡を吐きながらのた打ち回った。

 血が喉に詰まり、呼吸が困難になる。

 蒼白になった顔には、生気がまるで残っていなかった。


(続く)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ