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第二章 帝都の三人(11)

 その翌日。

 これまでと変わらず、シェリーはココと共にマナを学校まで送った。

 その後は、特に行くあてもないので、一旦騎士の屋敷に戻るつもりだった。


「……師母様?」


 屋敷に向かう通りの途中で、シェリーが急に足を止めた。

 腰に差した刀の柄に手をかける。

 周囲を何者かに取り囲まれていた。

 人影は見えていないが、ただならぬ気配を漂わせた者が、四、五人。

 いつの間にか、通りを行き交う人が絶えている。


「出てきなさい」


 落ち着いた声で語りかける。

 逃げるつもりは毛頭なかった。


「失礼しました」


 物陰から姿を見せたのは、元締の側近だった。

 背が高く頬は痩せこけていて、どことなく陰気な印象を与える男だ。

 一本気で明るい元締とは正反対のような男だが、かえって彼のような人物が補佐するのが向いているのかもしれない。


「あら、何の用かしら?」


 シェリーが柄から手を離し、笑顔で尋ねる。

 男は抑揚の乏しい口調で、


「元締がお呼びです。申し訳ありませんが、屋敷までお越しいただきたいもので」


 淡々と答えた。

 シェリーたちを取り囲むように、若い衆が三人現れる。

 彼らは一分の隙もない構えで辺りに注意を向けていた。


「……わかったわ。ココ、大丈夫よ」


 断る理由もないし、側近の態度から断ることもできなそうな状況だった。

 かすかに震えるココの手をそっと握る。


 用意された馬車に乗り、元締の縄張りである北東区に向かった。

 馬車の中で側近から聴いた話では、シェリーに伝えたい情報があるのだという。


(それだけでも無さそうだけどね)


 こうなれば俎板の上の鯉、なるようになれという気持ちだった。

 もちろん、愛弟子二人だけは何があっても守り抜く、という決意だけは変わらない。


 教会の正午の鐘が帝都中に鳴り響いた頃、元締の屋敷に到着した。

 アディンセル卿の屋敷と比べると庭の花々の配置など、若干洒落た造りになっている。

 元締の趣味とはとても思えないので、おそらくは奥方の意向であろう。

 客間に通されると、ソファで元締が寛いでいた。

 ソファの革の光沢が高級品であることを物語っている。

 家具調度類も華美ではないが、落ち着いた気品を漂わせていた。


「ああ、すいません姐さん。本当なら、俺から出向かなくちゃいけないとこなんですが」


 元締が立ち上がり会釈する。


「とんでもない。だいたい、抗争中に元締がうかうか外に出るものじゃないわ」


「はは、昔なら、いの一番に飛び出して暴れまわってるところですがね。今の俺がそんなことをしたら、若い衆が無駄死にしちまうことになる」


 元締が苦笑し、再びソファに身体を沈めた。

 シェリーもココと共に向かいのソファに座り、柔らかいクッションに身を委ねる。


「さっそくですがね、どうにも困ったことが起きまして」


 元締の目つきが変わった。

 その瞳の奥に怒りが炎となって渦巻いている。


「……うちの若い者が昨日、三人殺られました」


 シェリーは目を閉じ、悔みの言葉を述べた。

 元締が小さく首を振り、


「縄張りの巡回を、普段は二人組でやらせていたんですがね。今はご存知の通りなので四人一組で回らせていたんですよ。だが……」


 元締は一旦そこで言葉を切り、大きくため息をついてから続けた。


「たった一人の殺し屋に、あっという間に三人が斬られました。一人は何とか逃げ切れたんですがね、そいつの話ではその殺し屋は……姐さん、貴女と同じ白金の髪の……妖かしの民だったそうです」


「何ですって!?」


 シェリーの顔が青ざめた。

 大陸に数ある人種の中でも、妖かしの民は圧倒的少数派だ。

 人口百万を超える帝都でも、見かけることは本当に稀である。


「しかもね、姐さん。そいつは……そいつは、姐さんと同じ刀を使っていたそうです」


「まさか!?」


 あまりに意外すぎる言葉に、シェリーは思わず立ち上がってしまった。

 傍らに控えていた護衛たちが、一斉に元締をかばうように身構える。

 元締が護衛を手で制し、シェリーも静かに座り直した。


「……もちろん、姐さんがそんなことをするわけもねえ。ですがね、もしかしたら……。そう、姐さんもよくご存知のはずの『蒼血燕』の仕業なんじゃねえか、と思いましてね」


「……彼女は死んだわ。飛燕幻舞流刀術は、確かに私たち妖かしの民に伝えられた武術。でも、彼女以外にも使い手は大勢いるわよ……」


 元締の探るような視線に対し、淡々とした口調で否定したシェリーだったが、その言葉は微かに震えていた。


 かつて蒼血燕と呼ばれ、暗黒街でその名を轟かせた冷酷無情な殺し屋――。

 妹弟子、アンジェラは死んだ。

 いや、


(私が殺した……)


 シェリーは拳を固く握り締めた。

 傍らのココが心配そうな目で見つめていたが、それに気づく余裕は今の彼女に無かった。


(続く)

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