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私と兄弟の乙女ゲーの世界

今となっては昔のことだけど…

作者: 小林晴幸

こちら短編「私と兄と乙女ゲーの世界」に出てくる弟君視点となります。

何となく訳が分からないという方、ごめんなさい。


乙女ゲーと言いつつ、その内容はさっぱり出てきません。

何となくブラコン、シスコンっぽい感じです。


それでも大丈夫って方、よろしくお願いします。


 今となっては昔のことだけど、僕には顔と頭は良いけど人間性に問題のある兄と、そんな兄を素直に崇h…尊敬するゲーム好きの姉がいた。

 二人とも僕を生意気だと言いつつ、末っ子として僕を可愛がってくれていた。


 とても、仲の良い二人だった。


 休日もよく一緒に過ごしていたし、そんな時は必ず僕も誘ってくれた。

 僕がそれに参加するのは三回から五回に一回程度だったけど、一緒に遊ぶのは嫌いじゃなかった。二人は僕にはない発想をするから、側にいると知らない世界が見えたから。

 …見えすぎて、偶に変な世界に片足を突っ込みそうになったけど。

 中学生になってから、僕は照れくさくて捻くれた態度ばかり取っていたけど…

 僕がどんなに生意気な態度を取っても、二人は笑って許してくれた。

 怒ることもあったけど、じゃれる様な喧嘩がいつだって精々で。

 うん。好きだった。好きだったよ、二人のこと。


 本当に、仲の良い二人だったんだ。

 でも、仲が良すぎて、死ぬ時まで一緒なんて…

 僕が同行を断った時に限って、二人で死んじゃうなんて……

 一人だけ置いてけぼりにされた僕は、一体どうすれば良いんだよ………



 ある時、兄と姉は二人揃って何故か変なゲームに嵌り込んでいた。

 乙女ゲーム?っていうらしい。擬似恋愛をゲームで楽しむって、虚しくないのかな。

 女向けのゲームに姉がはまるのは未だ良いよ。

 だけどなんで兄がはまるんだよ。

 しかもよくよく観察してみると、本当にはまっているのは兄の方らしい。

 おい、兄貴。アンタに一体何があった。

 変な人間だと思ってたけど、そこまでだったの?

 姉は姉で、乙女ゲームじゃなくて、乙女ゲームをする兄にはまっていると豪語するし。

「だって凄い一喜一憂するんだよ! 見たこともないいい顔するんだよ!?」

 …じゃ、ないよ。

 姉はどうやらゲームの内容よりも、ゲーム画面を食い入る様に見つつ豊かな表情を見せる兄の方が重要らしい。実際、何度か見かけた姿はゲームの前で兄を凝視するというモノ。

 アンタ等、ちょっと正気に戻れ。

 姉の気持ちも、まあ、分からなくはないけど。

 いつもは整った顔でも表情に乏しい兄さんが、あんなにキラキラ輝いて。

 正直、ちょっとだけ…いや、結構眩しかった。

 やってることは、アレなんだけどさ…

 盛大に呆れを感じたので、ちょっと見下す目で蔑んでみた。

 …翌々日、兄さんと姉さんの協力合わせ技で悪戯を仕掛けられた。

 頼むから…寝てる間に、拉致とか止めてください。

 そんで女装させて記念撮影とか止めてください。二人揃って何やってんの。


 二人揃ってこっちがドン引きするくらい、ゲームに熱中していた二人。

 何を重要視してプレイするかは、二人で違ってたけどさ。

 食事中も話題は攻略に関する考察ばっかり。

 あのさ。

 ゲームするのは良いし、夢中になれるモノがあるのも良いと思うよ?

 でも、それを他の時間にまで侵蝕させないでよ。

 休日だって、良い天気なのに二人でテレビにかじりついてさ。

 前は、こんな日はウザイくらいに一緒に遊べーってまとわりついてきたのに。

 二人で、二人にしか分からない話なんてしないでよ。

 僕達、兄弟だよ。

 それなのに、なんでこんな疎外感なんて、家の中で感じないといけないのさ。

 僕を放置しないでよ。僕にわかんない話題なら、僕のいないとこでやってよ。

 末っ子って、結構寂しがりだ。

 上の兄弟に構われるのに慣れきってると、急にぽつんと放り出されて戸惑うばかりで。

 そんなの癪で、悔しいから言ったりはしないけどさ。

 …なかまはずれにしないでよ。

 前は、夜は一緒に遊んでくれたのに。

 でもそんなこと、僕には言えない。

 プライドなのかな、僕が意地っ張りだったのかな。

 後から思えば、正直に「遊んで」って言えば良かったんだ。

 この時に、二人が生きている内に、思い切って。

 二人が疲れ果てるまで、振り回しちゃえば良かったんだ。

 だけど振り回されるのは僕ばかりでさ。

 何やってんだろ。僕も、兄も、姉も。

 

 つまらない日々の中、悔しいから仲間に入れてなんて言えなくて。

 そもそも興味のないゲームだったから、尚更仲間に入りづらくて。

 夕飯の時に二人が「今日で攻略達成」って盛り上がってたから。

 ゲームをやる二人に本当は関わりたかったから。

 僕も同席させて貰って、漫画を読みながら二人の一喜一憂を見守って。

 …遺憾ながら、姉さんの言ってることを理解して。

 え。なに。その顔。

 兄さん、アンタ本当にどうしたの…?

 ホントに何、その良い笑顔。

 僕、兄さんのそんな顔、初めて見たよ…!?

 姉さんも隣でぽかんってしてて。兄さんの顔に魅入ってる。

 ああ、こんな馬鹿げた状況。

 言っちゃ何だけど、殺意が湧いた。

 ゲーム如きに僕達にも見せたことのない顔をする兄さんが、本気で恨めしかった。

 姉さんと二人で「埋めるか」って相談してみたけど、兄さんはテレビから帰ってこない。

 その笑顔があんまり幸せそうだったから。

 何となく眩しく感じて、結局僕と姉さんは「兄さん、幸せそうだね」で流したよ。

 何だかんだ言っても、あんな幸せそうなら良いかって思えちゃったし。

 本当に、物凄く、悔しかったけど。



 それから暫くは、平和な日々が続いた。

 兄さんも姉さんも落ち着いて、だけど兄さんはあれ以来幸せそうだ。

 それを見て姉さんも幸せそうに笑うから。

 何となく胸の中がもやもやしたけど。

 二人が楽しそうだし、生活は前に戻ったし。

 僕もそれで良いかって思った。

 そんな折りに、余計な情報が入ってきたのは誰の陰謀だ。

 あの憎きゲームのファンディスク発売って…

 何となく、先が見えた気がした。

 そして予想通り、二人はそれを予約注文して。

 僕は再び放置される日々の到来を予期し、がっくりと膝をつきそうになった。


 そのゲームの発売日に、引き取りに行った二人は事故にあった。

 僕が予想もしなかった、呆気なくも突然の終わり。

 もう二人がどこにもいないなんて。

 嘘だ。

 冗談でしょ。

 これは誰のせいなの? 誰が、こんなことを起こしたの?

 誰が招いたとも言えない。

 そんなゲームじゃなくて、僕に構ってって、子供っぽく頼めば良かったのかな。

 二人が何処にもいないって分かってるのに、僕の視線は彷徨うばかり。

 本当は、どこかにいるんでしょう?

 いないはずの二人を探して、僕の目は家の中を虚ろに彷徨う。

 何もする気力が起きない。何もできないよ。何にもしたくない。

 もう、息すらも。


 二人の葬式は最悪だった。

 涙の止まらない母さんと、父さんの慟哭。

 それを何処か一歩引いた様な、透明な壁越しに見ているような、現実感のない僕。

 兄さんの三人の彼女が、兄さんの棺を前に醜く争いながら泣き崩れる。

 姉さんの友達が、顔を真っ赤にして泣いて怒ってた。

 …「あんな死に方で、現実のイケメン道連れに死ぬなんて…!」って………

 流石、姉さんの友達。こんな状況で気にする点は其処なの?

 でも、本当はちゃんと姉さんを悼んで泣いているのが、見れば分かるから。

 涙を流すほどの、二人の死の実感が持てない僕は。

 最悪の葬式を、夢の中から眺める心地で。

 泣いた方が良いのかなって思いながら、泣けないまま。

 これは最悪な葬式の、最悪な悪夢だと。

 そう信じたい思いだったから。

 僕は、夢の中に逃げようとしていた。


 何をする気力も沸かなくて。

 週末の家の中。

 二人がいないなんて、まだ信じることもできないまま。

 父さんも母さんも、気力を亡くした様に空っぽの抜け殻みたい。

 三人の子供の内、僕だけが生きている。

 なんで、僕だけ?

 独りぼっちは嫌だよ。

 置いていかないでよ。

 仲間はずれは嫌だって、ちゃんと言えば良かった。

 そうしたら、僕も仲間はずれにならないで済んだの?

 ああ、でもそうしたら。

 そうしたら、今度こそ本当に父さんと母さんは死んじゃうかも知れない。

 今だって、今にも死にそうな顔してるのに。


 母さんは、一日中泣いている。

 兄さんと姉さんの思い出を家の中に見つけては、ずっと泣いている。

 父さんは、ずっと仕事に逃げている。

 家に帰ってくるのも辛いという顔で、それでも僕達を心配して家に帰ってくる。

 父さんが一番早く、立ち直った。

 立ち直らなきゃいけなかった。

 父さんは大人の男で、頼りない僕と母さんは放っておいたら死にそうな顔をしてたから。

 次に立ち直ったのは、母さん。

 自分は母親だから、僕の為にもしっかりしなきゃって思ったんだって。

 二人ともあんなに抜け殻っぽかったのに。

 僕だけが立ち直れない。僕だけが、いつまでも兄さんと姉さんの影を探してる。

 今にも後を追っていきそうで、恐かったって。

 後で父さんと母さんがそう言っていた。


 二人が死んでから、約一週間。

 姉さんと仲が良かったお店の店員が電話をくれた。

 仲が良くっても、姉さんの死を知らなかった店員さん。

 生きてると思って、家に電話をくれた。

 姉さんが予約していたゲームの引き取り期限が、明日までだって。

 外に出るのは辛くて、学校にも足が向かなかった僕。

 まあ、忌引きと週末が重なって、まだ学校に行かなくても良かったんだけど。

 店員さんの言葉を聞いて、ああ、あのゲームかと思った。

 二人があんなに楽しみにしてたゲームなんだから、霊前に供えてあげなくちゃ。

 そう思って、僕は急いでゲームを引き取りに行った。

 代金は、予約した段階で前払いしてあった。

 だから僕は、本当に引き取るだけ。

 それだけのつもりだったんだけど。


 ふと、気になったんだ。

 二人があんなに熱中した、このゲーム。

 悔しくって中身は知らないままだったけど。

 実際、これってどんなゲームなんだろ?


 兄と姉(主に兄)に供えるにも、多分コンプリートしたセーブデータを付けた方が喜ぶ。

 妙に確信していた。

 そうしたら、兄さんがあの一生一度きりの良い笑顔で成仏しそうな気がした。

 何となく思っただけだったけど、実際にそうだろうと思えたから。

 僕はまだ半分以上抜け殻だったけど。 

 現実に立ち直るリハビリがてらって言ったら、アレかな。

 でもそんな感じで、もう現実には喜ばせることもできない二人の為に。

 二人の喜んだ顔を見たい一心で、興味もないゲームを起動させた。

 それをやることで、何処にもいない二人と繋がれる気がしたんだ。

 多分錯覚だって分かってたんだけど。


 途中何度も逃げたくなった。

 男がやるゲームじゃないって思った。

 砂吐いて砂吐いて砂吐いて…

 姉さんの友達にも協力して貰って、頑張ってテレビ画面に向き合って。

 あれ、僕何やってるんだろうって、偶に正気に戻って。

 それでも頑張って、ゲームをやった。

 ファンディスクだけじゃ話が分からないし、理解できないし。

 仕方がないから姉の部屋を漁って、本編もプレイして。

 これって本当に二人の為になるんだろうかって、灰になりかけて。

 そんな時に限って、夢に二人が出てきてサムズアップ。

 あ。期待されてる。

 そんな夢に励まされて結局全部やっちゃった僕は、馬鹿じゃなかろうか。

 兄と姉の為と言いつつ、そんなことをやり遂げた僕。

 端から見たら、きっと凄い滑稽。

 自分の事じゃなかったら、僕だって嘲笑うのに。

 自分のことだから、苛々と鬱憤は溜まるし。

 なんで二人とも死んだんだよ、馬鹿野郎って、夕陽の中で叫んじゃったし。

 僕のキャラじゃないのに。

 あの時は、本当に苛々が頂点に達してて。

 柄にもない青春っぽいこと。

 でも実体は、乙女ゲーへの鬱憤。

 アイツ夕陽の中で叫んでたぜって、学校で冷やかされるし。

 もう、本当に最悪だよ。

 二人が死んでから、本当に最悪なことばっかり。

 でも気付いたら、立ち直ってる僕がいてさ。

 何コレ。僕って単純?

 物凄く、虚しくなった。

 でもそこに、あの二人の作為があったんじゃないかって。

 勝手ながらも、そう思うことにして自分を宥めた。

 これはきっと、二人からの立ち直れって啓示なんだろうってさ。

 馬鹿馬鹿しい限りだけど、そう思えちゃったんだ。



 その後、僕は何とか社会復帰したさ。

 中学生で社会復帰って何だよって思ったけど。正にそんな感じだった。

 それから平凡に普通の日常を送って、気付いたら二人を探さなくなって。

 僕はいつの間にか、自然に二人の死を受け入れる様になっていた。

 そんな自分に気付いて、愕然としたりしなかったり。

 そうやって、僕は大人になっていった。

 偶に二人の死に胸が痛んで、傷ついて。

 二人がいない現実に絶望したり復活したり。

 波があるなぁって、偶に情緒不安定になる自分の心情を笑って。

 笑える様になって。

 僕は大人になった。

 大人になれた。

 そのことに、両親はまた感動して。

 いつの間にか兄弟最年長になっちゃったなって、虚しく思って。

 二人の年齢を超えちゃったことが、物凄く寂しい。




 …と思っていたら、落とし穴かな。

 うちの兄弟、若死にの呪いでもかけられてるのかな。

 危険なことは日頃から避ける様にしてたのに、巻き込まれた海難事故。

 海の真ん中で、救助はまだ来ない。

 溺死は嫌だな。

 うんざりしながら、僕は諦めの溜息。

 諦めの早いほうだった僕は、最後の救命胴衣を子供に渡した。

 こんな船、乗るんじゃなかった。

 まあ、乗らないと仕方がない状況だったんだけど。

 また両親が泣く。

 最後に考える時間は結構あって。

 ぼんやり海に沈みながら、僕は思った。

 これで終わりかって。

 呆気ないな。足掻くにも限界があるって、諦めちゃった自分を自嘲して。

 こんなんじゃ、兄さんにも姉さんにも怒られる。

 ああ、二人はどうしてるだろう。

 もしかしたら、あの世ってところで待っててくれるかな。

 僕のこと、叱ってくれるかな。久しぶりに。

 叱ってくれなくても、会いたいな。

 二人に会いたい。

 最期の最後だってのに、思うことが既に死んだ二人のことなんて。

 日常に残したアレコレに、未練はあったけど。

 僕のことを待ってる人も、少なからずいるって知っていたけど。

 僕って、自分で思うよりもずっと薄情だったんだ。

 父さんが泣くのに。母さんが泣くのに。

 あれから家族が増えて、お嫁さんも子供もいるのに。

 でも何となく、生きてる奴らは上手くやるだろうって。

 根拠もないのにそう思ったのは、立ち直れないと思った自分が立ち直った過去があるから。

 懐かしい兄弟達に、会いたいって願望が消せなかったから。

 本当は死にたくないよ。

 死にたいなんて、思ってない。

 家に帰りたい。待ってる人達に、ただいまって笑いたい。

 でももう、無理なんだ。

 でももう、終わりが来ちゃったんだ。

 何の因果か分からないけど、僕ももう、死んじゃうみたいだ。

 最後に会いたい人は誰だろうって、ぼんやり思って。

 それが兄さんと姉さんだと気付いて、既に自分で終わる気なのかよって。

 そう、ぼんやり自分でつっこんで。

 そうして僕は、終わりを迎えて海に沈んでいった。

 生きることもできず、死んでいった。

 

 最後に、来世で兄さん達と会いたいなって。

 また、あの二人と兄弟に生まれたいなって。

 そんなことを思いながら………



 ………思いながら、死んだせい…か?


 え、何の因果、これ。

 僕は確かに死んだ。

 本当の本当に死んだ。

 生きながら海に沈んでいくのは、物凄く苦しかった。

 だけど何だろう、これ。

 僕は確かに本当に、死んじゃったから。

 だからこうしていま、別の姿で生きているのは、生まれ変わったって事なんだろうけど。

 それでもこんな形で、こんな姿になるとは思ってなかった訳で。

 確かに思ったさ。

 確かに、あの二人の弟としてまた生まれたいって、思った。

 実際にそうなれて、あの二人とまた兄弟になれて、嬉しいさ。認めるよ。


 こんな世界に生まれるとは予想もしてなかったけどね!!


 何この状況。

 誰がこの因果を与えたのか、生まれ変わらせてくれたのか。

 そんなの分かんないけどさ。

 感謝しないでもないよ。

 最期の願いを叶えてくれたんだ。

 うん、誰か知らないけど感謝しない訳じゃない。

 でも、それで不満がない訳じゃない!!


 なんで僕が、なんで僕が!!

 兄さん達のはまった乙女ゲーの世界で、攻略キャラにならないといけないんだよ!!

 

 僕の不満を言葉にするなら、その一言に尽きた。


 …僕は、どうやら乙女ゲームの世界で、その登場人物として転生してしまったらしい。

 うん。自覚あり。

 だって僕、兄さん達の墓前に捧げる為に、羞恥を捨ててプレイしたし。あのゲーム。

 本編も、ファンディスクも、その後に出た続編もやった。

 趣味じゃないけど、兄さん達に捧げてやった。


 この世界で新たに生まれ、兄は僕と同じく攻略キャラ。

 姉はラスボス的なヒロインのライバルキャラ。

 こんな状況で、僕ら何やりゃ良いの? 何を求められてるの?

 与えられた役割、忠実にこなさないといけないの?

 無理でしょ、それ。

 だって三人も転生した時点で、既に破綻が見える。

 破綻した未来が、迫ってる気がして気が気じゃない。

 だけど兄さんが笑う。

 未来が不確定になったなら、更に幸せになることも不可能じゃないだろって。

 だけど姉さんが笑う。

 ここは私達にとっては現実なんだから、素直に思ったまま生きればいいって。

 そんな二人を見て、僕も笑えた。

 二人がまた、僕の兄弟として側にいるんなら、それでもう全部良いかなって。

 安直で簡単だけど。

 『僕』の最期の希望を叶えて貰えたんだから、それで満足してれば良いよね。

 こんな世界で何やればいいのか分かんないし、与えられた役割は鬱陶しいけど。

 それでも、僕には兄がいるし姉もいる。

 それで全部笑って終わらせておけと、二人が言う。

 だから僕も、ちょっと思ったんだ。

 この世界で、ちょっと変わった兄弟として人生やり直すのは悪くないってさ。

 だってゲームの中なら、少なくともいきなり死なないし。


 バッドエンドルートに入らない限り。


 また不遇の死は嫌だよ。

 兄さんと姉さんに置いて行かれるのも、嫌だ。

 だから僕は全力で、嫌な未来を回避しようと思う。

 具体的に言うなら、ヒロインはどうでも良いから兄さんと姉さんを死なせたくない。

 僕も死にたくない。

 折角貰えた、人生やり直すチャンスだし。

 一所懸命足掻きに足掻いて、今度こそ幸せになってやる。

 そう決意して、僕は今度は諦めないことを誓った。

 なけなしのやる気を総動員して、未来を操作してやろうと決めた。



 まあ、だけど今はまだ良いよね。

 まだ、ゲームの物語は始まっていない。

 だから今だけだよ。

 今一時のことだけ。

 僕は自分にそう言い訳をして、兄や姉に僕の精一杯で甘える。

 今は未だ、何も始まっていない。

 与えられた役割も、今は未だ保留状態。

 だから僕は思う存分、二人に甘えて縋り付く。

 ある日当然崩壊を迎え、破綻しちゃった子供時代。

 それを取り戻す為にも。

 僕は、思う存分、三人兄弟の楽しい日々を満喫する。 

 ちょっとだけ、遺してきた人達に罪悪感を抱きながら。


 



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[一言] 砂糖吐きながら乙女ゲームやるって拷問かよwww
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