第二話 朝の会にて
……はぁ。
とんだことになってしまった。
俺は、痛い集団の中に一人だけ孤立した存在となっている。
今、教室の前の教卓にいるから分かるのだが、俺以外の皆が皆、一目見ただけで痛いと分かる程の格好をしている。
「よーし!では漆黒から自己紹介をしてくれ!」
っと、考え事にふけっている間に自己紹介まで話が進んでいたようだ。
痛い集団がこっちを凝視してくる。
「あ、え、えーと……先生から紹介がありましたように、漆黒翼と申します!転校なんて初めての経験なので不安ですが、どうぞよろしくお願いします!」
パチパチパチパチパチ……
自己紹介が終わったと同時に拍手が沸き起こる。
恥ずかしながら少々照れてしまった。
「漆黒に何か質問がある人は手を挙げてから言え!」
先生が勝手に話を進めている。
まぁ、答えられる範囲ならばいいのだが……。
「はい!」
皆が手を挙げようかと迷っている時、一人の男の子が挙手した。
その男の子の特徴は……俺が言うのもどうだと思うけど、チビだ。
身長160cmの俺から見てもチビに見えるということは、140cmぐらいではなかろうか。
「よしっ!獄天堂!」
先生がその男の子を当てる。
というか、男の子の名前すごいな。
そうしている内に獄天堂が喋りだした。
「漆黒さんは、身長何cmなんですか?」
あ、やっぱりその質問来ましたか。
「大体、160ぐらいです。」
「……そうですか」
心なしか、獄天堂の声のトーンが下がったような気がした。
「よーしっ次ぃっ!!」
先生のテンションがやけに高い。
もしかしていつもこんな感じなのだろうか。
「…………。」
一人の男の子が無言で手を挙げた。
この男の子は……暗そうだ。
目付きが悪く、身長はかなり高いと思われる。あ、あと髪の長さがとてつもなく長い。
「うむ、闇暗!」
闇暗……そういう名前なのか。
というか、最初の方から思っていたのだがこの学校、全員こんな中二ネームなのか!?
格好だけではなく、名前までとは……。
恐るべき、中二学院中学校。
「……漆黒の翼。お前は何を望んで何を目指す。して、信じる先に見えるのは何だ?」
……はい?
「……え、えーとぉ……要するにどういう……こと……?」
「この学校ではどんなことがしたいか、ということらしい」
隣にいる先生がナイスタイミングで翻訳をしてくれた。
てか、あの言葉そういう意味だったのか。
そういうことなら、俺には最もやりたいことがある。
「あ、僕は……その……友達が、作りたいんです」
………………………………………。
教室の空気が完全に止まった。
俺……そんな変なこと言ったっけ?
「だから……その……友達が」
「はーいぃぃ!!!質問タイム終了ぉぉおおおおお!!!!」
俺がもう一度話そうとした時、先生がとてつもなく大きな声でそう叫んだ。
な、なんなんだ……一体……?
「と、とりあえず漆黒は席に着きなさい。」
先生が話を変えようとしているのが丸分かりだ。
しかし、仮にも相手は先生だ。とことん質問攻めをする、というのは駄目だと俺でも思う。
俺はその理由は痛い集団の誰かに聞くことにし、先生に問いかける。
「あのー……僕の席はどこに……。」
「ん、あぁそうだった!まだ決めてなかったんだっけな!アハハハハ……あ、花吹雪の隣が空いているな!あそこが今日から君の席だ。」
「は、はい!」
先生の指差す所へ、ゆっくりと移動する。
コツコツコツコツ…ガタッ
「ふぅー、やれやれっと。」
と、俺が席に着いた直後に
『キーンコーンカーン……嫌だぁぁぁあああ!!まだ…想いを伝えてないんだ!死にたくないんだぁぁあああ!!』
と、チャイムが流れて朝の会が終了した。
「はぁ……。」
転校初日目。いきなりこんな目に遭うとは想像もしていなかった。
俺が疲労交じりのため息をついた時だった。
「あなたが転校生でして?」
隣にいる女の子が俺に声をかけてきた。
この子が花吹雪という人だろう。
この子は、周りと比べたら中二という感じはあまりしないのだが……その……お嬢様、又はお姫様か!?と思うぐらいのすごいドレスを着ている。
自分をそういう人だと勘違いしているんだなぁと勝手な解釈をしてみて、花吹雪に返答した。
「あ、僕漆黒翼って言うんだ、よろしくね!」
「あーらぁ、なんて痛い名前なんでしょう!それにその格好、ナンセンスですわ!私に話しかけないでちょうだい!」
そう言って、花吹雪は気取った足取りで別の教室へ行った。
「……え?」
いきなりのことに、まだわけが分からない。
俺が呆然としている時、俺のことを朝の会からずっと見ていた女子が近寄ってきた。
「花吹雪さん、可愛いし頭いいのにプライドが高くて性格悪いのよねぇ……まぁ気にしないで、大丈夫よ!多分あなたに嫉妬したんじゃないかしら。ウフフフフフ……。」
そう、不気味に笑う女の子に引きながらも話しかけてみる。
「あの……あなたは……?」
その子はずっと不気味に笑っていたが、俺の言葉に反応したのか、笑いをやめて話しはじめた。
「私の名前は、【月夜 爛漫】よろしくね!翼!」
「あ、こちらこそ……」
「それで……ちょっとあなたに相談したいんだけど……」
「え、何?」
「私と……友達になってくれない……かな?」
「えっ?」
今のえっ?は素で出た言葉だ。
まさか、この学校の最終目的が初日にクリアできるかもしれないことになるなんて……。
しかし……俺はこの子のことをよく知らない。
しかし、この子も俺のことは全然知らないはずなのに話しかけてきてくれた。
どうする……?
そういえば、転校した後の学校ってどうやって友達を作るのか考えたことはなかったな。
しかし、この子のことを全然知らない……。
しかし、この子も俺を全然知らない……。
しかし……でも……いや……だが………………。
「うん、よろしくね、爛漫!」
こうして、友達がやっと一人できたのであった。