#3 喧嘩
『お・・・おはようございます』
寮生活2日目の朝。祐菜がリビングに行くと皆がリビングに集まってトランプをしていた。
「おそよう、ゆーな!アンタもトランプやる?」
桃香は輝の隣に座って祐菜の方も見ずにそう言った。
「あら、ユナちゃん♪おにぎり食べる?」
柚希は相変わらずの笑顔で言った。
『あ、はい。貰います』
「ちょっと、柚希!俺の為に負けなよ!」
葵はそう言いながら口におにぎりを銜えている。
祐菜は柚希からおにぎりを貰い、皆の様子を見ていた。
正しく言えば、必死に皆の顔と名前を覚えていたのだ。
『あれ?湊・・・君は?』
湊だけがリビングにいなかった。
「外で喧嘩でもしてんじゃないの?」
輝が突然呟いた。
『けっ・・・喧嘩?!』
祐菜が叫んだが、皆は当然のような顔をしていた。
「・・・悪い?」
『ひゃぁぁ!!』
突然真後ろで湊の声が聞こえた。
振り返ると湊が無表情で立っている。
今思えば、湊の声を聞いたのは初めてかもしれない。
湊は空いていた椅子に座り、おにぎりを一つ銜えてトランプの様子を無表情で見ている。
呆然としている祐菜に、柚希がそっと近寄って来た。
「喋ることが嫌いで喧嘩が好き。それが湊なのよ」
柚希は祐菜の耳元でそう呟き、笑顔で祐菜を見て、再び呟く。
「でも、根は優しい人だから、嫌いにならないであげて?ね?」
『別に嫌いには・・・』
「さーぁ!!次はユナちゃんも湊も一緒にトランプしましょ♪」
皆でやっていたトランプがひと段落した様子をみて柚希は突然そう言った。
『え、あの・・・』
祐菜が戸惑っていると柚希は笑顔で振り向いた。
「安心して、ユナちゃん♪私がたっぷりいじめてあげるから♪」
『ふぇぇぇ?!』
この後のトランプで祐菜が負けたのは言うまでもない。